85.狩り場の選定
水島顧問の説明では先ほどの四つの組織が関東四大派閥として顔を利かせている。その下に中小の組織が連なっているそうだ。東西南北をそれぞれテリトリーとして活動している。
テリトリーといっても暗黙の了解であって、確約や規約などはない大雑把なもの。ただこの四つの組織はお互いにけん制し合ってる。要するに仲が悪いのだ。
特に帝都聖法院は明治政府指導の元に作られた新興の組織なので、ほかの三つの古くから続く由緒ある組織とは特に仲が悪いらしい。
こういう古臭い考え方が俺がもっとも嫌悪するところである。神薙父には絶対に言えないが。
正直、そんなことを言っていられる状況じゃないだろう、と言ってやりたい。
お互いに育成方法、能力、技や呪術を秘匿し、いろいろな研究も個々で完結し外部に出さない。これを一つにまとめれば大きな力になることを知っていながら、上層部の連中は既得権益を守るためにそれを拒む。
そんな中、クレシェンテはそのどの派閥にも属さない異例の組織となるらしい。ならば、それを利用してその体制に不満を持っている者たちを引き抜きたいと思っている。
まあ、それには実績が必要になってくるだろうが、数年もあればどこからも文句が言えないほどの実績を作ってやる。その実績プラス神薙家の力を使えば横槍を入れられることもなくなる。
話は変わるが、どの組織も頑張って
今まで見たホルダーの実力を見る限りでは、八等呪位の
それと、今聞いたが
これは国から認可されたホルダー組織としての義務になる。前はまだ組織を立ち上げていなかったので、そこはセーフだ。単純に知らんかったし。
「これだけの数がいるとなると、七等呪位を狩るホルダーはどのくらいいるんだ?」
水島顧問に質問をぶつける。
「難しい質問だな。七等呪位を単独で狩るとなると全体の二割くらいだろうか。だがそういった者は七等呪位を相手にせず、六等呪位以上をPTで狙うだろう。この地域で七等呪位を相手にしているPTは十組から二十組くらいだろうか?」
「少ないですわね」
「それでは
ただ、六等呪位は5年で百体の七等呪位を生み出すので、時間的余裕はある。そちらを重点的に狩っているのであれば、今以上七等呪位は増えないはず。というのは甘い考えかもな。
ただ問題なのは1年で二百体の八等呪位を生み出す七等呪位だ。猶予期間が短いので、八等呪位以下が増える一方でそれを相手にするだけで精一杯ってところか。
実力的にも強い七等呪位が放置されてきたのではないだろうか。
「いいじゃないか。競争相手が少ないのは願ってもない状況。狩り放題じゃないか。週四日七等呪位の依頼を受けるとして、一か月で八千万円の収入が得られるんだぞ?」
「恢斗……あなたねぇ」
「恢斗らしい考え方だな」
「本気か? 命が懸っているんだぞ……」
瑞葵や麗華は無理でも、俺は毎日七等呪位を狩ることに不満はないが週一の休みは欲しいかな。
地図上の赤点は猶予期間が少ない依頼が出ている七等呪位。白点はまだ猶予がある依頼の出ていない七等呪位。
これを用意していたボードに東京都近辺の地図を張り、白と赤のピンで刺していく。取りあえず、赤ピンからだ。白ピンは明日以降俺たちがいない間にゆっくりやってもらおう。
赤ピンだけでも相当な数がある。そこから猶予期間に余裕がない順にホルダー管理対策室の依頼表からソートする。この猶予期間だっておおよそでしかないそうだ。正確な日にちまではわからないらしい。
時間的に片道一時間くらいの場所がせいぜいだろう。次の日が休みなら片道二時間までならいけるくらいか。それか泊まりもありか?
そこを念頭に置き、明日の狩場を選ぶ。今週は水曜が麗華が用事で瑞葵が金曜が無理らしい。そういうこともあるので、今後の依頼はある程度クレシェンテ側に決めてもらうことにした。
事前のルート確認や遠出の場合の宿泊先などの準備も必要になってくるだろうからな。
で、明日の狩場は都内になった。事務所から車で十分くらいの国立競技場。近いな……。
「いいんじゃないかしら」
「そうだな。すぐそこだから初戦にはちょうどいいのではないか」
「じゃあ、そこにしよう」
受ける依頼表の予定ボタンをポチっと押し、日付を入力して完了ボタンを押せば終了。すぐに反映され受けた依頼表にクレシェンテの名と日付が出る。
「これで完了ね。明日は七時出発でいいかしら?」
「俺は問題ない」
「私もよくてよ」
「私も問題ないな」
「どうだろう。一度君たちの戦いを見たみたいのだが、明日同行してもいいだろうか?」
そうきたか。
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