ワクチン

「ここ、知り合いの母親がやってる店でね。個室もあるしゆっくり出来ると思う」

今川さんの案内で店に入る。

「いらっしゃいませ。あら明日香ちゃんこんにちは」

「優美さんこんにちは。すみません個室大丈夫ですか?」

「もちろんよ。さ、こちらへどうぞ」

案内された個室に入ると

「あ〜、やっと来たおそ〜い!」

帰ったはずの志島さんが待っていた。


「え?なんで……?」


さっきの光景がフラッシュバックする

足から力が抜けて俺はその場で座り込んでしまった

「ちょっと、黒瀬くん、しっかりして!」

「晶ちゃん、大丈夫だから。落ち着いて」

抱きしめてくれる朝倉さんの温もりを感じることで少しだけ冷静さを取り戻すことができた。

「……はい、もう落ち着きました。ありがとうございます」

「それじゃあ座って、ちゃんと説明するから」

「はい……」

「あ〜、ごめん。悪かったわ。まさかそこまでショックを受けるとは思わなかったし」

「優香。流石に今はちゃんと謝ろう」

「うん……ごめんなさい黒瀬くん」

「あ、いえ、私こそ取り乱してすいませんでした」

「とりあえず改めて自己紹介しようか。私は今川明日香。真由美とは中学からの付き合いよ。よろしく」

「次はあ〜し、志島優香ヨロシク〜」

「黒瀬晶です。新学期から女子として通う予定の元男です」

「真由美から話を聞いた時には何の冗談?って思ったけどさっきの反応見てると本当に女性に変わったのね」

「あ〜しもへたり込んだ時の顔見てまゆみに助けを求めそうになったし?」

「あの時は焦ったよ……。晶ちゃんがあんなに動揺するとは思わなかったもん」

「あ〜、そのあたりの説明をして欲しいんだけど。どう言う事なの?朝倉さん」

「簡単に言うとワクチンかな」

「ワクチン?」

「うん。晶ちゃん新学期から女の子として通うでしょ。さっきの優香ちゃんみたいな反応する人もいると思うんだ」

「まあそれはお……、私も想像してたけど」

「だから制御の効く所で一度体験しておけば学校でそういった人に絡まれた時もなんとかなるんじゃないかって真由美に頼まれたんだ」

「想像以上にショック受けててあ〜しもびっくりしたわ」

「本当にごめんなさい。まさかこんな事になるなんて」

「別にいいよ確かにショックだったけど私の想像が甘かったって事だから。それより2人は私の事気持ち悪いとか思わないの?」

「あ〜しはそんなのぜ〜んぜん気にしないし」

「私は……気にならないと言うと嘘になるわね」

「やっぱり……」

「でもね、幸か不幸か今までほとんど関わりが無かったでしょう?だから私は貴女の事を2学期からの転入生だと思う事にするわ。貴女の希望には沿わないかもしれないけど」

「実は7月の半ばに復学した時にはほぼ女の身体になっていたんですけど私の希望で男として通わせて貰っていたんです」

「うん?それで?」

「それは『変わる事』よりも『変わった事で拒絶される事』が怖かったんだなって今になって思います。変わる事が怖かったのも確かですけど」

「そうだったんだ。じゃあ私の『転入生だと思う』って答えは」

「何が正解かはまだわからないですけど、受け入れてもらえるのは有難いです」

「まぁ、それで良ければ良いんだけど」

その時個室の扉が開いて店長である優美さんが入って来た。

「みんなおかわりをどうぞ。それで話はまとまったかしら?」

「ありがとうございます優美さん、何とか」

「なら良かった。ゆっくりして行ってね」

「ありがとうございます」

「貴女が黒瀬さんね。ごめんなさいね娘が酷い事言ったみたいで」

「いえ、それは私の為に」

「うん、それでもね親としては謝らせて欲しいの。ごめんなさいね」

「はい、ありがとうございます」

その後しばらく4人で雑談をして過ごした。

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