60.目指すもの

 麗華が日頃の態度やその性格に反して、意外と男慣れしていないことに驚く。コマンダー麗華やマーシャル麗華と呼ばれる彼女がこんなに初心だったとは……。


 まあ、それはいいのだがこの王女の威圧を放つ存在の意図がわからない。姉と慕う麗華をからかったことに対する威圧なのか、ちょっと考えにくいが自分以外の女性に対して興味発言をしたからなのか、どっちだ?


 ワンチャンあるか? まあ、前者だろうな。後者ならうれしいとは思うが、ツンデレどころかツンツンはなぁ~。デレは大切だと思う。でも、性格はともかく美人なんだよなぁ。


「で、どうする?」


「い、いいだろう。だ、だがな、私を簡単に手に入れられると、お、思わないことだ。わ、私はそんな安っぽい女ではないからな! お友達からなら……ゴニョゴニョ」


 まだ、続いているらしい。そして更に強まる王女の威圧。なんかレベルアップしたんじゃねぇ?


 取りあえず、麗華を落ち着かせて今の雪乃製薬での研究について話を聞いてみる。


 裏切ることのない信頼できる研究員数人で班を作り、別棟に研究室を作り研究させているそうだ。成果が上がれば徐々に拡大していくらしい。そのためにも、より多くのポーションが欲しいと言っている。


 瑞葵父からは月に二十本と言われているが、研究を進めるためにもそれ以上欲しいとのこと。まあ、問題ないだろう。了承しておく。


 アンクーシャの検証もしたいらしく水曜と土曜に行いたいと言っている。ステージⅠの胃がん患者と、ステージⅡの肺がん患者で検証を行いたいそうだ。それも了承。俺も知りたいところだからな。


 そしてここからがホルダー登録の話だ。


 俺たちが知るホルダーについての初歩を教える。


「本当に超人になれるのだな。だが、なぜ秘匿されているのだ?」


「そうよね。正義の味方なのだから堂々とやればいいのですわ」


 言いたいことはわかる。だが無理だろう。なぜ、正義のヒーローが表に出ないで隠れて行っているのか? 俺が思うにすべてに責任が取れないからだ。


 考えてもみろ、戦闘を行うとどうしてもいろいろな場所に被害が出る可能性がある。それすべてを正義のヒーローが弁償するのか? そんなことをしていたら破産だ。


 そこはいろいろな理由をつけ国が補填しないと、その被害について正義のヒーローが糾弾されてしまう。


 そして一番の理由と思われるのが、すべての被害者を助けることなんてできないこと。


 この日本で年間八万人以上が行方不明になっている。そのうち、どれくらいが化生モンスターによる被害かは知らないが、それはホルダーが助けなかったからだなんて言われた日にはたまったもんじゃない。マスコミ関係が騒ぎ立て、いいように民衆が躍らせれプロパガンダ的にホルダーが悪とされかねない。


 そのためにホルダーの存在は隠し通す必要があると思う。どうしても表に出すのであれば、それこそ国が全責任を負い警察や自衛隊のような組織を作るしかない。


 それができないのは日本以外の国々の考えや、宗教問題が絡んでくるからだろうな。


「なるほど、化生モンスターが悪魔などと認定されれば、各宗教界は崩壊するな」


「崩壊するだけならまだしも、一部の狂信者などにより十字軍のような暴挙を起こしかねませんわ」


 有無を言わさず核攻撃なんてことも無きにしも非ずだ。


「まったく報われることのないヒーローだが、やるか?」


「恢斗と瑞葵はどう思っているのだ?」


「私は見返りを求めてやってるわけではありませんわ。たとえ、報われずとも正義のために戦う所存。それが力を授かった者の使命ですわ!」


 立派な所信表明ありがとうござます。次に言う俺が凄く言い難い。


「俺は瑞葵のような高尚な考えは持っていない。世のため人のためになんかは二の次だな。俺が目指すはホルダー界のトップだ」


「トップ? 何をもってトップと言えるのだ?」


 何も知らなければ漠然としていて意味がわからないだろう。


「なぜかこのホルダーというのには適合率というものや、ランキングというものがある。そしてそれが高いと優遇処置がある。すべてのホルダーが平等というわけではない」


「ホルダー個人毎に優劣があるということか?」


 ただ単に化生モンスターを撲滅させるというだけなら、別にそんな仕様は必要ない。全員同じ能力にすればいい。そうしない意味がわからない。そもそも、このホルダーというものは誰が作ったものなんだ? 神なのか? それにしては俗物すぎないか?


「そういうことだな。それもちょっとやそっとの優劣じゃない。シャレにならないほどのアドバンテージになる。何者が作ったのかは知らないが、このホルダーというのは瑞葵の言うように世のため人のためというような考えの裏に、何かしらのほかの意図があるように感じる」


「ほかの意図か……」


「まあ、そんなことは俺にとってどうでもいいことだ。ホルダーになった以上、俺はそのアドバンテージを活かし、終わらない息が続く限り戦い続けてっぺんを取る!」


 そう、目指すはホルダーランク1!





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