4.化生

 威嚇してくる白猿の化生モンスターと睨み合い。


 さて、こうして前に出てはいいがどうするか? 今の俺って初期装備のひのきの棒すら持っていない状況。


 ならば、信ずるは己の拳のみ。


 それとまだ検証していない加速だな。ぶっつけ本番になるとは……今少し時間があればと悔やまれる。


 白猿の化生モンスターが動いた瞬間、加速を発動。


 周りの音が消え目に見えるものの動きが遅くなる。白猿がスローモーションのような動きに変わった。俺自身は普通に動けているな。これは俺だけが加速している証拠だ。想像どおりの能力でよかった……。


 これが物の動きを加速させるとか、対象者を加速させるバフだったら詰んでいた。


 ということを並列思考で考えつつ、俺の動きどころか俺自体を見失っている感じの白猿の顔を殴りつける。


 い、痛てぇー!


 殴った拳を見ると怪我はしていないが、真っ赤になっている。これを続けたら俺の拳が壊れそう。白猿は痛がってはいるが、ダメージになっているようには見えない。


 まいったな、こいつやっぱりザコモンスターじゃないな。


 殴るのやめ、蹴りに変えてみたがサンドバッグを蹴っているような感覚。白猿の表情を見る限り顔を殴った時よりダメージがないような気がする。キックはパンチの三倍というが、こいつに関しては微妙。


 何かないか? 銅の剣でも落ちていないだろうか? あるわけないよな。本当にひのきの棒でも欲しいと思う今日この頃の俺。


 武器になるようなものがないか自分の体を探る。リュックは女の子に渡してしまったので、たいしたものを持っていない。


 財布、たいした金額は入っていないが無くなると困る。いろいろなカード類も入っているしな。ハンカチ、マジックでもするか? ティッシュ、鼻ちーんする?


 スマホ、壊れたら一大事だ、却下。スマホ? シザーケースにいれていたな。と持った瞬間、全身をビビッと何かがはしる。ホルダーに触れろと。


 ホルダー? シザーケースじゃないのか?


 腰に付けたシザーケースに指が触る。頭に霊子ナイフと浮かぶ。武器なのか? シザーケースではなくホルダーから取り出すイメージを浮かべると手に刃渡り10cmほどのナイフが現れる。


 武器には違いないが、ちっちぇぇぇ!? 見た目は柄と刃が一体となったペティナイフ。


 これで戦えと? 頼りなさすぎる。ちょっと無理がないですかね? せめて刃渡り20cmは欲しかった……。


 無いよりましか? ほかに使えるものが無いのだ、使ってみるしかない。


 戸惑いで一瞬動きを止めたせいで、白猿が俺を捉え鋭い爪を向け飛び掛かって来る。恐ろしい表情だ。テレビで野生の猿に襲われた人が、恐怖にかられると言っていたのも頷ける。


 とはいえ、相手の動きはスローモーション。爪を躱しすれ違いざま、伸ばした腕を斬りつける。


「き、斬れるぞ。こ、こいつ!」


 そう、粘土を斬るかの如くほとんど抵抗なくスパッと斬れ、白猿の腕に深い傷が残る。傷口からは血ではなく黒い霧が噴出している。


 凄い斬れ味だ。刃渡りが短いけど。刃渡りがもう少しあれば腕を斬り落とせていたかもしれない。


 と、思ったら急に木々のざわめく音が聞こえ、目の前に白猿の爪が急接近。とっさに転げるように避ける。


 あ、あぶねぇ……。


 あれが刺さっていたら即死だったわ。まだ、セーブポイントも見つかってないのに、ゲームオーバーは勘弁だ。


 そんなゲーマージョークはさておき、加速が切れたようだ。どのくらいの時間発動していた? 時間を確認していなかったな。シザーケースからスマホを出し時間をチラリと見る。


 白猿、急に動きの遅くなった俺を怪訝な顔で見て、そしてニヤリと笑う。そして、甲高い声で笑いだす。


 なんて、卑しい笑いだ。


 自分が有利になって優越感に浸ってるって感じだな。


 おいおい、これから二回戦の始まりだぜ!


 これで決めるぜ。加速! 


 加速が始まると高笑いから一転して驚愕の表情へと変わる。もう、打ち止めだと思ったか? 


 なんて格好をつけているが、内心ヒヤヒヤものだった。クールタイムありですぐに使えないとか、TPが足りないとかで使えなかったらどうしようかと。


 並列思考を使っているのだからステータスをちゃんと確認してない俺が悪いのだが、意識しないと並列思考にならないという弊害もある。慣れが必要だ。


 加速が始まれば白猿はまた俺を見失い、執拗に周りを気にして誰もいない場所に爪を振るっている。完全に見えていない証拠だ。


 さあ、クライマックスの時間だ。


 白猿の急所がどこかわからないが、一般的な急所の首を狙うべきだろう。10cmしか刃がないナイフだが首になら深手を負わせられると思う。


 それでも駄目なら、心臓の辺りを突き刺してもいいのかもしれないが、如何せん刃が10cmしかないナイフなので致命傷になるか不安。


 白猿の後ろに回り込み首にナイフを斬りつける。今度もほとんど抵抗なくサクッと斬れた。傷口から大量の黒い霧が噴き出すが、致命傷にはなっていないようだ。しぶとい!


 今度は斬りつけるのではなく首と心臓の辺りに何度か突き刺すを繰り返すと、白猿の動きが止まり倒れながら黒い霧になって消えていった。


 終ったー!







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