6.逃走不可

 アパートに帰り、ホルダーに入る容量を確認してみる。


 部屋が空っぽになった。どんだけ入るんだ? 熱いお茶をマグカップに入れホルダーに収納。一時間後に取り出したが熱いままで冷めた様子はない。時間も止まっているのか? 


 優秀すぎだろう! 


 となると冷蔵庫が不要になるな。スーパーの特売日に大量買いすれば節約になるし、何より電気代が浮く。不要になった冷蔵庫を売ってもいい。


 夕飯を食べて後に、気になっていたステータスの確認もしておく。


 元の能力値は1だった。実際には24の補正が入っていたけどな。そして、その状態で普通に生活ができていた。


 1が一般人の通常だとしたら、あの時点で補正があった俺は一般人の25倍の力があったはず。なのに普通に生活できていたと考えると、一般人の力は25が基準なのだろうか?


 今回、レベルが上がって能力値が各3上がったがこれといって体に変わりがない。


 本当にそうか? 試してみよう。


 住んでいるアパートの横の空き地に来た。隣の建築屋の資材が無造作に置かれている。そこに砂の入った土嚢袋がある。大きさ的に15kgくらいかな。素で持つと重く感じる。当たり前だ。


 だが、心というか体が全然本気を出していないぞといった感じを受ける。


 じゃあ、本気出してみるかと思った瞬間、砂の入った土嚢袋の重さが急に軽くなる。感覚的に部屋にある5kgのダンベルくらいだろうか。片手で簡単に振り回せる。これ凄い!


 今度はホルダーを外した状態で挑戦。


 重いな。力を振り絞っても片手で持てるような重さじゃない。


 やはり、ホルダーありきの能力のようだ


 それと、どうやらホルダー装着時は体が勝手に最適値に力を抑えてくれているようだ。能力値の数値が最大値で、通常は最適値に調整といった感じだろう。数値が倍になると力も倍になるってわけじゃなさそうで安心した。


 だが、何かの拍子に出す気はなくても、本気の力を出していまうかもしれない。例えば、怒りなどの感情でだ。怒りに任せて本気の力を出したら大変なことになる。


 心も鍛えないと駄目ってことだな。



 翌日、大学に行くまでに二回ほど、『500m圏内に敵性化生を確認』が発生。無理……。さすがに大学の講義をさぼってまでゲームをやる気はない。


 ちなみにレーダーマップには赤点が映っていた。赤紫じゃない? 色にも何か意味がありそうだ。


 講義は並列思考のおかげで、想像以上に有意義な時間となった。講師の話に集中する自分、黒板や大事なところをノートに写す自分。これはいいものだ。


 講義を終えて、今日は夕方からチェーン店の喫茶店でのバイト。仕事内容は裏方。食器洗いや在庫整理など単純な肉体労働だ。


 夜八時にバイト終了。いつもなら単純作業でもくたくたに疲れて帰るのも億劫になるのだが、今日は肉体的にも精神的も元気があり余っている。


 ステータスの恩恵か、それともまだ二日しか経っていないが命を懸けたゲームに充実感を得ているからだろうか? 両方な気がするな。


 そんな帰り道。


『500m圏内に敵性化生を確認』


 きた! 自分で探そうかと思っていた矢先だった。


 レーダーマップには紫の点。また違う色だな。


 レーダーの示す場所は河川敷のグラウンド。


 辺りは夜の帳に包まれ、歩行者道路の街灯が周りを照らす程度で人影もまったくない。


 そんなグランドの端にそいつはいた。


 鎧を着た骸骨スケルトンだ。全身に赤色の靄を纏っている。


 おいおい、つ、強そうじゃな~い? 間違いなく、白猿より格上。ボスクラスだろう? あれ。


 さすがに、これは逃げの一手だな。


 なんて思ったら、赤く光る骸骨スケルトンの目と俺の目が合ってしまう。


 ヤバっと思った時は既に遅し。


 は、速い。100mはあった距離が一瞬で縮まる。


 こ、こいつも加速が使えるのか!?


 俺の優位性が……ちっ、加速、並列思考!


 骸骨スケルトンから逃げようとするが追いかけてくる。若干、俺のほうが少し速いようだが、こんな状態で家に帰れない。それ以上に、この状態で人ごみに入ったらどうなるんだ? 


 俺だけを狙っているのか、それとも手あたり次第の無差別なのか、正直どちらもうれしくない。試す気にもなれない。


 逃がしてくれませんかねぇ。というか、逃がしてくれそうにない。


 カイトはにげだした。しかし、まわりこまれた。って感じ?


 こいつ、先読みしているのか、俺の逃げる方向を邪魔するように動いている。そのせいでグランドの外に逃げられないでいる。


 敵ながら天晴れ! なんて言ってる余裕もなくなってきた。


 しゃーない、ここでるしかない!






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