3.エンカウント

 講義を受けながら考える。


 昨日のあれは何だったのかと。


 夢ではないことは確かだ。起きてステータスを確認したところ、昨日の夜と同じように目の前に浮かび上がった。ただ、シザーケースを身に着けていることが条件のようだ。


 今も腰にシザーケースを身に着けている。スマホなどの小物を入れておくのにちょうどいいし、何より格好いい。


 現に今でも目の前にステータスある。ガラスの板が浮いている感じだが、俺以外には見えていないようだ。


 それから、昨日の夜から今までにこれといった変化はない。何かに襲われるということもなく、秘密組織などからも接触がない。なんか、肩透かしだ。


 気になるのは、ステータスにホルダーランクというのがある。ホルダーには順位がありランキング形式になっているようだ。ホルダーになったばかりの俺がランク4252ということは、少なくともこの世界にホルダーは4252人いるということになる。


 日本の人口を考えるとだいたい三万人に一人くらいか。多いのか少ないのかよくわからん。まあ、全世界だとすれば非常に貴重な存在になるだろう。


 存在はともかく、ランキングがあるなら上を目指すがゲーマーの宿命。燃えてくる。


 それと、ステータスの下のほうにある並列思考 Lv1と加速 Lv1。間違いなくスキルだな。


 並列思考かぁ。どうやって使えばいいんだ? と思ったら、感覚的に使えそうとわかる、


 使ってみよう。


 何も変化がない。が、意識すると講義を受ける自分と、ステータスを見ている自分をできる。そう、映像が二つあるとかではなく認識なのだ。両方が同時に頭に入ってくるような感覚ですごくモヤモヤっとする。


 だとしても便利だな。俺は講義にできるだけ集中して復習とかをあまりしないタイプなので、このスキルは助かる。


 そのステータスを見て気づく、TPが10減っていることに。なるほど、このTPってのはゲームでいうMPみたいなものか。となると、BPはHPなのか?


 せっかくなので並列思考の検証をしてみる。


 どう頑張っても二思考以上は無理のようだし、意識しないと並列思考を発動しても一思考のままで意味がない。右手と左手とで同時に字が書けたが、利き手じゃない左手で書いた字は汚い。いろいろと練習が必要のようだ。そして、三十分ほどで並列思考が解けた。


 ステータスを確認すると、TPが6回復している。五分で1回復するみたいだ。TPは常時回復するみたいで燃費がいいな。レベルがあるようなので、並列思考を常時使用してレベルが上がるかも検証が必要だ。レベルアップの恩恵が気になる。


 今日一日、講義中にステータスを確認していてわかったことがある。


()内のプラス値は適合率240%のボーナス値っぽい。それが高いのか低いのか知らないけど。


 ほかにもレーダーマップらしきものがあるが、何も映っていない。そのほかにもコマンドがいくつかある。試しにショップコマンドというのを使おうとしたが、Lv0で使用不可と出た。この辺はおいおい検証だな。



 大学の帰り道、急に脳内に頭にキーンとくるほどのアラートが鳴り響く。


『500m圏内に敵性化生モンスターを確認』


 な、なんだ? 頼んでもいないのにステータスが開き、レーダーに赤紫のマーカーが表示される。


 ここに向かえってか!?


 その表示に従い小走りで移動。マーカーが示した場所は神社。丘の上にある神社で長い石段が続いている。こんなのダッシュで登るの高校の部活以来だな。キツイかも。


 なんて登り切ったが意外と余裕だった。俺ってこんなに体力あったっけ? まあ、いいか。


 石段を登り切った境内にはわんこを連れた女の子がいた。女の子が連れているわんこは、必死に女の子を守るかのようにに威嚇し吠え続けている。女の子のにはが見えていないようで、吠え続けるわんこを必死に宥めている。


 その何か、俺には巨大な白い猿に見える。あれが化生モンスターなのか?


 いやいや、おかしいでしょう!? 初エンカウントがあれですか? 明らかに強い化生モンスターでしょう! 最初はスライムとかのザコモンスターがお約束でしょう!


 くっ、これがゲームとの差か!? レベルに関係なく最初からボス戦もありってことかよ! 無理ゲーかよと言いたくなるが、その無理ゲーを越えてこそのゲーマー!


 目の前で女の子が襲われようとしているのを見て見ぬふりをするなど男が廃る! 美女だったらもっと燃えたけどな。


 まあ、それを言ってもしょうがない。


 それよりも、化生モンスターは間違いなく女の子を狙っている。わんこを嫌がって近寄れないでいるみたいだ。どう見ても化生モンスターのほうが強そうに見えるが……。犬猿の仲だからだろうか?


 さて、このまま見ていても仕方がない。女の子に被害が出る前になんとかせねばならぬ。


 気合を入れろ! 俺!


 正直、ビビりながら前に出る。


 吠えているわんこ、柴犬の頭を撫でわんこと化生モンスターの間に割って入る。


「くぅ~ん」


「お兄ちゃん?」


 背負っていたリュックを女の子に渡し、白猿の化生モンスターを見る。


 まったく俺に気づいていなかったとみえる白猿の化生モンスターが一瞬驚いた表情を見せたが、犬歯を剝き出しにして威嚇してくる。


 さて、初討伐モンスターとして華々しく散ってもらおうじゃないか!




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