96.事情聴取と完全犯罪

 なぜか俺は警視庁本部庁舎にいる。


 なぜかではなく、所謂事情聴取ってやつだ。


 朝起きてテレビを付けたらニュースでやっていた。テロとかなんとかって……。映像までは出ていなかったが、多くの人が気づいていたようだ。


 ネットで調べてみたがやはり映像は流出していないようだ。短い時間だったから撮られなかったのか、消されたか……。


 情報板にはテロだけではなく、放火、ガス爆発など書かかれており、宇宙人陰謀説まで出ていた。笑えねぇ。


 そして引っかかったのが、映画の撮影という話。撮影スタッフらしき人を見たという書き込みがいくつかあった。俺たちのことだろうか? 余計なことを書いてくれるものだ。


 警視庁本部庁舎の会議室らしき部屋で、昨日の化生モンスターとの戦闘の映像を見ている。ホルダー管理対策室の数名プラス官僚か政治家のような人間数名がいる。月山さんは俺の横に座っている。


 昨日も見たが凄い映像だな。ただ昨日の映像から余計な場面をカット編集されたものだ。


 編集された映像は五分にも満たない。実際も十分とかかっていない。そんな映像を見終わった後、月山さんが事の経緯を説明。


「君たちは何をやったのか理解しているのか! ホルダーや化生モンスターのことは表には出せないものなんだぞ! それをあんな大騒ぎを起こすとは! どれだけ関係各所に迷惑をかけたと思っているんだ!」


 官僚か政治家のような男が喚き散らす。知るかボケ。


「それで、当事者の君の意見は?」


 この場を仕切っているこの男が、ホルダー管理対策室長の沢木管理官らしい。オールバックの四十台前後の目つきの鋭い渋メンだ。


「先ほどうちの月山が説明したとおり、不可抗力だ。そもそも、依頼を出したのはホルダー管理対策室だ。その依頼を受け化生モンスターを討伐しに行ったら、その化生モンスターが物理と水属性が無効の化生モンスターだった。こちらも死にたくないので持てる力で抵抗したまで。そもそも、そんな重要な情報を寄こさないほうが悪いのでは?」


 半分本当で半分嘘だけどな。


「では、非はないと?」


「どこにある? こちらは依頼どおり化生モンスターを討伐しただけだ。今まで放置されてきた七等呪位を討伐したんだぞ。ありがたられても、とやかく言われる筋合いない」


 月山さんから肘鉄が入る。痛いんですけど?


「……」


「ふ、ふざけるな! 化生モンスターを倒すのが貴様らの仕事だろう!」


 おいおい、なに言ってんのこのおやじ。


「仕事? ホルダーって職種だったのか? 今さっき、あんた表には出せない云々言ってたよな? そこんとこどうなのよ? そもそも、あんた誰よ?」


 月山さんから足に蹴りが入る。だから、痛いんですけど。


「なっ!? 事務担当首相秘書官の田端だ。覚えておきたまえ!」


「たかが公務員、なぜそんな奴のことを覚えなくちゃならない? 所詮公僕風情だろう? なに偉そうにしてんだよ。国民の税金で食わしてもらってんだろうが、ふざけんな」


「な、なにぃ……」


 田端という男の顔が怒りMaxの真っ赤に変わる。湯気でも出そうなくらいに。こんなのが首相秘書官なの?


 月山さんから連続で足に蹴りが入る。だから、痛いって!


「田端秘書官。冷静になっていただきたい。風速君といったな、君も挑発はやめたまえ」


 何かまた喚き散らそうとしている田端と俺に沢木管理官が釘を刺す。


 田端みたいな奴は好きになれない。こういう老害や世襲政治家どもが日本を駄目にしてきた。くたばっちまえ!


「君は依頼を受けその報酬を受け取っているのであれば、それは仕事ではないかね」


「何かした行動という意味での仕事ならそうだが、生計を立てる手段としての仕事なら違うぞ。金を稼ぐためにやっているわけではない」


「では、なんのためにやっているのだね?」


「趣味だ」


 沢木管理官以外全員、開いた口が塞がらないって感じで俺を見ている。月山さんもだ。


「趣味か。ならば報酬はいらないと?」


「七等呪位を単独で狩れる俺が金に困っているとでも?」


 困ってます。本当は……。まあ、ブラフって奴だ。


「ならば、なぜ組織など立ち上げた?」


「横やりが入るのがうざいからだ。そこの秘書官のようにな。そのために神薙家にバックに付いてもらった。そのための組織だ」


 田端もクレシェンテの後ろに神薙家がいることを思い出したようで、少し顔が青くなっているな。所詮こいつも権力に縋りつく蛆虫と同じだ。


「報酬を寄こさないというならそれでも構わない。その代わり、あんたたちを喜ばせるようなことは今後一切しない」


「……」


「俺は八等呪位以下は基本狩らない。七等呪位専門だ。七等呪位を狩れるホルダーはどのくらいいるんだ? 依頼の地図を見る限り真っ赤っ赤だよな? 七等呪位は腐るほどいるんだ、わざわざ依頼の出ている化生モンスターを狩る必要などないと思わないか?」


「脅すつもりかね」


 馬鹿じゃねぇの?


「脅す? 脅すってのはな、八等呪位以下の化生モンスターをあんたたちの家にけしかけるってことを言うんだ。ホルダー以外対処できない完全犯罪の出来あがりだ。この中でホルダーなのは沢木管理官だけのようだしな。まあ、そのレベルでは十等呪位も倒せるかどうかわからないが」


 鑑定で全員を見たが沢木管理官以外は全員適合率が低くホルダー不可。沢木管理官はLv3のホルダーランク11453。ホルダーが一万人以上いることがわかった。意外と多いのか?


 全員の顔が青褪めるのがよくわかる。だから、なんで月山さんも一緒に青褪めてるの! あなた味方じゃないの!


「そうか……君は鑑定持ちだったな」


 情報が早ぇな。もしかして逐一報告してるのか水島顧問。


「はぁ……先ほどまでの件は謝罪しよう。今回の件も我々で対処する。それで矛を収めてくれないかね。我々は神薙家のご当主と上手くやっていきたいと思っている」


 話のわかる人でよかったよ。


「沢木管理官! 君は何を言っているのだね!」


「田端秘書官。ならば、この件の対応はあなたに一任しましょう。総理と話して決めていただければよろしい。その後で、どのような結果になろうと私は一切関知しない。私はまだ死にたくないのでね」


「なっ!?」


「SPにホルダーを雇うことをお勧めしますよ」


 やらねぇよ! 本当だよ? 総理暗殺だなんて……。



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