92.消滅

 瑞葵たちの連携が上手くいくほど、俺の危機察知の警鐘が大きくなってくる。


 相手が八等呪位である以上、今の瑞葵のステータス値であればどんな攻撃を受けても致命傷になることはないと思う。装備だって俺よりいい装備を身に着けている。まあ、これが七等呪位なら話は別だが。


 しかし、何だろうこの落ち着かない胸騒ぎ。


 考えられる脅威は二つ。一か八かの自爆技か或いは即死技みたいなものを持っているかだ。


 おそらく、自爆技なら今の瑞葵なら多少怪我をしても耐えれると思う。問題は即死技だった場合。レベル依存で効果が変わるとかだと、化生モンスターとレベルが二十くらい離れている瑞葵にはヤバいかもしれない。


 一応、助けに入る準備だけはしておこう。


 自堕落天使ディソルートエンジェルに二度目の水刃がクリーンヒットしたところで、自堕落天使ディソルートエンジェルが空に飛び上がり間合いを取る。


 そしてすぐに光に包まれる。回復されたか……。元が天使だからそのくらい使えて当然か。


 回復?


 下手い!


「瑞葵! 二体を指輪に戻せ!」


「ど、どういうことですの!?」


 気だるそうだった自堕落天使ディソルートエンジェルの表情がニヤリとした表情に変わり、下に向け手を向ける。


 そして恐れていたことが起こる。死疾走狼プロンプトウルフ・UD骸骨戦士スケルトンウォリアーが光に包まれる。


「も、戻りなさい!」


 凛々しい顔だが死んだ魚の目をした死疾走狼プロンプトウルフ・UDが悲しそうな表情で俺を見て消えていく。


 骸骨戦士スケルトンウォリアーからは全身から白い煙がプスプスと上がった状態で消えていく。


 仕方がないここは俺が行くか。加速!


 空中にいる自堕落天使ディソルートエンジェルに火炎の杖でフレイムを浴びせ、水流槍の水球で追撃。霊子ナイフと鬼殺の剣に持ち替え、滅多斬り。この間、およそ三十秒弱。


『アイテムをドロップしました。ホルダーに収納します』


「な、何があったのですの!?」


「不死の指輪を貸してくれ」


「えっ? えぇ、はい……どうぞ」


 あぁ……なんてことだ……。


 親指を隠すことなど忘れて、俺はその場で崩れ去る。


「か、恢斗、どうしましたの!?」


死疾走狼プロンプトウルフ・UDが消滅した……」


「えっ?」


 普通に倒されていればリキャストタイムが伸びる程度で復活するが、アンデッドに関しては普通に倒されるのではなく、消滅の場合は復活しないんだな。


おお 死疾走狼プロンプトウルフ・UDよ! 死んでしまうとは 何事だ! いや、元々死んでたな……消滅かぁ。


 そうか……。凛々しい顔だが死んだ魚の目をした死疾走狼プロンプトウルフ・UDが悲しそうな表情で俺を見ていたのは別れが迫っていたからなんだな。


 短い間だったが一緒に戦い、進化を繰り返しやっと戦力になったと思った矢先の消滅ロスト。安らかに眠れ、死疾走狼プロンプトウルフ・UD


「ご愁傷様ですわ……。その、なんと言ったらいいのか……」


「気にするな。所詮は化生モンスターだ。また、新しいのを育てればいい」


「い、意外と立ち直りが早いですわね……」


 まあな。気を取り直し、立ち上がる。終わったことだ。どうにもならない。そう、所詮は化生モンスターなのだ。また新しいのを育てればいいだけ。大怪我をしたわけでもなく、まして人が死んだわけでもない。まったくもって問題ない。


「そ、そう。立ち直りが早いのも、恢斗らしいですわ……」


 死疾走狼プロンプトウルフ・UDは使えた。あそこまで進化させると八等呪位と同等、七等呪位戦でも役に立ちそうなことがわかった。


 ならば、次はアンデッドではない疾走狼プロンプトウルフを使役すればいい。疾走狼プロンプトウルフのカード(5/20)があったはず。そういえば、疾走狼プロンプトウルフのカードは九等呪位からドロップしたな。疾走狼プロンプトウルフは八等呪位相当だからあれはレアドロップだったのかもしれない。


 俺のハイランクキラーやるな。


「で、瑞葵はアイテムをドロップしたか?」


「してませんわ」


 そうか、していないんだな。今回の戦いはちょっと微妙な展開だ。だが、考えるにおそらく止めを刺した側の総取りではないだろうか。貢献度でいえば瑞葵のほうが多いと思うが、止めを刺したのは俺だからな。俺にドロップしたからそうなのかも。


「それにしても、悔しいですわ」


「まだ、瑞葵には八等呪位は早かったな。全体的な戦い方は良かった。だが、瑞葵の火力不足が問題だな。一体の使役化生モンスターがいて同等。二体の使役化生モンスターだと余裕ってところか」


わたくし使役化生モンスターを育てるべきかしら?」


「まあ、それは追々でいいだろう。運が良ければカードが手に入る。今回の戦いである程度自分の力は把握できたろう? やはり、今はレベル上げが肝要だ」


 レベルが上がってハイランクキラーの比率が上がればカードも手に入りやすくなる。


 それに八等呪位を倒してレベルが上がってしまうと、ハイランクキラーの称号が得られなくなる可能性がある。俺と瑞葵なら七等呪位と七等呪位の間に八等呪位を倒してもレベルが上がらないと思うので、暇なときに八等呪位狩りをしてみるのもありかもな。


「七等呪位と七等呪位のインターバルに一体くらい八等呪位を狩るのもありかもな」


「そうですわね。暇があればですわね」


 だよなー。



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