63 五人の魔術師 (2)
アルフォンソを筆頭に、ウルリヒ、ヴィッター、クレージュ、ヘルツェンの、五人いるセイジェルの側仕えは姓を持たない。
あるいは本当は持っているが、年齢と同じく主人であるセイジェルと上司であるマディンだけが知っているのかもしれない。
元々マディンはセイジェルの筆頭側仕えで、セイジェルが幼い頃から世話をしてきた。
先代の使用人頭が、先代当主ユリウス・クラカラインが別邸に居を移す際に同行……という形で追放されたその後任として使用人頭となったのである。
それらすべてがユリウスの唐突な引退騒ぎ以降のことなので、マディンがクラカライン家の使用人頭となってまだ五年ほど。
つまりアルフォンソがセイジェルの筆頭側仕えとなってからも五年ほどで、それ以前はマディンの元、他の四人と同列にあった。
今でこそセイジェルやアーガンと同じような長身の成人男子となった彼らだが、クラカライン屋敷に来た当時はまだ子どもで、当時は一人しかいなかったセイジェルの側仕えマディンの元、見習いとして仕事を覚えたのである。
そもそも彼らがクラカライン屋敷に来た経緯には、当時の神殿長や先々代当主ヴィルール・クラカラインが関わっているのだが、当時の神殿長は彼らがクラカライン屋敷に来た少し後に。
ヴィルール・クラカラインも、孫セイジェルのクラカライン家相続及び領主就任に尽力したのちに亡くなっている。
つまりこの二人も彼らの年齢や本名を含めた素性を知っていたと思われるが、故人である。
五人が屋敷に来て以降に神殿長が関わることはなく、当時は現役当主であり領主であったヴィルールも多忙を極めていた。
いや、多忙でなくてもヴィルールに使用人の仕事を教えることは出来ないだろう。
五人と同じく子どもの頃からクラカライン家にいるマディンに側仕えの仕事を教えたのは、そのヴィルールの側仕えたちである。
五人がセイジェルの側仕えになった経緯にはもっと複雑な事情があり、彼らの自由は誓約によって制限されているのだが、そのひとつがセイジェルとの主従関係でもある。
そして子どもだった彼らはセイジェルの側仕えとなるべく、見習いとしてマディンに一から仕事を教わることになった。
これが彼らがマディンに頭が上がらない理由だが、筆頭にアルフォンソを選んだのはマディンではない。
セイジェルである
しかも顔が好みとか性格が合うなどといった理由ではなく、もちろん一番仕事が出来るからなどと言った真っ当な理由でもない。
ただ名前をアルファベット順に並べた時、一番先頭に来るからという理由である。
だが彼らの名前も本名かどうか怪しいもの。
クラカライン家に来ることになった経緯に神殿長が関わっていることから、孤児であった可能性も十分にある。
ならばなおのこと、本名ではない可能性が高い。
五人全員が同世代で、多少のばらつきはあれども髪も明るい金色をしているが、一人も血縁はないという。
全員が背の高い痩身で顔もいいが、全くといっていいほど似ていないが、もちろんこれだって彼らがそう言っているだけで真偽は不明。
だが神殿長の関与はともかく、神殿にいたことがあるというのは事実らしく、クラカライン家に来た当時から魔術師の才は飛び抜けていた。
そして誓約によって結ばれたセイジェルとの主従関係、その本職はセイジェル・クラカライン直属の上級魔術師である。
騎士団が忠誠を誓うのは領主であるように、魔術師団が忠誠を誓うのも領主である。
それとは別に、クラカライン家が直接抱える魔術師たちがいる。
現在の当主であるセイジェルの要請を受け、ノエルの養育係となったミラーカもクラカライン家お抱えの魔術師となるわけだが、彼女はノエルの直属。
セイジェル直属であるアルフォンソたち五人と同列に配されることはないけれど、一般には同じ上級魔術師に区分されている。
弟のアーガンが、
つまり
その一人であるミラーカは、ただ名門貴族出身というだけで威張り腐っている上級魔術師に対して引き下がることはないのだが、彼らが相手では勝手が違った。
彼らが魔術を使うところをミラーカは見たことはない。
見たことはないが、それでもなんとなくわかるのである。
彼らには勝てない。
おそらく一対一でも勝てないだろう。
魔術師としてはもちろん、腕力でも。
それでも取り戻さなければ、ノエルが、よりによって
なんとしてでも阻止しなければ! ……と思っているあいだにも、ノエルを抱えたクレージュは寝台へと近づいてゆく。
ここは部屋の中である。
それこそ屋敷中を移動するならともかく、いかにセイジェルの部屋が広いとはいえ、室内の移動にどれほども時間はかからない。
しかも彼らは背が高く歩幅がとても広い。
何度も 「お待ちなさい!」 と言いながら追いかけたミラーカだが、クレージュはあっという間に寝台の側まで来ると、ゆっくりとノエルを床に下ろす。
すると寝台の側にいたウルリヒがにっこりと笑い、ノエルに話し掛ける。
「どうぞ、こちらの寝台で少しお休みください」
「姫様、その顔に騙されてはいけません!
その寝台は閣下のです!」
ノエルはセイジェルの嗜好を知らず、ミラーカがなにを言っているのかさっぱりわからない。
ただ制止する大きな声に驚き、体がビクリと強ばる。
「セイジェルさまのおふとん、だめ……」
ポツリと呟いたノエルは、おどおどしながらも周囲を見回す。
そして大人たちが何をするつもりかと見ている前で部屋の隅に移動すると、壁にもたれ掛かるようにうずくまる。
相変わらず手放さない鞄を大事そうに抱えたまま、いつも家でそうしていたように、小さく丸めた体を固い床に横たえる。
「ここでねる」
あまりにも予想外の行動に、呆気にとられてしまったミラーカはすぐに反応出来なかったが、ウルリヒやクレージュ、ヘルツェンの呆れたような 「おやおや」 や 「これは困りましたね」 などと言った呟きで我に返る。
「いけません、姫様!」
駆け付けたミラーカに無理矢理起こされると、ノエルはぼんやりと呟く。
「ここ、だめ。
そと……いく」
部屋の片隅も駄目ならもう外しかない。
絶望的な気持ちになるノエルだが、駄目だと言われているのだから仕方ない。
ミラーカはアーガンの姉だが、アーガンと違ってよく怒る。
本当は一度もノエルのことは怒っていないのだが、ノエルにはその判断が出来ない。
だから自分が怒られていると思い、ゆっくりと立ち上がる。
寝台はセイジェルのものだから使っては駄目。
床でも寝ては駄目と言われては外に行くしかない。
悲しくて辛かったけれど怒られるのは嫌だったし、このままここにいては叩かれるかもしれない。
痛いのはもっと嫌だったから諦めて外に行こうと歩き出そうとしたところ、いつのまにそばまで来ていたのか?
再びクレージュに抱え上げられる。
「気になさる必要はございません。
旦那様が使っていいと仰っていたのですから」
そして再び寝台の側まで連れて行かれ、下ろされる。
「だんなさま、セイジェルさま。
でもミラーカさま、だめっていう……」
周りの大人たちの言うことが違っていれば、おそらくノエルでなくても子どもは迷うだろう。
どうしたらいいのか迷うノエルを、距離を置いて囲むように立つヘルツェン、ウルリヒ、クレージュは澄ました顔で、だがなにか言いたげにミラーカを見る。
居心地の悪さを覚えるミラーカは慌ててノエルのそばまで行くと、膝を着いてノエルと視線を合わせて話し掛ける。
「そうだわ、わたくしの部屋へいらっしゃいませ。
わたくしの寝台で休めば良いのです」
そうすればセイジェルの寝台をノエルに使わせずに済む。
窮地からの見事な起死回生案である。
慌てて考えたわりになかなかの名案だと自画自賛するミラーカだが、そうは問屋が卸さない……ならぬ彼らが黙っていない。
ここまで来ると、もうミラーカへの嫌がらせだろう。
あるいは主人に対する暴言の数々への仕返しか。
「旦那様は、姫の部屋の支度が整うまでこちらでお過ごしいただくように仰ったのです。
他へお連れすることはまかりなりませぬ」
最初に口を開いたのはウルリヒ。
それにクレージュ、ヘルツェンと続く。
「そもそも令嬢の部屋も片付けの途中では?」
「まさかそんな部屋に姫をお連れするおつもりですか?」
ミラーカは今朝、このクラカライン屋敷にやって来たばかりである。
昨日、慌ただしく詰め込んだ荷物はまだほとんどがそのまま部屋にある。
そのことを思い出してミラーカは 「うっ」 と言葉を飲む。
セルジュに連れられてクラカライン屋敷に着いたミラーカは、荷物の運び入れをクラカライン家の使用人と二人の側仕えに任せ、自身は領主との面会に臨んだ。
元々相手が相手なので側仕えの同席は出来ない。
だからそのあいだ彼女たちに部屋の片付けを任せたのだが、彼女たちにも自分の荷物がある。
使用人棟に用意されている部屋まで案内してもらい、自分たちの荷物を運び入れる。
それからすぐミラーカの荷ほどきを始めたとしても、全てを片付ける時間はなかったはずである。
寝台などの支度はすでに出来ていただろう。
だからノエルをミラーカの寝台で休ませようと思えば出来るのだが、ノエルが寝ていると部屋の片付けが出来ない。
セイジェルがそんなことまで考えて自分の部屋をノエルに貸したとは思えないが、その判断に間違いはなかったと言わざるを得ない。
認めたくない敗北感に最後の最後まで往生際の悪さを見せながらも、どうしていいのかわからないノエルに話し掛ける。
「……仕方ありません、閣下の寝台を少しだけお借りしましょう」
「すこし……はしっこ」
「いえ、少しの時間です。
掃除が終わったら姫様のお部屋に参りましょう。
眠ければ、そちらでまた寝ていいですからね」
「わかった、おふとん、ねる」
ようやくミラーカからもお許しが出たので、寝台に這い上がったノエルは毛布に潜り込む。
「あのね、おふとん、あったかい。
あとね、ふかふか」
「そうでしょうとも。
なにしろ
そう言ったミラーカは一度言葉を切るが、すぐにハッとして少し早口に言葉を継ぐ。
「いいことを思いつきました!
姫様の寝台にも同じ物を用意していただきましょう。
そうしたら毎日ふかふかの寝台で温かく眠れますわ」
そしてなぜか一番近くにいたクレージュを睨みつけるが、答えるのはウルリヒである。
「その程度のことでしたら問題ないでしょう。
マディン様にお伝えしておきます。
ただ本当に上等な寝具ですから、手配に数日かかると思われます」
すでにノエルの部屋に用意されている寝具も十分すぎるほど高価な物である。
希望の寝具が届くまでそれで我慢して欲しいとウルリヒは言うが、よほど疲れていたのか?
それとも寝心地がいいのか?
ノエルは寝息を立て始めていた。
「……どんなにお辛い日々を過ごしてこられたのか……」
鞄を抱えたまま体を丸めて寝息を立てるノエルを見ながらポツリと呟くミラーカに、居室にいたアルフォンソが寝室と隔てるカーテンのそばから声を掛ける。
「令嬢もお疲れでございましょう。
お茶の支度が出来ました、こちらで一服どうぞ」
振り返ってみればいつのまにかヴィッターが戻ってきており、テーブルにお茶の準備をしている。
「こちらにはわたくしどもが付いておりますので」
寝台で眠るノエルを振り返ったミラーカはウルリヒに促されて居室へと移り、勧められるまま椅子にすわる。
そんなミラーカに合わせて付いて来たアルフォンソがテーブルの側に跪き、ティーポットを手に茶をカップに注いでいるヴィッターの後ろに立って話し掛ける。
「ヴィッターがマディン様から令嬢への伝言を預かって参りました」
「マディンが?
なんと?」
「令嬢の側仕えを一人、しばらく借り受けたいとのことでございます」
マディンの申し出はミラーカには意外だったらしい。
話す二人のあいだでヴィッターが、湯気から芳香を漂わせるティーカップをミラーカの前に置く。
ミラーカはカップを満たす紅い液体を見つめながら考え、そしてアルフォンソに尋ねる。
「なにをさせようというのですか?」
クラカライン家にも女性使用人は何人もいるはず。
それなのにわざわざ他家の使用人を借りてどうしようというのか、ミラーカでなくても疑問に思うだろう。
「身構える必要はございません。
姫のために、せめて今日明日を過ごされる最低限の着衣などを町で調達してきていただきたいとのことです」
出入りの商人には連絡をしているが、さすがに今日呼んで今日商品を持ってこさせることは難しい。
そこで必要最低限の物を直接町にまで買いに行って欲しいというのである。
それをなぜミラーカの側仕えに頼むのかといえば、ノエルを湯に入れておおよその服の大きさもわかったはずだからという。
ミラーカ自身、今もノエルが古着の肌着を着ていることも、袖を通していない新品とはいえセイジェルのチュニックを着ていることも気に入らない。
出来ることならすぐにでも着替えさせたい。
今から町に降りれば、買い物を済ませても夕方には城に戻ってくることが出来る。
しかもミラーカの側仕えを買い物に行かせるのなら、ミラーカの趣味でノエルに似合う物を選ばせることも出来る。
マディンの申し出を一石二鳥、あるいは渡りに舟などと思ったミラーカは一も二もなく受けることにした。
すでに馬車の用意はしてあり、荷物持ちに下男も付けてくれるという。
さらにはマディンの代わりにヴィッターが同行するという。
これは荷物持ちならぬ財布持ちだろう。
ミラーカが承諾すると、早速浴室の後片付けをしていたジョアンとアスリンに、あとは下働きがするからいいとアルフォンソが声を掛け、アスリンは買い物へと出掛けることになる。
給仕をアルフォンソたちに任せ、ジョアンもミラーカの部屋に戻り荷ほどきをすることになった。
さらにノエルのことはアルフォンソたちが見ているから、ミラーカも茶を飲んだら自分の部屋に戻って荷物を片付けてはどうかと提案される。
一人より二人でしたほうが早く片付くだろうと。
「……なにを企んでいるのですか?
まさか姫様によからぬことをするつもりでは……」
使用人の立場で椅子にすわることは出来ないアルフォンソだが、腕組みなど偉そうな態度をする。
物言いも、言葉こそ丁寧だがずいぶんと横柄になる。
「わたくしたちが?
さすがにクラカラインが相手では……と申しますか、あんな鶏ガラでは食指が動かぬと申しますか」
眠るノエルのそばにいても特にすることはない。
しかもそんなところに三人もいては鬱陶しいだけである。
退屈だからと居室にやって来たウルリヒも、アルフォンソの隣に立って同じように腕組みをする。
「わたくしたちは旦那様ほど悪食ではございませんから」
「閣下に言い付けますよ」
「ご自由に」
「この程度でお怒りになるようでしたら、わたくしたちの首はとっくに飛んでおります」
「ですがほれ、このとおり無事でして」
わざとらしく首を突き出してみるアルフォンソにミラーカはムッとする。
「確かにご趣味の悪いこと」
「趣味の悪さでは、わたくしたちも旦那様に負けてはおりません」
「旦那様より趣味は悪いでしょう」
「ウルリヒ、言わなければ令嬢にはわかりませんよ」
「わたしとしたことが、ついうっかり」
それこそ趣味の悪い二人のじゃれ合いを見せられミラーカは気分が悪い。
「あなたたちの趣味などどうでもよろしい」
「どうでもよいと仰るくせにいつまでも嫌悪されて」
「本当にしつこい。
アスウェル公子やリンデルト公子に迫ったのならともかく」
「まったく。
いつまで旦那様に噛みつかれるおつもりなのやら」
「お黙りなさい。
お……男同士なんて生産性のない。
不毛です」
それこそもう何年も前のことなのにいまさら目撃した現場でも思い出したのか、顔を赤くしたり青くしたりと忙しないミラーカ。
ちなみにアーガンはともかく、セイジェルはセルジュのことを、自分と似た顔を抱くのは気持ち悪いと言う。
クラカライン家の直系男子は世代の違うユリウスたち
それこそ兄弟といっても通じるくらいには似ていた。
「わたくしたちはともかく、旦那様は女性もお抱きになります」
「わたくしたちも女性を抱けますけどね」
彼らがミラーカをからかっているのは間違いないから、どこまで本当のことかはわからない。
わからないけれど、あまりに露骨な言葉にミラーカは言葉を飲む。
「……まさか、本当に姫様になにかするつもりではっ?」
「さすがにそれは首が飛ぶでしょうね。
わたくしたちの関係はその程度ですから」
「所詮は誓約に縛られた主従関係です。
むしろそれもよいと思うのですが、さっきも申し上げましたとおり、あんな鶏ガラでは勃ちません」
「旦那様でしたら勃つでしょうけど、悪食ですから」
「か……っかの趣味の悪さはわたくしも存じております。
存じておりますが……」
ミラーカが言葉を失っても二人は容赦なくからかい続ける。
「そもそも令嬢も、いずれはアスウェル公子に嫁がれる身ではございませんか」
「そのご様子ではまだなにもされていないようですが」
「先に申し上げておきますが、お屋敷ではお慎みくださいませ。
姫の教育に悪影響ですから」
「そなたたちが一番悪影響ではありませんか!」
手にしていたカップをテーブルに置いたミラーカは感情に任せて声を荒らげる。
すると居室と寝室を隔てるカーテンからクレージュが顔を覗かせる。
「少しお静かになさいまし。
姫が目を覚されますよ」
慌てて両手で口を押さえるミラーカと違い、欠片ほどもそんな可愛げを見せないアルフォンソとウルリヒ。
並んで立つ二人は澄ました顔でクレージュを見る。
「なにか?」
そうアルフォンソが問うとクレージュが答える。
「マディン様にご相談して医師を呼んだほうがいいと思います。
少し様子がおかしい。
それに痩せすぎです」
「鶏ガラですから」
「あれではもう出汁も出ないでしょう」
ふざけて呆れてみせるウルリヒに、静かにと言われたばかりのミラーカが再び声を荒らげる。
「お前たち、いい加減になさい!
すぐにでも医師を……」
「お待ちを」
それこそその足で呼びに行こうとでもいうのか、腰を浮かせるミラーカをすかさずアルフォンソが止める。
「ここはクラカライン屋敷でございます、勝手は許されません。
まずはマディン様にご相談を」
ふざけていた先程とはうってかわって柔らかな物腰で話すアルフォンソだが、どこか有無を言わせない押しの強さがある。
ぐっと言葉を飲んで浮かしかけた腰を下ろしたミラーカだが、ふと思い出して呟く。
「そういえば……その元凶はどうなったのです?」
「元凶……とは?」
ウルリヒが尋ね返す。
「もちろん姫様の側仕えというか、元側仕えというか」
するとアルフォンソがつまらなそうに 「ああ」 と応える。
「あれらがどうかしましたか?
令嬢がお会いしても仕方がないと思いますが、お会いしたいのでしたらまだ間に合うと思いますが」
続けてウルリヒに 「どうされますか?」 と尋ねられたミラーカは、アルフォンソの言葉を口の中で繰り返し、その意味に気づいた瞬間背筋を冷たい物が走る。
「まだ、間に合う……?」
【騎士ガーゼル・シアーズの呟き】
「貴族の一部に軍備削減を唱える連中がいることは知っています。
手始めに騎士の数を減らせと言っていることも聞いています。
ですが現実的ではありません。
交易の要所として国の発展を支えるためにも、国境警備をはじめとする軍備は削れません。
不安定な
団長のお考えは、同じ騎士として理解出来ます。
理解は出来ますが、だからといって無理矢理に数を維持しようとしてあんな半人前に叙位をするのは……むしろ騎士の質を下げ、連中に付け入らせる隙を作るだけではありませんか。
セスのこと一つとっても、不適格者への叙位として
ただでさえあの御方は先代様のせいでご苦労なさっているのに……」
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