76.二人の行先
俺の部屋に着く。取りあえず風呂を沸かす。二人は水浴びしかしていなかったようなので風呂に入りたいだろう。
お風呂が沸くまで部屋を布団が敷けるように片づける。なんとか敷けた。まあ、俺はベッドだけどな。
風呂が沸いたので順番に入り、寝る準備が整った。が、寝る前に明日の予定を確認する。正直、寝たいが大事なことだ。
勇樹は学校が終わった後に大家に鍵を返しに行く。お礼は必ず出世払いでしますと言っておくように指示した。良くしてくれた人への恩返しは大事だ。こんな人との触れ合いが少なくなった現代で、良くしてくれた稀有な方だ。その繋がりは大切にしたほうがいい。
翔子は部活などには入っていないので、学校が終わったらこの部屋にすぐに戻るよう指示。合鍵は一つしかないので早く帰る翔子に渡しておく。
夕方からは瑞葵と麗華との話し合いに参加させるので、帰ってきたら部屋にいろと厳命。スマホを持っていないので、この部屋にいてもらわないと困るので仕方がない。
学校での昼飯について聞くと中学は給食費を払っていなくても、理由がある場合は給食が出るらしい。高校は給食がないので普通はお弁当。そのお弁当を買うお金がないので、勇樹に一万を渡しておく。翔子にはお小遣いとして五千円を渡しておいた。
「あのぅ、俺たちの部屋の荷物ってどうなったのでしょうか?」
「安心しろ。ちゃんとある。が、詳しいことは明日までノーコメントだ」
明日は全員学校。さあ、はよ寝るぞ。
翌朝、トーストにジャムを塗って牛乳で流し込んで登校。
「「行ってきます!」」
「おう。行ってこい」
久しぶりに行ってきますの挨拶を聞いた。そんな二人を見送っていると妹を思い出すな。別に死に別れたとかじゃないぞ? 普通に今現在、田舎のJKやってるし。ただ、本当に朝人を見送るなんて久しぶりだったからだ。
大学に移動する間に瑞葵と麗華に大事な話があるので、夕方五時にいつものジャズ喫茶で話がしたいとメールを入れておく。昼前には了解と返事が来ていた。
講義終了後、一度家に帰り二人を連れてジャズ喫茶に来ている。時間までにはまだあるので、コーヒーを飲んで待つ。俺はコーヒー、勇樹はアイスコーヒー、翔子はマスターお薦めのチョコレートパフェ。
注文の品が揃った頃に瑞葵と麗華が二人そろって登場。
二人の美女が目の前に現れ、勇樹と翔子は緊張気味。
「まあ、座れ」
瑞葵の目は勇樹と翔子ではなく翔子の前のチョコレートパフェを見ている。マスターのお薦めだけあって旨そうだ。
瑞葵はチョコレートパフェ、麗華はアイスコーヒーを頼んだところで話を始める。
「今日来てもらったのは、この二人についてだ」
「ホルダー候補ってことかしら?」
「高校生くらいにしか見えないが、下手いのではないか?」
まあ、そうなんだが、ホルダーに年齢制限はないだろう? 土屋陰陽会の田村はどう見ても高校生っぽかった。木村が連れていた仲間にも高校生っぽいのいたしな。
「挨拶しろ。お前らの将来がここで決まるかもしれないぞ」
この二人はパトロン候補。小市民の俺と違って金というものに苦労をしたことがないお方たちだからな。この二人に気に入られればどうとでもなる……はず。
「
「
「瑞葵の言うとおり、ホルダー候補と考えている。適合率は170前後だ」
「高いわね」
「それで、ただ紹介というわけではないのだろう?」
事前に大事な話があるとメールしているからな。
そこで、昨日二人に聞いた話と昨日からのことを二人に話して聞かせる。
「信じられませんわ……」
「腹を痛め生んだ子たちを捨てるのか……」
話を聞き終わった二人はさすがに驚きというか憤りを隠せないでいる。俺だってそう思ったからな。
「そこでだ、瑞葵と麗華には悪いと思っているが、昨日この二人と契約を交わした。大学まで行くかわからないが、少なくとも高校卒業までの数年間は生活費、学費の援助を行う。代わりにうちの組織に入ってもらう。これは慈善事業じゃない投資だ」
「人の弱みに付け込む悪逆非道者め!」
「それはドライすぎないか?」
それは苦労をしたことがないから言えることだ。
同情するなら金をくれ! って言っていた少女もいるんだぞ!
逆に見返りのない善意くらい怖いものはない。契約を結ぶことで安心することだってあるんだ。特に今回の件はwin-winな関係になり、双方、悪い話ではない。
「わかりましたわ。契約はそれでいいでしょう。ですが、恢斗に任せてはおけません! この二人は神薙家で面倒を見ます! いいですわね? 恢斗、お姉さま」
「私は構わないが」
「俺も構わないが、本当にいいのか?」
「こんな可愛い子を恢斗と一緒に住まわせるわけにはいきませんわ!」
いやいや、資金さえあれば住む場所は別にするつもりでいたが? 俺の部屋では三人は無理だし。引っ越しも親が家賃を出している関係上難しいからな。まあ、引っ越そうと思えば引っ越せるくらいの稼ぎはあるけど。
「どう思う?」
「瑞葵は昔から妹が欲しかったと言っていたからな。それじゃないか?」
瑞葵がなぜか翔子をハグして頭をなでなでしている。
「今日からあなたは私の妹です。お姉さまとお呼びなさい」
「ほぇ~」
「な、なら僕は弟ですか!」
「弟はいりません」
「おふっ……」
バッサリと斬られた勇樹。
綺麗なお姉さんは好きですか? って感じにはならなかったな。
憐れ、勇樹撃沈。
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