77.新しい住まい
「とは言っても、お父様の説得もありますので、さすがにすぐには無理ですわ」
だろうな。瑞葵父の説得が必要……必要って?
「瑞葵の家に住まわせるってことか?」
「当然です。なぜ、妹と別の家に住まわなければならないのですか!」
いや、俺は今現在、妹とは別の家に住んでるぞ?
「いいのではないか? 瑞葵の家は私の家と違って、使っていない部屋も多い。一人や二人増えたところで変わりはないだろう」
と麗華が言っているが、間違いなく麗華の家もでかいはずだ。二人が俺の部屋を見たら犬小屋とか言いそう……。
「あのぅ……僕も一緒に住んでいいのでしょうか?」
「仕方ありませんわ。翔子が住むのですから、兄のあなたも住まわして差し上げますわ」
「良かったね! お兄ちゃん」
「あ、ありがとうございます!」
まさかの地獄からの天国。捨てる神あれば拾う神あり。あの神薙邸に住むのかよ。まあ、あまりの生活様式の違いと礼儀作法で苦労すると思うけどな。
凄ぇー羨ましいとは思うけど、俺ならお断りするだろう。おそらく、気が休まる時がないように思える。まあ、エールは送ろう。
「頑張れよ……」
「えっ!? ど、どういう意味ですか! 今の!」
瑞葵には確か姉がいるとか聞いた覚えがあるが、実際の家族構成は知らない。瑞葵の一存だけでは無理だろうから、家族との相談も必要だろう。
「日曜までにはなんとかいたしますわ。それまでは不本意ではありますが、恢斗に預けます。変なことをしたらただではおきませんと心に留めおきなさい!」
お前は俺をなんだと思っているんだ? 俺は鬼畜か!
「それで二人にはホルダーを渡したのかい?」
「いや、まだだ。組織が立ち上がってから、ちゃんとした契約書を作ってもらう。ホルダー登録はそれからだ」
「二人にはすぐに狩りをさせるのかしら?」
適合率は
「契約後、勇樹にはバイト感覚でさせるつもりだが、翔子に関しては高校受験を控えているからな。高校に入るまではお預けだ」
「それがいいですわね」
「だからといって高校の勉強を疎かにするわけにはいかないぞ」
それは、才女であるお二人が面倒見れば問題ないだろう? その辺は俺を当てにするなよ。社会勉強ならいざ知らず、学業に関しては期待に沿えないからな。
「となると学校も変わることになるな。瑞葵の家からだと二人とも今の学校に通うのは難しいだろう?」
「その辺の編入に関しても任せていただきますわ。当面は家の車で送り迎えすればよくてよ」
うわぁー。校門前に高級車での送り迎え、騒ぎになるんじゃね? 勇樹と翔子はまったく気づいていない。瑞葵と麗華はそれが当然として育ってきたので、理解してないだろう。俺は聞かなかったことにしよう。
それから数日、普通に学校に通い土曜日は溜まった洗濯物の洗濯日。二人の部屋には洗濯機がなかったので、すべて手洗いしていたそうだ。そりゃ大変だ。慣れていればなんてことないとは言っていたが、洗濯機を使ったらずっと回っているのを眺めていたのには笑った。あれって、意外と魅入ってしまうからな。
ついでに、二人の部屋から持ち出した荷物の選別。瑞葵の家に行けば使わない物が出てくる。それを分けていらないものは処分。冷蔵庫などはリサイクルショップに持っていったら五千円で引き取ってくれた。
台所用品は食器以外は処分。食器類は思い入れがあるので捨てたくないそうだ。洋服関係もそう。母親の服など処分してもいいと思うのだが、捨てた母親でも親は親みたいだ。
土曜の夜に瑞葵から二人の受け入れ準備が整ったので、翌日の日曜に来るようにとメールがあった。その日の夜は短い間だったが一緒に生活した仲間として、お別れ会で焼肉を食べに行った。また、万札が消えた。こいつらの胃袋って……。
翌日、ファミレスでお昼を食べてから出発。今回は前回のリベンジで浅草に寄り老舗の和菓子屋でどら焼きを買っていく。多少並んだが問題なく黒あんと白あんの二種類を買えた。
そして、神薙邸の正門前にいる。今日は勝手口ではないだろう。
「えーと、家ってどこにあるんですか?」
「目の前にあるだろう?」
「ほぇ~」
インターホンを押す。
『待ってましたわ!』
って、インターホンの前で待っていたのか!?
黒服さんに案内され玄関に向かうと瑞葵が待っていて、どこかに引っ張られていく。
あの~、お土産どうする?
「そんなのは後でいいですわ!」
それにしてもこの家、広ぇーな。どこまで行くんだ?
連れて行かれてのは本宅の横にある繋がった別棟。こっちも十分に広い。
そこの二部屋に来た。
「ここを使ってよくてよ」
一部屋どう見ても二十畳くらいあり、ベッドや机、箪笥なども完備、小さな冷蔵庫もある。それが二部屋。一部屋だけでも俺の部屋よりでかい。
「こ、ここですか!?」
「ほぇ~」
ほんと、ほぇ~だよ!
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