第9話 死神ちゃん

帰りが遅くなり、彼女の両親から、「泊まっていきなさい」と言われた。理由は分からないが、かなり気に入られている。本来なら、とても喜ぶべきことなんだと思う。ただ、なぜか素直に「はい」と言えない、言いたくない自分がいた。


安っぽい愛想笑いだけ残し、逃げるように豪邸を出た。モヤモヤした気持ちで家路を急いでいると、いきなり冷たい雨が降ってきた。コンビニで傘を買い、しばらく歩いていると誰もいない歩道の真ん中に白い女が立っていた。

傘がなく、びしょ濡れ。ワンピースが肌にはりついている。

無視するわけにもいかず、声をかけた。


「あの……大丈夫ですか? 傘、使います?」


女は、まだ僕に背を向けたまま、


「アナタは、どうするの?」


「僕の家は、近くなので大丈夫です。使ってください」


すでにかなり濡れてるし、手遅れ感もあったが、傘を女の側に置いてその場を去ろうとした。


「ウソつき………。全然、近くじゃないじゃん」


「っ!?」


唾を飲み込むことしか出来ない。雨に濡れるとか……。もう、どうでも良かった。


この女を知っている。


名前すら分からない。


それでも僕は、この女を確かに知っている。溢れた記憶が、後押しする。


「いま……まで、どこ…行ってた? 探したよ。毎日毎日……まいにち」


溢れた気持ちが、止まらない。


「私のこと憎いでしょ? ハクシを裏切って、一人にしたから……。いいよ、ビンタして」


目をギュッと閉じた可愛い女の頭を撫でてから、ゆっくりキスをした。


「帰ろう。二人の家に」


「…………」


「嫌って言っても、引き摺ってでも連れていくからな」


「………嫌じゃない」


二人ともびしょ濡れ、それでもくっついて歩く僕達は。


世界中の誰よりもーーーー。


幸せだと思う。

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死神ちゃん、笑って!! カラスヤマ @3004082

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