第8話 繋がり

つまらない仕事(魂回収)をようやく終え、三日ぶりに自分の部屋に戻ってきた。精神的にヘトヘトで、食欲すらない。だんだんと私が私で無くなっていく……。二億回目のため息の後、何年も過ごした下界の生活を思い浮かべた。


ハクシは、死神である私を弱くする。迷わせ、判断を鈍らせる。だから私は、彼が人間の中で一番嫌いだ。


「………今……何してるの? 私の知らない女とイチャイチャ中かな……。 絶対に……。絶対にっ! ハクシは私の手で一番キツイ地獄に落とすからね。だから……今のうちに楽しむだけ楽しめばい…ぃ…。うぅ……ぅ…」



いつものように涙を拭き、寝る準備を進めていると姉さんに呼ばれた。仕方なく、再び外着に着替えて第六聖堂へ。

扉の前に立つ屈強な警備兵に軽く会釈し、中に入る。


「こんな時間に何ですか?」


「ごめんね~。この前さぁ、話したでしょ。 ナタリに新しい適合者を紹介するって。男よ、男。一人だと寂しいでしょ? エッチもしたいお年頃でしょ~?」


私達の前に眼鏡をかけた背の高いアイドルのような天使が現れた。翼が六枚あるから、大天使長クラス。あの若さで、この階級。誰が見てもエリート中のエリートだと分かる。


「アナタには、このクラスじゃないと釣り合いとれないよね。彼さぁ、アナタのファンなんだって。とりあえず、くっつけばいいと思うよ」


「…………お姉ちゃん、悪いけど。まだ、私には必要ない。ごめんなさい……」


若い天使は、いきなり私の手を握ると手の甲にキスをした。


「これから宜しくお願いしますね。私とアナタの二人なら、誰もが羨む夫婦になれます。二人で幸せになりましょう!」


「…………チッ……」


私は、男の手首を握り返すと、そのまま思い切り捻り潰した。

アイドル天使は蹲り、床に鮮血を撒き散らしながら何やら喚いている。


「ごめんなさいね。ビックリしちゃって。………ってかさ、気安く触らないで。イライラする。次は、消すからね? 眠いから、部屋に戻ります」


「うん。分かったぁ。それにしてもアナタってさぁ、本当に難しい子ね~」


……………………。

……………。

………。


私は、ベッドにダイブすると人差し指で空中に円を描き、そこに下界の様子を映し出した。………今まで、恐くて恐くてどうしても見ることが出来なかった。


「っ!?」


ハクシは、知らない女と手を繋ぎ、楽しそうに話していた。頭を鈍器で殴られたようなダメージ。吐きそう……。

二人で仲良く、夜景を見ていた。目眩と頭痛までしてきて………。震える指先で見るのを止めようとした。


その時ーーーー。


花火が弾けた。懐かしい色。その鮮やかさと対照的に彼の表情は酷く暗い。


「…………………」


彼の悲しみ。


裸の感情が、画面から私に流れ込んでくる。それは、傷ついた私を優しく包み込む。


彼の中で私の記憶は、日々薄れていく。

何ヵ月も経過した今は、たまぁに見る夢レベルにまで曖昧になっているはず。


とっくの昔に、魔法は解けた。

それでも今、無数の記憶の中から私との思い出を必死に探している。


『私』という幻を追いかけているーー。


「ごめん…ね………」


私は、なんてバカで愚かなんだろう。

また彼から大切な物を奪ってしまった。


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