95.人身御供

「どうしましたの!? 恢斗」


「何か不具合でも起きたのか? それとも、トイレタイムか?」


 トイレタイム違うから! もっと大事なことだから!


 さて、どうする? ここまで来て撤退するか?


 これはどう考えても、依頼を出したホルダー管理対策室が情報を開示しなかったミスだ。


 全員集合したところで、化生モンスターの鑑定結果を教える。


「物理攻撃が効かない?」


「水系の攻撃も無効か」


 瑞葵の双剣水弧と俺の水流槍は戦力外通告を受けた。物理が無効な以上、水属性以外の魔法か武器の属性付き特殊攻撃しかない。


 と言っても、魔法を持っているのは雷魔法を持つ俺だけ。それもプチだけど。


「撤退ですわね……」


「こればかりはどうしようもないな」


「……やりようはある。だが、チャンスは一回きりだ」


 瑞葵と麗華はえっ? って顔して俺を見る。


「まず、瑞葵に青龍刀・麒麟を持たせる。俺の合図で戦闘が始まったら、すぐに麗華は勇撃の波動を使う、その後は黒魔導士の杖のダークバレットを瑞葵は青龍刀・麒麟の雷光を撃ちまくれ」


「恢斗はどうするんだ?」


「俺はフレイムと風切りを使いまくる。問題はそれで倒せなかった場合……即撤退だ」


 ありったけのTPを使い一撃必殺を狙った一発勝負。


「やるか?」


「やりますわ」


「やる価値はあるな」


 勝利の鍵はこの化生モンスターがどのくらいの耐久力を持っているかによる。


 それと、こんな街中で派手な攻撃をして問題ないのかってことだ。間違いなく騒ぎになると思う。特に俺のフレイム。雷光は使ったことがないからわからないが、これもなんかヤバそうな気がする。


「赤星さん、悪いが撮影は一か所だけでやってくれ。もしもの場合すぐに逃げれる場所でだ。もしもの場合でなくても騒ぎになる恐れがあるからな」


「わかりました」


 じゃあ、やってみますか。騒ぎになったらそれはホルダー管理対策室のせいだ。俺たちのせいではない。


骸骨戦士スケルトンウォリアー召喚! 青龍刀とこれを交換しろ。それと俺の合図で斬撃を撃ちまくれ」


 骸骨戦士スケルトンウォリアー青龍刀・麒麟と堕罪の剣を交換し青龍刀を瑞葵に渡す。堕罪の剣は斬撃が使える。斬撃は物理攻撃だが、この剣は闇属性も持っている。もしかしたらダメージを与えられるかもしれない。


 精霊・逆波せいれい・さかなみを囲むように位置取る。


 俺が麗華に指で合図。数秒後、麗華が頷いたので勇撃の波動を使ったのだろう。


「 Ready Shoot!」


 俺の合図で攻撃が始まる。俺は右手に霊子ナイフ、左手に火炎の杖を持ち並列思考で同時撃ち。こんなこと今までやったことないが、なんかできそうな気がしたのでやってみた。問題なく同時発動している。並列思考、凄ぇな。戦術が一つ増えた。


 それにしてもヤバい。何がヤバいかって? テレビで見たことがある災害の火災旋風そのものなのだ。


 フレイムによる炎の柱が風切りで竜巻に変わり、雷光で竜巻の周りに稲妻が走りダークバレットと闇属性の斬撃で赤黒く輝く。


 まじヤバいと思いつつも、手を止めるわけにはいかない。瑞葵も麗華も目を泳がせながらも攻撃の手を止めない。


『レベルが16になりました』


ーーーー

ーーー

ーー


「て、撤収!」


 遠くからサイレンの音が聞こえる、いや、聞こえない、聞こえていないぞ! 


 心臓がドキドキ、いやバクバクとしている。夜逃げの如く、何食わぬ顔しながら速足で荷物を抱え、一番近くの出入り口から公園を出る。誰とも会っていない。どこにあるかわからない防犯カメラについては不明。映っている可能性はあるがホルダー管理対策室がなんとかするだろう。いや、しろ!


 全員、終始無言で車に乗り込み事務所に戻る。


「遅かったですね。それと凄いサイレンが鳴っていましたが、何かあったのでしょうか?」


「「「「……」」」」


「???」


 月山さんは帰られたようで星野主任が出迎え。もうすぐ二十三時になる。みなさん帰り支度をしているが、俺が待ったをかける。


 中央のテーブルに俺たちと夜勤組が座り、撮ってきた映像を見せながら経緯を説明。星野さんの顔が引きつっている。


「この騒ぎって……」


「そう、このサイレンの原因は俺たち……です。至急、ホルダー管理対策室に連絡を取ってください。今回の映像を提供してもいいです。ですが、こうなったそもそもの原因は、ホルダー管理対策室がちゃんと情報を開示しなかったことにあります。そこは強く出てください」


「はぁ……わかりました。みなさんは、大学があるので帰っていただいて結構です。ですが、必ず風速さんは大学が終わり次第、事務所に来てください。必ずです! いいですね、必ずですよ!」


 必ず、三回頂きました……。星野さん、目が怖いんですけど……。


「はい……」


「わ、わたくしは明日用事があるのでパスですわ」


「そ、そういえば、私も明日は忙しかった……ような?」


 こ、こいつら、俺を人身御供にするつもりだな!?



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る