17.ランクバトル

「槍とナイフの二刀流か。珍しい組み合わせだな。それに霊子ナイフか? トーシローのくせに、いい武器持ってるじゃないか」


 最初から持っていた初期装備だがいいものだったらしい。まあ、性能+3だしな。でも、ナイフより剣が欲しかった……。


「初手は譲ってやる。かかって来い!」


 ほう、舐めプだな。この柿崎ってのは典型的なやられ役のようだ。間違いない。ならば、ホルダー同士の戦いの経験を積ませてもらおうか。


 最初から加速抜きでの全力で行く。ダッシュで前に出ながら水流槍から水球を飛ばす。


「チッ、魔槍かよ!?」


 使ってみてわかったが、水流槍は使い勝手がいい。武器自体の攻撃力は低いが、リーチがあるので相手の攻撃のけん制をしたり盾的に使っている。それに水球という技が遠距離攻撃なので、けん制にもってこいだった。


 そのけん制で放った水球だが、柿崎は律義に盾で受けた。実は魔法というのは防具で受けたとしても、防具の強さによりダメージ値の変化はあるもののBPにダメージが入るのだ。


 よほど性能のいい装備か、BPとは別の防御値を持つスキルや魔法の防御じゃないとゼロにはならない。これは、化生モンスターで検証済み。


 水球はTP10だから今の俺ならあと五十五回打てる。ダメージ値が10だとしても560は与えられる計算になる。


 問題は柿崎のBPがどれだけあるかだ。レベル差は五倍以上、自由に能力値を振れるからなんともいえないが、五倍以上あると考えた方がいいだろう。やはり、けん制程度に使うのがベストだな。


 水球を放ちながら接近。槍で攻撃するフリを見せ、柿崎に盾を構えさせる。盾は防御的にはいいのだけど、どうしても構えた方向の視野が狭まばるのが欠点。


 その隙をついて奴の左に回り込み、霊子ナイフを振るう。


「そんな距離から届くぅ……う、嘘だろう」


 綺麗に決まったな。風切りだ。油断していたな。まだまだ、見せていない引き出しはあるんだぜ。


「霊子ナイフも魔剣化してるのかよ……」


 ただの。霊子ナイフとは違うのだよ。霊子ナイフとは! 


 魔槍、魔剣、こういう技を持つ武器をそういうふうに呼ぶんだな。ちょっと厨二っぽいが気に入った。


 今日から俺は魔剣使いだ! ヤバい左手の紋章厨二患者にしか見えないが疼いてくるぜ……。


「誰だよ、こいつがホルダー成り立ての素人だなんて言った奴」


 お前だろう?


「こいつ、戦い慣れしてやがる……」


 格上とばかり戦っているからな。それなりの経験は積んでいる。


「ちくしょう。負けられねぇ!」


 柿崎の持つ剣が炎に包まれ、体が淡く白く光る。本気モードってか?


 俺に迫る柿崎の動きが速い。さっきまでの動きより断然速い。が、対応できないほどの速さではない。加速と違って、何割か速くなっただけだろう。定番の身体強化ってやつかな? 俺も欲しいな、そのスキル。


 少しの間回避に専念し、相手の動きを見る。これで終わるとは思えない。何か隠し技を持っているに違いない。


 予想どおり、俺が回避に専念したせいで業を煮やし、いったん離れたかと思ったら大振りに剣を薙ぐ。俺の危機察知が危険と警報を鳴らす。


 なりふり構わず野球選手のように横にヘッドスライディング。その上を炎が通り過ぎる。それでも足を掠ったようで。BPが70減った。


 柿崎はニヤリと笑っているが、あれ? 必殺技っぽいけど、それほど強くないんじゃない? ダメージ70程度なら安全マージンを取っても、あと七回も受けられる。必殺技だよね? 違うのかな?


 まあいい。ならば、肉を切らせて骨を断つまで!


 立ち上がりわざと柿崎を睨む。柿崎はそんな俺を見てふふんと鼻で笑いやがった。もう、勝ったつもりでいるらしい。なんて、チョロ野郎。ぷぷっ。


 それでは、甘ちゃんのその下種な笑いを、恐怖に染まった表情に変えてやろうじゃないか。


 間を詰めるために走り出す。


 柿崎が炎を纏う剣を真横に振るうと剣を纏う炎が伸びる。なるほど、そういうことが、威力はどうあれ、いい範囲攻撃だ。能力なのか? それともあの剣の能力か?


 おそらく俺が避けると思ったのだろう、炎を避けることなく真っすぐ走ってくる俺を見て、驚愕と焦りの表情になる柿崎。それでも振るった剣を即座に返して振るってくるのは戦い慣れしているからだろうな。


 それでもこの距離なら、あと一回攻撃を受ければ奴に届く。BPを回復するまでもない。


 三度目の炎が俺を襲う。それでも倒れない俺を見て、恐怖の表情に変わる。その表情が見たかった!


 俺と柿崎の距離は1mもない。


 この距離は俺の距離。喰らえ、連続プチサンダー!


「ががががぁ……」


 プチ雷魔法のプチサンダーは少しのダメージと痺れを与えるだけのしょぼい魔法。しょぼいが使用TPは2、使いようによっては最高の魔法。


 連続で相手に放てば、その間はずっと俺のターン!


 ゆっくりと近づき恐怖に染まった柿崎の目を見ながら、霊子ナイフで喉を斬り裂く。


 奴は光となって消えていった。








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