81.聞きたいこと

 俺の話に眉をピクリと動かし俺に目を向ける水島氏。


「どうやら君が本当のリーダーのようだね」


 おそらく、麗華がリーダーだと思っていたのだろう。肩書的にも所長だしな。イケメン度でも麗華のほうが上だし……悔しくなんかないんだからな! 麗華は女だからイケメン度で負けても……やめよう、これ以上は俺の自尊心がもたない……。


「私が言う後進の育成には興味がないと?」


「そうは言っていない。だが、今のホルダー界での古い育成方法は我々には不要と思っている。俺たちは俺たちに合った新しい育成方法でホルダーを育てる」


「新しい育成方法?」


 古いか新しいかは知らないが、土屋陰陽会やSHAAシャアズでやっているような手緩い方法は不要だ。あれでは人は育たない。


 やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。


 なんて言葉があるようだが、手緩い。千尋の谷へ突き落としてこそ育つというもの。代わりにちゃんとサポートはするぞ?


「相当に自信があるようだが新しい育成方法について聞いてもいいかね?」


 まあ、知られて困ることではないのでいいか。今現在は俺の適合率チートありきでの話だしな。瑞葵や麗華のレベルが上がれば同じことができるようにはなるはず。


「俺たちは最初から八等呪位以下は相手にしていない。最初から七等呪位を相手にして経験を積んでいる。もちろん十分にサポートを付けているけどな」


「馬鹿な!? 死にたいのか!」


「死ぬ? 笑わせる。俺がサポートについているんだぞ。俺にとっては八等呪位以下はザコでしかない。七等呪位でも問題なく一人で倒せる相手だ。八等呪位はまだしも、九等呪位以下をいくら倒したところで経験なんかにはならない。ホルダーの存在意義としてはいいだろうが、経験という意味では無駄だ」


「……」


 まったく理解していないわけではいないようだな。少しは思うところがあるようだ。


 このまま、ダラダラと話をしていても無駄。聞きたいことは山ほどあるが、それすら相手に情報を与えるだけだ。情報を与えるにしても、それはクレシェンテに入ってこちらも情報をもらえるようになってからだ。


「一つ質問をしよう。これに答えてくれたら顧問として雇おう」


「「!?」」


「その質問……とは?」


 瑞葵と麗華が怖い顔で俺を睨んでいる。勝手に決めてごめん……ね?


 だが、ここはチャンスなのだ。これが聞けることで俺の考えに確証が持てることになる。本当のことを答えるかは別だがな。そこら辺は己での見極めが必要になるだろうが参考にはなるだろう。


「ホルダーになった歳とその時の適合率。そして、引退した時の歳とレベル、適合率、ランク。最後にホルダー生涯で称号のハイランクキラーを得た数を教えてほしい」


「むっ!?」


 答えを迷っているというより、俺の質問の意味が分かっていない感じか? 引退した時の状態はわかるが、なぜホルダーになった時の状態を聞いた? ってところだろう。


 だが、これは重要なことだ。


「……いいだろう。ホルダーになったのは自衛隊入隊時の二十二歳。適合率は141%。ホルダー引退時は五十歳。レベルは128、適合率は226%、ランク247。ハイランクキラーは……確かなことは覚えていないが十回前後だろうか」


 麗華が書き留めているので、後で聞いて検証しよう。


 しかし、この人自衛隊か。ホルダー管理対策室の直下に自衛隊の部隊があるって言っていたな。自衛隊なら入隊検査とかいって、ホルダーの適合率を調べるのもあながち難しいことではないな。


 この躊躇なく話したところを見ると嘘は言っていない気がする。俺のプチ鑑定で見ると


 水島俊一郎みずしましゅんいちろう ホルダー登録不可


 としか出ない。引退するとレベルや適合率が出なくなるようだ。ちなみに、引退って誰が判断するんだ? わからん。


「合格です。あなたを雇いましょう」


「いいの? 恢斗」


「いいのか? 恢斗」


「私からも聞こう。本当にいいのか?」


 なんだ、この三人は? 輪唱のつもりか?


「構わない。守秘義務なんてどうせ守られないことはわかっている。だから、大事なところには触れさせない。ホルダー管理対策室の面目を潰さないように顧問という座を用意する、代わりに情報をもらう。それでいい」


「恢斗がいいなら……いいですわ」


「そうだな。納得はできないが理解はした」


「細かい契約は月山副所長と詰めてもらう。ホルダー管理対策室との兼ね合いもあるだろうからな。この後、クレシェンテでの顔合わせがあるが、出席するか?」


「いや、正式に契約を結んだわけではないので遠慮しておこう」


 まあ、俺としてはどっちでも構わない。


「俺たちは明日から活動を開始する。早く着任することを望む」


「了解した。長くなるか短いかはわからんが、よろしく頼む」


 もう一度、全員と握手して水島氏は会議室を出て行った。


「さて、聞かせてもらおうか」


「そうですわ。勝手に決めるなんて不届千万! ちゃんと説明してもらいますわ!」


 はぁ……しょうがない。顔合わせの立食会までにはまだ時間がある。今頃、準備をしていると思われるのでお手伝いしたいところだが、この二人の説明しろや! ごらぁ! って顔を見るとこちらが優先させたほうが

 いいのかもな……。




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る