29.適合者発見

 幽鬼レヴナント 九等呪位 あの世より戻りし亡者。生気を吸うために取り憑くため実体の無い者が多く、物理攻撃が効き難い。


 見た目は鎌を持たない死神みたいだな。まあ、九等呪位だからたいして強くないだろう。物理攻撃に耐性があるようだが、俺にはプチ聖魔法があり、使えるものの中にプチ浄化がある。使うと少し綺麗になるだけだが、対アンデッド魔法のようだからアンデッドにダメージを与えるはず。


 神薙先輩がフラフラと幽鬼レヴナントに近寄って行く。不味いな。取り憑かれた場合どうなるのかが予想が付かない。


 ここは助けて恩を売る絶好の機会。わざとホルダーの力を見せて興味を引き、ホルダーに勧誘する作戦だ。駄目もとでね。興味を持ってくれればラッキーだ。才女だから俺とは違ったアプローチを持っているかもしれない。


『バトルフィールド展開』


死草原狼グラスウルフ・UD骸骨スケルトン召喚! 神薙先輩の前に出てけん制しろ!」


「えっ!?」


 俺の声で我に返った神薙先輩が状況把握に追いつかず、あたふたしている。


 その間に死草原狼グラスウルフ・UD骸骨スケルトンが神薙先輩の両脇から回り込み前に出る。進化したせいか、動きが少し機敏になっているな。


 前に出た骸骨スケルトンがおもむろに剣を掲げると、神薙先輩に向いていた幽鬼レヴナント骸骨スケルトンを向き、野球の球くらいの黒い球を放つ。骸骨スケルトンが盾で受けるが、その威力で十センチほど後ろに持っていかれた。意外と攻撃力があるようだ。


「な、なんなの!? うそ!? 映画の撮影中!? ご、ごめんなさ~い!」


 神薙先輩、この状況下で意外と肝が据わっているな。もしくは、天然か? 神薙先輩の滅多に見せることのない、隠された一面を見たのかもしれないな。


 幽鬼レヴナントの意識は骸骨スケルトンに向いていて完全に骸骨スケルトン敵愾心ヘイトを稼いでいる。あれが、挑発スキルの力なのだろう。育てれば優秀タンクになりそうだ。


 幽鬼レヴナントはこちらをまったく意識していないので、加速を使うまでもなく歩いて神薙先輩の前に出る。


「こ、これは撮影ですの?」


 神薙先輩が話しかけてくるのを無視して、幽鬼レヴナントに右手をかざす。


「プチ浄化」


 別に手をかざす必要も声を出す必要もないけど、なんとなく格好いいかなと思いやってみた。もちろん、神薙先輩へのインパクトを持たせるための効果も期待している。


 プチ浄化の効果はてき面で幽鬼レヴナントが一瞬ムンクの叫び顔になり消えていく。


『アイテムをドロップしました。ホルダーに収納します』


『使役アンデッドのレベルが上がりました』


 死草原狼グラスウルフ・UD レベル1→2

 骸骨スケルトン・☆ レベル1→2


 プチ浄化、強ぇー! プチなのにアンデッドを瞬殺。相手が九等呪位だからだろうけど、TP2で使えるのも効率がいい。アンクーシャはTP50も使うからな。


「ちょっと、今のなんですの!? 映画の撮影じゃないんですの!?」


 少々恐慌状態の神薙先輩が俺の肩を掴み揺さぶる。あわわわわぁ……。


「お、落ち着いて! 神薙先輩!」


 ホルダーからお茶のペットボトルを出して渡すと、


「い、今、どこから出しましたの!? あなたもしかして詐欺師!」


 それを言うなら奇術師マジシャンだと思うのだが? というくらい混乱しているようだ。


 近くの建築資材に座れそうな場所があったので、座るように促す。


 死草原狼グラスウルフ・UD骸骨スケルトンを指輪に戻して俺も炭酸飲料のペットボトルを出して飲む。喉を通る時のシュワシュワ感が爽快でたまらない。


「今のはあなたが消したのかしら?」


「あの二体は俺が使役していて、通常はこの指輪の中にいる」


「あなたは何者ですの?」


 何者だろう? 今の俺の格好だと、どう見ても正義のヒーローには見えない。正義のヒーローっていうよりヒールっぽい格好だからな。


 バトルフィールドを解除して普段の俺に戻る。


「本当は世間一般で言う正義のヒーローなのかもしれないけど、この力に目覚めたのは最近でな、よくわからない」


「正義のヒーロー……」


「どうやら、平凡な世界だと思っていたこの世界は、非日常の広がる危険が蔓延る世界だったみたいだ。表には出てこない国や民間の組織もあるくらいだしな」


 それが本当に正義の組織かは怪しいところだが。


「あなたみたいな人がほかにもいるってことなのかしら?」


「正義の味方ではなくホルダーと呼ばれているが、思った以上にいることは確かなようだ。興味あるか?」


「ないと言ったら嘘になるわね。興味はあるわ。もしかして、なれるんですの?」


 まさかの食いつきの興味あり発言!? 本気か?






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る