記憶

思い出したよ。あの時、焦げていく僕を見下ろす少女。


あの女の子は、神様だったのか……。


「ごめんなさい。ごめんなさい」


何度も何度も泣きながら謝る小さな神様は、瀕死の両親の体に触れると、ぬるっとその体から魂だけを抜き出し、小さな白い布袋に押し込んだ。

僕にも触れ、同じように魂を抜こうとする。


「な…か……ない…で」


「っ!? パパ……お姉ちゃん………。ごめんなさい。どうしてもこの人間だけは、死なせたくないの。最初で最後の私のワガママです。出来損ないで本当にごめんなさい」


神様に抱きしめられると、母親の胎内にいるように、なんとも言えない幸せが沁みてきた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「神様は……僕を助けてくれたの? あの交通事故から」


「うん……」


「そんな勝手なことして、大丈夫だった?」


「………大丈夫じゃない。下界に追放されたし」


「そっか………」


僕は、自分の足元ばかり見ている神様の側に行き、その髪をナデナデした。夢の入口のように白銀に輝くその髪は、地球上にある他のどんな物よりも価値があると感じた。


「私ね、人間の魂を回収するのが仕事なんだ。神様って言っても悪い『死神』だからさ。今まで数えきれない人間を殺してきてる。………でもね、ハクシ。あなただけは、どうしても殺せなかった。パパやお姉ちゃんが決めたあなたの運命を変えてしまった。私の勝手な判断のせいで。そのせいで…………。あなたは両親の記憶を無くし、周りの人間にはその親さえいなかったことになってる。あなたは、産まれてから死ぬまで、ずっと一人。それに、あなたの存在自体がとても曖昧なモノになってしまったから、歪な世界、悪夢の影響をもろに受けるようになった」


人間の姿をしているだけ。ただの白紙……。それが、今の僕なのだろう。すぐに誰かに書き換えられてしまう未来。


「ごめんなさっ!?」


六回目のごめんなさいを言う前に、神様の口をキスで塞いだ。


「やっぱり、それでも好きだ。地獄に行くよ。だから、それまで白紙の僕と一緒にいてくれ。キミが決めた運命なら。僕は、喜んで受け入れる」


「………ほんと……バカな人間だね……キミって」


笑ってくれた。その笑顔をずっと見たかった。今日が幸せのピークでも構わない。


この笑顔だけが、僕のすべてだから。



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