31.説明

 午後の講義は問題なく終えた。


 最近は講師の話をしっかりと聞きながら、並列思考でノートもしっかりととれる。おかげで予習と復習の時間が大幅に減って、自由な時間が増えた。これを並列思考なしでちゃんとやれる人は純粋に尊敬できる。


 さて、今日はこれからが問題だ。


 瑞葵に電話を掛け、瑞葵が指定した大学から離れた喫茶店で落ち合う約束をする。


 約束した喫茶店に行くと、隠れ家的な落ち着いたジャズ喫茶だった。瑞葵はまだ来ていないようなので、一番奥のコーナー席でコーヒーを頼んで待つ。


 コーヒーが届いたときに、俺が知っていて好きなセイ・イットが流れ始めた。こういう、まったりとした時間を過ごすのも久しぶりのような気がする。


 十五分ほど経って瑞葵が現れた。


「待ったかしら?」


「いや、悠久の流れに心を任せていた」


「ふーん。似合わないわね」


 言ってろ!


 瑞葵は大学で会った時の落ち着いた色の服ではなく、シックな服装で現れた。美人は何を着ても似合うな。ホルダーもちゃんと身に着けている。


 瑞葵がカフェオレを頼んだので、俺もコーヒーのお替りを頼む。今流れている曲は星に願いをだな。これも好きな曲だ。


「それじゃあ、知っていることをすべて聞かせて」


 おいおい、無粋だな。もっと心に余裕を持とうぜ。


 まあ、聞かれたので俺がホルダーを拾ってからのことを話して聞かせた。


「波瀾万丈ね。この世界はこんなにも奇想天外で摩訶不思議に溢れていたのね」


 自分で話していて俺もそう思う。


 どうしてあんな化け物モンスターがいるのか? なんで裏の世界だけで表の話に出てこないのか? そもそも、ホルダーって何なのだ? そういう疑問がソロでは知ることができない現状も話す。


「組織からは接触があったのでしょう?」


「ああ、あった」


 SHAA(secret holder administration agency)、通称シャアズから柿崎というホルダーが接触してきてランクバトルを行ったこと、そして勝って少しだけ情報をもらったことを話した。


「マスクでも付けてそうな連中ね」


 瑞葵は意外とオタクか?


「マウントを取られたくないのはわかるけど、一度その本部ってところに電話してみたらいいのではなくて?」


「こちらから接触する気はない。それに必ず向こうからもう一度接触してくると思っている」


「その根拠は?」


「少し前にホルダーのエリートって奴をランクバトルでボコった」


「はぁ~?」


 たまたま会ったホルダーの田村を教育的指導でボコったことを聞かせた。


「それがどう根拠になるのかしら? 恨みを買っただけでわ?」


「どの組織にも属さないアウトサイダーが、自称かもしれないが組織のエリートをランクバトルで破ったんだ。おそらく、その組織は隠そうとするが、いつまでも隠しきれるもんじゃない。必ず噂になる。そこでSHAAは気づくはずだ、そのアウトサイダーが誰かってな」


「その組織から報復される可能性もあるのではなくて?」


 報復は武力での実力行使は頂けないが、ランクバトルなら大歓迎だ。ランクバトルで命を落とすことはない。負けたところで失うのはランクの順位だ。それに勝てば間違いなく名が上がり、ほかの組織にも名が知られるはずだ。


「打ち破るまでだ」


「そ、そう。それで接触してきたらどうするのかしら?」


「手を貸せることは貸す。が組織に入ることはのらりくらりと躱す」


「時間稼ぎね。その間に自分たちの組織を立ち上げるわけね。貸しを作っておくのは、組織立ち上げ後の協力を得るためかしら」


 その通りだ。そして構想はこうだ。


 俺と神薙先輩が頭となって組織を立ち上げ、俺の能力でホルダーと適合者を集める。アウトサイダーのホルダーを勧誘してもいい。


 神薙先輩のように正義のヒーローをやりたいならやればいいし、俺みたいに楽しいからやるでも構わない。


 しかし、必ず出る杭は打たれる。新興組織なら尚更だ。潰しにかかるか吸収しようとしてくるはずだ。そのための貸しでもある。敵対するより友好を望む組織もあるはずだ。


 敵対する組織には、神薙先輩のお父さんというか神薙家が組織のバックに付いてもらい、その組織のけん制をしてもらう。表裏問わず組織は必ず政財界と繋がりがあるはず。そこで力を持つ神薙家が役に立つ。


「面白い考えだけど、それ相応の見返りがなければお父様は動かなくてよ」


 見返りねぇ。まあ、こちらも利用するのだから、何かしらのメリットがないと手を貸してくれないのは想定済み。ある意味、そういう関係のほうがお互いの利益がある間は裏切らないので望むところだ。


 将来的には神薙家のバックがなくても対抗できるくらいの実力をつけるつもりだ。それまでの間はどうしても神薙家の力が必要なのだ。


 初級ポーションを出して神薙先輩に渡す。


 薄赤色の液体の入った小瓶を見て怪訝な顔をするが、ピンときたのか一瞬で笑顔になった。


「ポーションね!」


 それがすぐに頭に浮かぶってことは、瑞葵はやっぱりオタクか? 






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