59.二人目の適合者

「いいだろう。最初の資金は私のほうで用意しよう」


「よろしくお願いします」


「ポーションについては月に二十本、四十万で雪乃製薬に納品してもらう。新しいポーション類があれば別途価格交渉とする。雪乃製薬との取次は麗華にさせる」


「お姉さまですか?」


 お姉さま? 瑞葵には姉がいるのか? ちなみに俺には妹がいある。


「静依姉さんから麗華にそろそろ責任ある仕事をさせてくれと言ってきていてな。ちょうどいいので今回の件を任せることにした」


 雪乃製薬……雪乃麗華ゆきのれいかか? コマンダー雪乃とかマーシャル雪乃と呼ばれる院生の人か?


「麗華さんは私の従姉よ」


 俺がハテナ顔だったの見てか瑞葵が教えてくれた。


 雪乃麗華、知らない名ではない。瑞葵と同じ法学部関係でうちの大学の法科大学院二年で、弁護士、裁判官を目指す超が付くエリートだ。腰掛け学生の俺と違ってマジもんの才女だな。


 瑞葵が正統派日本美人なら麗華先輩は男装の麗人って感じ。男装はしてないけど。美人というより凛々しいというべきか。宝塚歌劇団男役スターって感じだな。


 そして何をやらせても完璧超人。話し方も女性ぽっくないせいで、付いたあだ名がコマンダー雪乃とかマーシャル雪乃。


 まさか瑞葵の従姉とは……似てねぇ。


「麗華には私が話しておく。明日にでも会って話をするといい」


 ということで、忙しい瑞葵父とはここでお別れ。


 帰ろうとしたら瑞葵にどらちゃんみたいに首根っこを掴まれ、瑞葵の部屋らしき場所に連れて行かれ正座させられる。


「恢斗、あなたねぇ。何をしたかわかっていて?」


「覆水盆に返らず」


「あなたねぇ……」


 やっちまったものは仕方がない。今更、謝るつもりもない。


「はぁ~、お父様が怒っていないようなので、まあいいでしょう。ですが、あんな大口を叩いた以上失敗は許されませんわ。あなたが失敗すること、それすなわちわたくしの破滅でもあるのですから」


 失敗? 誰に言っている? こっちは命を懸けているんだ。失敗する時、それすなわち俺の命が散った時だ。


「いいですの、相棒バディというだけではなく、運命共同体となったことちゃんと心に留めておきなさい!」


「りょ、了解」


「こうなった以上、早急に組織に所属するホルダーが必要ですわ! 恢斗、探してきないさい!」


 そんな簡単に見つからねぇよ。と思いながらも反論できず、


「善処します……」


 と答えておく。だって、怖ぇーし。


 天丼食って帰ろう。疲れた……。



 翌日の月曜の講義を終えるとメールが届いている。前に行ったジャズ喫茶で待ち合わせだそうだ。


 しかし、ここ本当にいい店だな。客の質もいいのだろう。静かにゆったりした雰囲気と流れるジャズが心地良い。もちろん、コーヒーも旨い。


 瑞葵と見たことのある女性が近寄って来て席に座る。


「待たせたわね」


「明日死ぬか生きるかわからない俺に、時間という概念など無意味だ」


「その歳で厨二病か?」


「麗華お姉さま、気にしなくてよくてよ。頭のねじが何本か抜けているだけですわ」


「そうか」


 って!? 納得すんなや!


風速恢斗かぜはやかいとだ」


雪乃麗花ゆきのれいかだ」


 握手を交わすが、まじ男っぽい。そしてでかい。ヒールを履いているとはいえ、身長180cmある俺より高いぞ。髪型もピクシーカットでヘアカラーはグレーアッシュのせいか、中世的なハーフにも見える。純日本人らしいが。


 そして、なによりだ。


 雪乃麗華ゆきのれいか 適合率182% ホルダー登録可


 まじかよ。天は二物も三物も与えるのか……。


「叔父様から話を聞いたときはボケたかと思ったが、瑞葵が関わっていると聞いて驚いたぞ」


 ある程度は話を聞いているようだな。


「恢斗と会って、世の中に常識では測れないことがあると知りました。そして、それ以上に私はこの世に生きていると実感ができ、なにより世のため人のために陰ながら貢献できることに喜びを感じていますわ」


「そこまでか……。実際、ポーションについては確認したが、正直、話を聞いた今でも眉唾ものだと思っている」


「なら、ホルダーになってみるか?」


「……なに?」


 射貫くような目つきで俺を見てくる。凄いプレッシャーを感じる。興味はあるように見えるが、怖ぇなこの人も。


「ちょっと! 恢斗、何を言ってますの!」


「麗華にはホルダーの適性がある。それも瑞葵と同等のな。俺たちの仲間となる資格がある。あとは本人のやる気次第だ。戦ってみたくはないか? 人類の敵と」


 瑞葵が驚きの表情を見せる。まさか、こんな話になるとは思ってもいなかっただろう。


 雪乃麗華、これだけの逸材、逃すのは惜しい。このチャンスを逃したくない。コマンダーとかマーシャルなんて呼ばれているんだ、人の上に立つ実力があるはず。俺にはまったくない能力だし、瑞葵の持つカリスマとも違う。実際に人の上に立ち指揮する能力。


 欲しい。


「君のすべてが欲しい」


「ば、馬鹿者!? そういうのはだな二人っきりの時に……ゴニョゴニョ」


 ん? 麗華の顔が真っ赤なんだが?


 そして、感じる瑞葵からの王女の威圧……。


 あれ?







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