78.今後のこと

 この別棟、先々代のご当主がお妾さんを住まわせるために作ったそうだ。それ以降はあまり使われず、たまに客間として使われていたくらいらしい。


 さすがと言えばいいのだろうか?


 翔子の部屋になる場所でお茶を飲みながら今後の予定を聞かされる。ちなみに茶菓子は俺が買ってきたどら焼きだ。


「恢斗にしてはまずまずのお土産ですわ。ここのどら焼きはお兄様たちも贔屓にしていますわ」


 確かにこのどら焼き旨いな。まあ、値段が値段だしな。それと、兄がいるんだな。三人兄姉きょうだいなのか?


「にゃ~」


「猫ちゃん!」


「どらちゃんですわ」


 どらちゃんが瑞葵にどら焼きをねだっている。共食いか!? ちゅ~〇で我慢しとけよ!


 翔子に抱っこされ、瑞葵からどら焼きを食べさせてもらっているどらちゃん。こいつ自分が化生モンスターだってこと絶対に忘れてるよな。


 で、神薙家の家族とは夕食時に顔合わせするらしい。今、誰もいないそうだ。神薙家族は全員から反対意見はなかったみたいだ。瑞葵の兄姉は逆に弟妹ができると楽しみにしているらしい。


「お父様もお母様も若い子が家にいると賑やかになると喜んでいますわ」


 ちなみに先代である祖父母はここに住んでおらず、家督を瑞葵父に譲った後で海外に住んでいると聞かされた。さすが金持ち。


 それから、勇樹と翔子は当面、今通ってる学校にそのまま通う。勇樹は別の高校に通うことになるため編入試験後に移る。翔子に関しては私立の中高一貫の学校に編入らしく、やはり編入試験があるらしい。聞けば女子校、お嬢様学校か!?


 うへぇー、大変そう。


 ホルダーについては落ち着いてからちゃんと場を設けて話し合うということになった。今は新しい生活に慣れることが先決。それに組織が立ち上がり、顧問も決まって、俺たちももう少しホルダーに慣れてからのほうがいいと思う。まだ、俺たち自身が素人同然だからな。


 そして最後に二人の両親について調べているそうだ。父親のほうはともかく、母親のほうはそれほどかからず見つかるだろうと言っている。雇っている探偵がな。


 取りあえず、話し合いを持ち穏便に親権を放棄してもらうように持っていくそうだ。子どもを捨てた以上、元の鞘に戻るというのはあり得ないと考えている。あとは二人の考え次第だが、将来的には神薙家か分家の養子とも考えているらしい。


 凄ぇな。リアルシンデレラストーリーかよ。あるんだな、こんなこと。


 さて、じゃあ俺はそろそろ帰ろうか。


「いいか、二人とも。今、二人は人生の分岐点にいる。良いほうに進むのも、悪いほうに進むのも、これからのお前たち次第だ。せっかく掴んだチャンスだ、よく考えて最適解を導き選べよ」


「あ、ありがとうございます……」


「頑張ります!」


 俺が手伝えるのはここまで。せっかく得られた幸せへ続く道しるべ、頑張ってほしい。そして、ホルダーとしてもな。


 勇樹の部屋に俺のホルダーに入っている荷物を出す。


「じゃあ、二人のことは任せた」


「任されましたわ」


 こういう時の瑞葵は頼りになるな。なのに、なぜかホルダーになるとポンコツになる。ギャップ萌えを狙っているのか? それって誰得だ? 俺? ないな。


 神薙邸を後にして自分の部屋に帰る。たいして広くない部屋だが、がら~んと感じる。たった五日間一緒に暮らしただけだったけど、楽しい毎日だった。なんかまた一人になるとしんみりしてくるな。


 俺も、瑞葵みたいに寂しくないように使役化生モンスターを出すか?


 いや、やめておこう。どう考えて、死草原狼グラスウルフ・UD骸骨スケルトンを出したら、慰めどころかホラーでしかないな……。


 愛玩系の化生モンスターのカードを集めるか? 面倒だな。


 意外とあいつらの存在って大きかったんだな。まさか俺がセンチになるなんてな。


 まあ、狩りが始まればまたいつもの生活に戻るだろう。早く狩りがしてぇなぁ。



 恢斗が帰った後の神薙邸。


 恢斗が置いて行った荷物の片づけが終わり、お茶をしている三人と一匹。


 翔子はどらちゃんが気に入ったようで、ずっと抱っこしてなでなで、スリスリと可愛がり。


 そんな翔子とは対照的に勇樹は思いつめた表情で瑞葵に質問を投げかける。


「あのう。聞いてもいいですか?」


「わからないことはなんでも聞いてよろしくてよ?」


「恢斗さんたちって何者ですか? なんで僕たちにこんなに良くしてくれるんでしょうか? ホルダーってなんですか?」


 瑞葵は顎に指を当てコテンと首を傾げる。こういう仕草は間違いなくご令嬢そのもの。


「そうね、私たちは正義のヒーロー……の卵かしら。恢斗の場合はダークヒーローと言うべきかしら。私たち凡人とは異なる考え方を持ち、またその信念を曲げずに突き進んでいる大馬鹿者ですわ」


「瑞葵さんたちが凡人ですか?」


「恢斗に比べたらわたくしたちなど凡人にすぎませんわ。その強い信念には尊敬……いえ、畏怖さえ覚えますわね。頼もしいのですけれど、少し頭のネジが外れているようなところが」


 恢斗にとってはちゃんと安全マージンを取っての行いでも、瑞葵などにはそうは見えていない。


「なぜ、僕たちを助けてくれたのですか? ホルダーに関係しているのは聞いていますが」


「なら、聞いたとおりではなくて?」


「正義のヒーローのお手伝いですか?」


「今の私や姉さんは正義のヒーローの卵でしかないわ。お手伝いでさえなく、恢斗におんぶにだっこ状態。でも必ず恢斗と肩を並べて戦えるようになりますわ!」


 意外と気にしている瑞葵なのだ。


「僕たちもそうなれと?」


「恢斗が言っていたでしょう? その道を決めるのはあなたたちだと。確かにホルダーになるのは契約上ほぼ確定でしょう。ですが、あなたたちは神薙家の身内にもなったのですわ。嫌ならなんとかいたしますわ。それを踏まえて、恢斗の横に並び立つかは、あなたたちが決めることよ」


「正義のヒーロー……」


 恢斗の場合、ダークヒーローだが……。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る