65.ご褒美
ふぅ。なかなか楽しませてくれたな。
「これが
麗華の初めての戦いにしてはいい感じだった。
「最後にあいつが霧みたいなのを出した時、頭がクラクラしたが大丈夫だったか?」
「
「頭がクラクラというよりは妙な眠気に襲われたな」
眠気? 睡眠効果か? なるほど、瑞葵は睡眠耐性を持っていたな。俺も全耐性(小)を持っているが(小)だから特化した瑞葵より効果を受けたってことか? となると、特化耐性か全耐性(中)以上が欲しいな。
「取りあえず、一旦ここを離れよう」
「そうね。今日はおねぇ……麗華の加入祝いをしなければなりませんわ。ファミレスも捨てがたいですが、今日は恢斗の食べたいものをご馳走して差し上げますわ」
えぇーまじ!? いいの? じゃあ、
「お寿司が食べたいです!」
「恢斗にしては妥当な選択ですわ。お姉さま、よろしくて?」
お姉さまって言ってるぞ? 麗華は苦笑いだ。
「私は構わないが、今からで大丈夫か?」
「お任せください。贔屓にしているお店がありますので、頼んでみますわ」
瑞葵が電話をかけ、にこっと笑顔を見せてから、もう一度どこかに電話をかける。
「さあ、行きますわよ」
どこに行くかも言わずにさっさと歩いていく。麗華と顔を見合わせて肩をすくめてから後に付いて行く。
駅前まで戻ると瑞葵の家の高級車が待っていた。車で移動らしい。やっと乗せてもらえた。助手席にだが。
着いたお店は……やったぁ! カウンターのお店だ。席について周りを見る。すげぇ、どこにも値段が書いていない。
「何から握りましょうか。
「私は
「それでは、私はのどぐろをお願いしよう」
「大トロ」
えっ!? って感じで瑞葵と麗華に見られる。
「恢斗……あなたねぇ」
「最初から大トロはどうかと……」
なんで? 駄目なのか?
「構いませんよ。食べ方は人それぞれ。お好きなものを、お好きなだけご注文ください」
ほら見ろ、職人さんもこう言っているぞ。
「これだから、素人は……
「まあいいじゃないか。ご主人がこう言っているのだから」
「お姉さまは優しいですわね」
なんか凄い言われようだな。それと職人さんじゃなくてご主人って呼ぶんだな。一人しかいないからお店のご主人なのだろうけど、テレビとかだと大将とかって呼ばれるけどどうなんだろう?
そうこうしていると、目の前に大トロが一貫置かれる。
「薬味はご自由にどうぞ」
大根おろしに、ワサビ、塩、醤油、ほかにも何種類かある。ここは塩からかな。
シャリは小ぶり、大トロが光っている。それを口に放り込む。大トロが舌の上でとろけ、そのとろけた脂の旨味がほろほろとしたシャリと絡み合い絶妙のハーモニー。
う、旨いぞーーーー! 口からビームを出したくなるほど旨い!これは美味しいではなく旨いだ!
「大トロ」
「恢斗……あなたねぇ」
「どうでしょう。アジもいいものが入っていますので、お口直しに召し上がってみませんか?」
なるほど、口の中が大トロだらけの状態だ。ご主人の言うこともさもあらん。試してみるか。
「じゃあ、それをお願いします」
出てきた一貫は今まで食べてきたアジの寿司とはちょっと違う。アジの寿司といったらネタの上に生姜が載っているのが定番。
目の前にある一貫は違う。ネタに斜めに飾り切りされていて、煮切り醤油が塗られている。生姜が見当たらないな。
口に放り込みひと噛み、ほろほろとシャリがほどけていき、かすかに酢でしめたアジの旨味が口に広がり、生姜と少し辛みのあるあさつきだろうか? それが後から追ってくる。生姜とあさつきはシャリとネタの間にあったようだ。これも文句なく旨い!
そして気づく、口の中の大トロ感が消え去っていることに。素晴らしい。これでまた、初心に戻り大トロを楽しめる。
「大トロ」
さすがに瑞葵ももう俺のことを無視して、自分の流儀で寿司を楽しんでいる。麗華に関してはお酒まで頼んでいる。いい酒なんだろうな。だが、俺は寿司を食いに来たのだ。そんな誘惑には負けられない! 寿司を食う!
大トロを頼んだはずなのに目の前に四貫置かれる。
「せっかくですので鮪の食べ比べなどどうでしょう」
ほう。こうして、ご主人なりにお客を楽しませてくれているのだろうが、正直俺は大トロだけでいいのだが……。せっかくなので食べる。まだまだ、腹には余裕があるどころか腹二分目にも達していない。
一貫目は赤身。これだけでも回る寿司と大違い。ネタが厚く味が濃く、臭みもなく柔らかい。これぞマグロって感じだ。
二貫目は漬け。腐りやすいマグロの保存用に考えられた技法だな。回る寿司ではよく好んで食べる寿司だ。なのだが、なんだこの漬けは! いつも食べているものとは違うぞ?
漬け地の味で誤魔化すのではなく、マグロ本来の味が凝縮されているようなこの味。上に載っている少量の山椒とゴマのアクセントも絶妙。旨い!
三貫目は中トロ。正直、大トロを食べてしまった後では期待薄。と思っていた時期がありました。ネタの上に載っているのは大根おろし。大トロの薬味にもあったな。そこに少量の醤油を垂らし口に運ぶ。
全身に電気が走った! 旨いーーーー!
この大根おろし、辛み大根だ。中トロの脂と辛み大根が旨い具合に中和し合って、脂の旨味だけが残る。これぞ至高の一品。これ、何貫でもいけるわ。
四貫目は大トロは、ただただ旨かった。
その後もご主人が苦笑いするほど 中トロ、大トロ、ご主人お薦めの一貫を食べ続けた。
ここで、割り勘なんて言われたら俺は逃げ出すな。
瑞葵が何も言わず、ちゃんとカードで払ってくれたので安心。
「ご馳になりました」
「たまには番犬にも良い思いをさせないと、手を噛まれかねませんから」
言っとくが俺はお前の番犬になったつもりなどないぞ!
「さすがに番犬はないだろう。
「お姉さま! 甘いですわ! 恢斗が
今日のレベルアップ後の話し合いは明日するということで、今日はここで解散。
瑞葵たちは車で帰って行った。俺を乗せずに……。これだからお嬢様は……。
寂しい。いや、虚しい。
ここ銀座だよな? 近い駅は有楽町か? それとも東京駅まで歩くか……。
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