70 手紙 ー領都ウィルライト

 ニーナ・エデエにとってはとんだ災難だった。

 予想外、そんな言葉ではすまないほどとんでもない災難に見舞われたのである。


「どうしてこんなことに……」


 思いもかけないトラブルで前の仕事を解雇されたニーナは、途方に暮れてばかりもいられず、この日も朝から職業紹介所の窓口に出向いた。

 けれど事情を知っているはずの職員は……いや、事情を知っているからこそかもしれない。

 今日ニーナに紹介出来る仕事はないという。

 元々ニーナは兄イエルとともに美人として有名だったし、そのイエルは今や騎士である。

 ハンナベレナの町はそれほど大きくないこともあり、すっかり噂が広がっているのだろう。

 しかし職だけでなく住むところまで失ったニーナに猶予はなかった。


 今は知り合いの宿を手伝う代わりに安く泊めてもらっているけれど、それも仕事が見つかるまでという約束である。

 ちょうど収穫期で宿が忙しい時期ということも幸いだった。

 だがその収穫期が終われば青の季節がくる。

 寒さや雪などで旅をする者はもちろん、隊商の往来もめっきり少なくなり宿は閑散期を迎える。

 そうなれば追い出されるかもしれず、なんとしても白の季節が終わるまでに次の仕事を見つける必要がある。

 けれどこの日も仕事は見つからず、足取り重く宿に戻って思わず溜息を吐く。


 ニーナと兄のイエルが生まれ育ったのはハンナベレナの町近くにあるモードルという小さな村で、両親とともに暮らしていた。

 その両親が不慮の事故で亡くなってすぐ、イエルは志願して町の守備隊に入隊。

 ニーナはしばらくのあいだ叔母の家に預けられていた。

 今も叔母一家は村で暮らしているが、イエルからの仕送りなどを巡って揉めて以来絶縁しており、いまさら頼ることも出来ない。

 だからなんとしても、それこそ一日でも早く仕事を見つける必要があった。


「お帰り、ニーナ。

 その顔じゃ、今日も仕事はなかったみたいだね」


 人目を忍ぶように裏口から厨房に入ったニーナに宿のおかみが声を掛けてくる。

 まだ夕食の仕込みには早い時間だが、ひょっとしたらニーナを心配して待っていたのかもしれない。

 そう思ったニーナは 「ただ今戻りました」 と挨拶をしてすることがあるなら手伝うというが、おかみは手に持っていた封書をニーナに差し出す。


「あんたに手紙だよ、イエルから」

「兄さんから?」


 おかみは、少し前に神殿から遣いが届けに来たと言って手渡すと奥に引っ込んでしまったから、どうやらこのためにニーナを待っていたらしい。

 受け取ったニーナは部屋に戻るのももどかしくその場で封を切ると、折りたたまれた便箋を取り出して広げる。

 そこには見慣れた兄の字で、便箋一杯に少し変わったことが書かれていた。


「……どういうこと?

 領都に来いっていうのはわかるんだけど、どうしてこんな……」


 一通り読み終えるが、意味がわからずもう一回読み返してみる。

 だがやはりよくわからない。

 いや、書いてあることはわかるのだが、なぜそんなことをしなければならないのかがわからないのである。


 紙もインクも決して安くはない。

 書信を送るのもお金がかかる。

 今のニーナには返信を送る金銭的余裕も時間的余裕もなく、とりあえず兄の指示どおりにすることにし、まずは世話になっている宿の夫婦に、支度が出来次第イエルがいる領都に出発することを話す。

 そして領都までの旅程を確認すると、そのあとは夕食の仕込みから店を手伝った。


 翌朝は朝食の片付けまでを手伝うと町役場に行き、手紙と一緒に送られてきた預かり証を使って旅費を引き出す。

 その足で古着屋へ行き、イエルの指示にあったとおり男物の服を一式購入する。

 なんとイエルは、ニーナに男装をして領都まで来るようにいってきたのである。


 丁度白の領地ブランカは乾期真っ只中なので、口や鼻、喉を守るために目から下を隠していても怪しまれることはない。

 旅人だけでなく、風の強い日や喉が弱い者もそうして過ごすことが多いから目立つこともない。

 そうやって自然な形で顔を隠し、風や埃避けのマントはフードを深く被りなるべく喋らないこと。

 髪も後ろで束ねて見えないようにする。

 当然男物のズボンを穿き、ブーツも男物を履くこと……などなど服装だけでなく行動や動きに至るまで、細かい指示が便箋一杯に書き連ねてあったのである。

 何度手紙を読み返してもその意味がわからなかったニーナだったが、準備を整えた翌日にハンナベレナの町を乗合馬車で出立してすぐに理解した。


 ハンナベレナは大きな町ではない。

 そのためまずは大きな町まで出て、そこから乗合馬車を乗り継ぎながら先に進むことになるのだが、最初の乗り継ぎの時のことである。

 同じ馬車には老夫婦とその娘とおぼしき三人組が乗り合わせていたのだが、まずは娘とおぼしき女が荷物を持って先に降り、地面に荷物を置くと、続いて降りようとした老女に手を貸そうとした。

 その時どこからともなく複数人の男たちが現われ、あっという間に地面に置かれた荷物を全て持ち去ってしまったのである。


 大きな町からはいくつかの方面に向かう乗合馬車が出ていて、停留所には他に何台も馬車が止まっており、何人もの乗客が乗り降りし、馬車と馬車のあいだを大きな荷物を持って行き来していた。

 その中でも老夫婦と女なら追ってこられないと思ったのだろう。

 おそらく男たちは、最初から老人や女子どもに狙いを定めて探していたに違いない。

 すぐさま町の守備隊が駆け付けて捜索が行なわれたようだが、この町には乗り継ぎのために寄っただけなので長居は無用である。

 ニーナはすぐに乗り継ぎの馬車を探して次の町に向かうことにした。

 だから三人の荷物が戻ったか、男たちが捕まったかどうかなど知らないが、イエルがなにを思ってニーナに男装をするようにいったのか理解出来たのである。


 きっとイエルは、本当なら自分で迎えに行きたかったに違いない。

 だがリンデルト小隊は、セスのせいで訓練以外の謹慎を申しつけられている。

 イエルが騎士である以上騎士団の命令は絶対であり、そんな状況では休暇申請も受理されるはずがない。

 おとなしく城で訓練に明け暮れるしかないのである。


 もちろんニーナはイエルの事情を知らないけれど、兄が迎えに来られないことは理解出来た。

 最初は謎だった手紙の内容も理解出来た。

 だから言いつけを守り、道中は男装をするだけでなく、なるべく男に見えるように振る舞うことを心掛けた。

 それでも一度だけ怪しげな男に声を掛けられたが、他の男たちがそうしているように、相手にせず通り過ぎてさっさと目的の馬車を探して乗り込んだ。

 そうして目的地の領都ウィルライトに到着したのは、ハンナベレナの町を発って三日後の夕方近くのことである。


 初めて見る町の大きさはもちろん人の多さにも圧倒されたニーナだが、それも一瞬のこと。

 すぐに兄の言いつけを思い出して気を引き締める。

 折角目的地まで無事に着いたのに、ここでなにかあっては全てが無駄になってしまう。

 それにイエルにも迷惑を掛けてしまうかもしれない。


(駄目よ駄目、ここで気を抜いちゃ)


 そう自分に言い聞かせて小さく深呼吸をすると、トランクを持つ手に改めて力を込めて歩き出す。

 時間的に考えれば先に宿をとるべきだったのだが、ニーナの足は自然と遥か遠くに見える城へと向かう。

 お金を除いた全財産を詰め込んだトランクは決して軽くはなかったけれど苦ではない。

 久しぶりに兄に会える嬉しさからか、その足取りはとても軽かった。


 イエルとニーナは成人した兄妹である。

 離れた場所で働く家族がなかなか会えないなんて普通のことだったし、以前はニーナも仕事に忙しく日々を過ごしており、兄のことなんて思い出すことの方が珍しいくらいだった。

 それでもやはり、会えると思うと嬉しかった。


 白の領地ブランカの領都ウィルライト。

 その広大な町の北東側に向かって続く、緩やかな勾配の遥か先に領主の居城がある。

 乗合馬車を降りたニーナは停車場を少し離れると、馬車で通りかかった男を呼び止めて城への道を訊いてみる。

 髭をたっぷりと蓄えた初老の男である。


「丁度いい。

 今から城門近くまでいくところだ。

 乗っていくかい?」


 特に急ぐ様子でもない男はわざわざ馬の足を止め、気の好さそうな笑みを浮かべてニーナを見る。

 イエルに会えるまでは油断しない……と、ついさっき気を引き締めたばかりのニーナは、フードを目深に被ったまま低めの声で言葉少なに尋ねた。

 だが男は訝る様子もなくニーナの返事を待っている。

 荷台に積んでいるのは小振りな酒樽がいくつかと木箱が幾つか。

 どれも人が入れる大きさではない。

 人気の少ない道を行かなければ大丈夫だろうと考えたニーナは、男の厚意に甘えることにした。


 そうして馬車にゆられて城に向かったのだが、乗合馬車の停車場から見上げた城はずいぶん遠くに見えたけれど、実際の距離はそれ以上に遠かった。

 それこそ歩いたら日暮れに間に合わなかったかもしれない……と考えたところで、ようやく今日の宿を取り忘れたことに気づく。

 けれどニーナはそのまま城に向かった。


 ニーナが住んでいたハンナベレナの町や生まれ育ったモードルの村は、領都ウィルライトと同じ領主の直轄地アベリシアにある。

 白の季節も二番目の月となり日中こそそれなりに気温も上がるけれど、夜はそろそろ肌寒くなってきた。

 それでもどこかの軒先で夜露さえ凌げれば一晩くらいなんとかなると思ったのである。

 だから宿をとるために馬車を降りることはせず、そのまま城に向かったのである。


「悪いが、俺が行けるのはここまでだ。

 用もなく近くまでいくと門番に怒られるんでね」


 町の外門近くで乗せてもらった馬車を城の外門近くで降りると、そこからは歩きである。

 御者台を降りて荷台からトランクを下ろすニーナに、男はゆっくりと話し掛ける。


「また見掛けることがあったら声を掛けてくれ。

 ついででよけりゃ乗せてやるよ。

 じゃあな」


 そう言って行ってしまうのをニーナは手を振って見送る。

 そしていよいよイエルに辿り着くための最後の関門を前にする。


 男が下ろしてくれたところから城門までは歩いてすぐだったが、向かってくるニーナの姿に気づいた門番が険しい表情を向けてくる。

 きっとこのまま近づけば、送ってくれた男が言ったように 「怒られる」 のだろう。

 だがイエルに会うには他に方法がない。

 ここに来てニーナは、宿をとっていなかったこと以上に重大な問題に気がついたのである。


(どうしたら兄さんに会えるのかしら?)


 時間もお金も惜しかったから、イエルからの手紙を受け取ってすぐに支度を整えてハンナベレナの町を発ったけれど、イエルにはそのことを知らせていない。

 だからニーナには城に行く以外、イエルと会う方法がわからなかったのである。


 一応歩きながら考えてみた。

 このまま進んで、門番と話してもイエルと会えなければ諦めて宿をとり、改めてイエルに宛てて手紙を出す。

 城下の町からならその日のうち、あるいは翌日にはイエルに届くだろうから返事もすぐに届くだろう。

 泊まっている宿を書いておけば、ひょっとしたイエルが会いに来てくれるかもしれない。

 だから門番と話してイエルと会えそうにないならすぐ町に戻ろうと決めたけれど、なにもせずに諦めるのは嫌だった。


 このマルクト国が 【四聖しせいの和合】 によって戦乱を終える以前からここに在る、領主クラカライン家の居城。

 その歴史と威厳を感じさせる城壁や城門を前に、フードを深く被ったままのニーナは一度足を止め、深呼吸をしてからすでに警戒している門番に近づく。


「おい、お前!」

「止まれ!」


 構えた槍の先端をニーナに向けて声を荒らげる二人の門番。

 その切っ先がニーナに届くにはまだ十分な距離があるが、声を掛けられたところで言われたとおり足を止める。

 もちろん敵意がないことを示すためである。


「城になんの用だ!」

「これより先は立ち入り禁止だ!」


 ここまで慎重に慎重を期してやって来たニーナは、まだ慎重な姿勢を解かず被ったフードはそのまま。

 おそらくそれだけでも十分すぎるほど不審に思われたに違いない。

 だがフードを脱いで顔を見せる勇気はまだない。


「あの、人に会いたいのですが……」


 イエルの名前を出してもいいのか?

 そのこともまだわからなかったから、わざと下げた声でそれだけを言ってみる。

 すると門番の二人は槍を構えたまま、ニーナの様子を伺いつつ互いに顔を見合わせる。

 そこに奥から、馬を引いた二人組が通りかかる。


「……トラブルか?」


 二人の門番とニーナの様子に不審なものを感じたその一人が、門番のどちらにともなく声を掛ける。

 すると一緒にいたもう一人の男が、余計なことをするなと言わんばかりに止めようとする。


「おい、ジョスティス」

「大丈夫だ、なにも暴れようってわけじゃない。

 ちょっと話を聞くだけだ」

「だが……」


 止めようとしたほうが言い淀むタイミングで門番の一人が口を開く。


「その、こいつが人に会いたいと言ってきまして……」


 すると馬を引いた二人は思ったようなトラブルではないとわかり、少し拍子抜けした様子を見せる。

 だが今もニーナがフードで顔を隠していることもあり、まったく警戒していないというわけでもないらしい。

 苦笑いをしつつも二人ともニーナを観察するように眺めている。


 ニーナには二人がどういった人間なのかわからないが、門番たちのように防具も纏っていなければ槍も剣も持っていない。

 門番の態度から貴族かも……と思ったのは一瞬のこと。

 城下の町で見てきた平民と変わらない彼らの服装は、ニーナが以前に働いていた商家の主人たちよりもずっと質素なものである。

 仕立てはもちろん、使われている生地も安いものだろ。


 では何者なのか?


 だがその疑問は、ニーナのように城を訪ねてくる人間など非常に珍しかったから、門番を含む四人の男たちも同じように考えていた。

 見たところマントの下に剣を携えている様子はない。

 だが暗器や毒物の所持は見た目ではわからない。

 そこで無難なところから探りを入れてくる。


「その会いたいって相手は城に勤めてるのか?」

「勤めてるというか……」


 騎士が仕えるのは領主である。

 城に勤めるという表現は正しくないような気がして言葉に困るニーナに、もう一人の男が馬のたてがみを撫でながら話し掛ける。


「気を悪くしたら申し訳ない。

 俺たちも怪しい人間を城に入れたら怒られるんでな。

 その……会いたい奴っていうのはなんの仕事をしているのか、訊いてもいいか?」

「……騎士です」


 逡巡したニーナがようやくのことでその言葉を口にすると、不意に四人の男たちの様子が変わる。


「騎士に会いたいって……会ってどうする?」

「先に言っておくが、騎士は個人的な頼み事は受けられない。

 領主様ランデスヘルに忠誠を誓っているからな」

「そうじゃなくて、知り合いがいるんです」


 門番と話して無理そうならすぐに引き返すつもりでいたニーナだったが、この状況では、中途半端に引き下がると却って怪しまれるような気がしたので、知り合いの騎士を頼って領都に来たこと。

 だが連絡の取り方がわからず直接城まで会いに来たが、どうしたらいいかわからず困っていることを簡潔に話す。


 話を聞いて門番の二人は、困惑を浮かべながらも馬を引く男たちの様子を伺って口を噤む。

 馬を引く男たちは、やはり困惑を浮かべながらも相談するように顔を見合わせる。

 そしてジョスティスと呼ばれたほうの男が先に口を開く。


「……知り合いねぇ」

「言い遅れたが、俺たちも騎士だ。

 そういうことなら取り次いでもいいが、すぐに見つけられるかわからない。

 なにしろ城内は広いし、この時間はどこにいるかわからん奴が多いからな。

 先日、急に決まった討伐で出払っている奴もいるし」

「討伐?」


 俄に不安を覚えるニーナの呟きに、ジョスティスはもう一人の男を 「おい、カッセラ」 と呼んで止める。

 つい今し方、知り合いの騎士を頼って領都に来たと聞いたばかりである。

 その騎士が不在となれば他にあてもなく困ることはすぐにわかる。

 しかもその不在理由が討伐となれば不安になるのも当然だろう。

 ただでさえ困っている相手を悪戯に不安がらせるなというジョスティスに、カッセラも 「そういうつもりじゃないんだが……」 と申し訳なさそうな顔をする。


「なんなら今日は一度、宿にでも引き取ってもらって、明日、時間を決めて出直してはどうだ?

 取り次ぎは今日中にしておいてやるから、待ち合わせておけばすぐに会える。

 どうだろう?」


 ジョスティスの提案は、最初にニーナが考えていたことである。

 しかも今日中に連絡をつけておいてくれるというから、手紙を出す手間も返事を待つ時間もかからない。

 しかも討伐に出ていて不在なら、代わりにジョスティスが明日それを教えてくれるともいう。

 決して悪い話ではないし、ここで下手に食下がるのもよくない。


「そう……ですね。

 わかりました、そうします」

「そうと決まれば肝心の騎士の名前を訊いても?」


 肝心なことを忘れるところだったと笑うジョスティスに、ニーナも正直に兄の名前を口にする。


「イエル・エデエです」


 すると次の瞬間二人の男が驚いた顔をする。

 それまで口を噤んでいた二人の門番も、依然口は噤んだままだったが驚いた顔をしている。


「イエル?」

「え? お前、イエルの知り合い?」

「そ……ですが……」

「なに? あいつ男にも?」

「あのイエルだからな、わからんぞ」

「考えるのも恐ろしいが、ありか」

「ありだと思う」


 ニーナの戸惑いをよそに、ジョスティスとカッセラは二人だけで口々に言い合う。

 それこそ口を噤んだままの門番も話はわかるらしく、これまでで一番の困惑顔を見合わせている。


「あの……」


 不安を覚えつつもニーナがどういうことか尋ねようとした矢先、ジョスティスとカッセラが来たほうからまた一人、男が馬を引いて現われる。


「ジョスティス、カッセラ、どうした?

 そんなところに突っ立って……」


 名前を呼ばれた二人はほぼ同時に振り返りながら声を上げる。


「副長!」

「いいところに!」

「なんだ、なんだ?

 また面倒ごとじゃないだろう……」


 最後の 「な?」 を発音する前に、フードを目深に被って顔を隠した不審な人物に気がついたその男は、すぐさま怪訝な表情で 「誰だ?」 と声を潜める。

 そこでジョスティスとカッセラはさっき聞いたばかりのことを副長と呼んだ男に話して聞かせる。


「イエルの知り合い?」


 副長と呼ばれた男は驚いた顔でそう呟くと、カッセラやジョスティスがなにか言い返すより早く 「あ!」 と一際大きな声を上げる。

 そしてその驚きのままに言葉を継ぐ。


「ひょっとしてお前、イエルの妹かっ?!

 そういやこのあいだ……あー……」


 なにかを言い掛けたガーゼル・シアーズは額に手を当てて考え込む。

 あれはいつのことだったか?

 先日、ジェガ・リュドラルに稽古をつけられた時に出来た打ち身。

 その痛みに邪魔をされながらも必死に記憶を手繰る。


「そうだ、確かイエルと、奴の妹のことを話したはずだが……」



【ハルバルト卿バルザックの呟き】


「ハウゼンが死んだだと?

 ………………まさか……クラカラインの仕業、か?

 エルデリア? いや、マリエラか?

 あの二人ならあり得る話だが……いまさらクラウスの仇でも討ったつもりか?」

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