第3話 希望

① 陽はまた昇る(ヘミングウェイの小説の題名から)

  絶望の後には希望があった。


  太陽は毎日必ず昇る。月の満ち欠けは永遠に繰り返される(空気がない宇宙空間、摩耗することがないんですから)。

  宮崎一定という歴史家は、その著『中国に学ぶ』の「中国人の歴史観」という論文のなかで、こう述べられました。

  「数学の上で、一点は線を決定しないが二点によって線が引かれる、という。中国の歴史学においても、『史記』の次に『漢書』が現れて、初めて歴史記述の正式な体裁が紀伝体と決定された」。

  

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  各大学の日本拳法部員の4年生が、毎年、府立が近づく頃になると「部員たちへのメッセージ」をブログ上に書くようになったのはいつからか。ブログの体裁やその内容に、彼ら・彼女たちの日本拳法と同じく、各校の伝統が線となって表われていて面白い。

  彼らは道場や試合会場のみならず、ブログという「仮想空間」でも、大学日本拳法をやっているかのようだ。100パーセント物理的な現実の日本拳法ではできない「仮想空間」ならではの、(心による)バラエティに富んだ突きや蹴りや組み打ちの妙技を見せてくれるのです。

  現実の世界では、その肉体的な戦いの中から彼ら大学のアーキテクチャーを知り個人のアルゴリズムを知るという楽しみがあり、ブログという仮想空間では、逆にその設計思想や問題解決能力から彼らの部としての存在と個人の存在感を実感することができる。

  大学日本拳法を「帰納と演繹」という二本立て(両面)で楽しめるわけです。


  本大会後にたまたまネットで遭遇した立教大学日本拳法部のブログに、全日本学生拳法選手権大会で見たのと同じ「大学日本拳法」を見たのです。

  それは日本拳法という物理的な殴り合いではなく、大学で4年間日本拳法をやってきた者が行き着いた心でしたが、殴り合いと同じくらい「見応え」がありました。


  立教大学、今年の「府立前最後の防具練習︕(とつぶやき)」(https://ameblo.jp/rikkyo-kempo/entry-12778359378.html)

  というブログは、今年3月に卒業された彼女の先輩と同じく、立教的なる理性と知性、そして豊かな感性で書かれています。

  去年と今年の2点によって線になったというか、彼女たち大学日本拳法部のアーキテクチャー(基本設計思想)とアルゴリズム(問題解決の手法・手順)が継承されている、ということが実感できます。


  ② このブログを読んだ(見た)時、すぐに連想したのがこの5本の映画でした。

○ 「怒りの葡萄」(1940年 アメリカ)

  映画のラストで、母親に別れを告げる息子がこう言います。

「人の魂は大きなひとつの魂の一部に過ぎない。万人の魂はひとつだ。」

「だから、オレは暗闇のどこにでもいる。飢えて騒ぐ者がいればその中にいる。警官が人を殴っていればそこにいる。怒り叫ぶ人の中に、食事の用意ができて笑う子どもたちの中に。人が自分の育てた物を食べ、自分で家を建てれば、そこにもいる。」


○ スタンド・バイ・ミー 『Stand by Me』(1986年 アメリカ)

  子どもたちの友情を描いたこの映画以上に、思い出したのはこの映画の主題歌です。

When the night has come

And the land is dark

And the moon is the only light we'll see

  夜が来て

  大地は暗くなり

  見えるのは月明かりだけ


No, I won't be afraid

Oh, I won't be afraid

Just as long as you stand, stand by me

  怖くない

  怖くなんかない

  ただ君がいてくれる限り

  僕のそばに


○ 「道」(1954年 イタリア)

  「自分は無意味な存在だ」と独り悲しむ、純粋無垢な主人公ジェルソミーナに、仲間の旅芸人イル・マットはこう言います。「ただの小石でさえ、この世にあるものは何かの役に立っている。俺には小石が何の役に立つかわからんが、神様はご存じだ。お前が生まれるときも死ぬときも。これが無益ならすべて無益だ。空の星だって同じだとおれは思う。」


  また、村々を移動する修道女は彼女にこう言います。「住む土地に愛情がわいて一番大切な神様を忘れる危険がある。私は神様と二人づれで方々を回るわけなの。」


  旅の途中で捨てたジェルソミーナの死を知り、泥酔して酒場を追い出された主人公ザンパノは、ヨロヨロと海辺にたどり着き、砂浜に倒れ込んで砂をかきむしりながら独り泣き崩れます。「誰もいなくても平気だ。一人で居たいんだ。」と。

 → 修道女の言葉は、ザンパノの孤独に対する救済という意味で、その伏線なのかもしれません。


○ 「ビッグ・ウエンズデイ」(1978年 アメリカ)

  3人の仲間が兵役(戦地)から復帰し、再び青春の心に還って超巨大な大波に(サーフィンで)チャレンジする。(大波は水曜日にやってくる、という伝説)

戦争という人間的な葛藤から解放されたくなった3人は、危険なビッグ・ウエンズディに挑戦するという一瞬のなかに、ピュア(純)な青春の心を再び見い出そうとする。

かつて、警察という国家権力(法)との追っかけごっこ、に倦んだ(飽きた)暴走族たちが波乗りに転向したのと同じ心理です。


○ 「アリ」(1996年 アメリカ)

  プロボクサーであるモハメド・アリが、ある年のハーバード大学の卒業式でスピーチを行なった。最後に2,000人の卒業生の中から「即興で詩を」という声に応えて、彼はこういう詩を述べたという。

  「Me ,We. 俺、俺たち」

  世界で最も短い詩。


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  ③ 早い話が、このブログに彼女たち仲間への愛を感じた、ということです。

「愛のない大学日本拳法部」にいた私には、頭というか理屈で理解するしかないのですが、彼女・彼らの仲間に対する愛とは、アリの示す「Me ,We.」のことではないでしょうか。

 

<引用開始>

「1年生の頃の私にとって、自分の他に上級生の選手しかいないという状況はかなりしんどかった」


「副島の強さを支えているのは、実は沢山の人からかけてもらったアドバイスを1つずつ吸収していくその素直さ」


「身近な人の努力に気づいてそのやる気を上げられるマネージャー」


「どんな人でも「面白いですよね」と言って受け入れちゃう度量の広さと、一人一人の気持ちを考えて行動できる綺麗な心を持っている」


「どこかで揉め事があれば仲裁に入り、暗い表情の部員には話しかけにいってくれて、澤田がいてくれたおかげで部のみんなが繋がっていった」


「決して後ろに下がらず最後の1秒まで戦い抜いてナイスファイト」


「痛みに対する底なしのタフさと拳法部一の負けん気の強さを持っている」


「周りに気配りできて仕事も着実にこなす子でありながら、恐るべく笑いの沸点の低さでいつも賑やかな声を道場に運んでくれて」


「強さと試合の結果が当然のように求められる中で、いつも安定した強さを見せてくれた開米は、沢山の選手やマネージャーを勇気づけてきた」


「いろんな人に相談しながら自分なりの闘い方を模索していく真面目な姿」


「井上のチャレンジ精神と実行能力を拳法部にフル稼働してくれたおかげで、拳法部が年々組織として成長していっているような気がします。来年も変わらず、拳法部の縁の下の力持ちとしてみんなのことを支えてあげて」


「自分自身へのプレッシャーに潰されそうだった期間もめげずに頑張ることができました。一緒に決勝の舞台に立って最強の景色を見た時のこと、今でもよく覚えてます。私の隣で頑張り続けてくれてほんとにありがとう。」


「思ったことがすぐ口に出る私」


「自己主張がなかったり天然すぎる部分に「︖」が浮かぶ時もあった」


「いろんな人に甘える八木くんの姿を観てきたけど、実はその能⼒がすごく羨ましかった」


「マネージャーから選手へ距離を縮めることがいかに難しいか身をもって知りました。

そんな中で、あみが意識的に選手一人一人に声をかけてくれていたことにも気づきました。」


「夏合宿でも、1人で抱え込みすぎて共有が出来ていなかった私に、ちゃんとそのことを指摘した上で話しを聞いてくれたあみ。あみがいなかったらここまで頑張れませんでした。」


「試合が始まる前から諦める人間でした。そのくらい豆腐メンタルの持ち主でした」


「強い選手でありたいという理想と大会で結果を出せていない現実に挟まれ、自分自身を不必要に追い込んでいた」


「期待を担うということは、活躍できる喜びと同じ分だけ応えなければいけないという不安やプレッシャーを背負うことでもありました。それでも、拳法部に入って多くの人から期待してもらい、心強い仲間と挑戦し続けてきた経験」


「大学生活の貴重な4年間を拳法部に費やすことに尻込みしていた当時の自分に、胸を張って頑張ってこいと伝えたい」


「拳法部を支えてくださる全ての方、また大会や昇段級を運営してくださる方々のおかげで4年間走り抜けることができました」

<引用終わり>


  ○ (彼女たちは)拳法の強さに「人を勇気づける」という側面を見いだすことのできるような、豊かな心の持ち主。

  ○ 個人のことばかりでなく、拳法部という組織として、人や部活を見ているところはこの人の大きな心を示しています。

  ○ 他大学の日本拳法部の人にも、また、拳法とは関係の無い人たちにとっても(一般論として)意味をなす言葉や考え方を、ここに見ることができるでしょう。

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④ 去年と今年の「最後のブログ」に於けるはじめの口上(序言)

  同じ体裁、同じ感性でありながら、異なる個性であることがわかります。


2021年

本大会をもって、4年生は引退となります。

この場をお借りして、今までお世話になった方々にお礼を伝えたいと思います。

本当は手紙を書こうと思ったのですが、ブログでやれと言われたので頑張って書きます…長くなってすみません。


2022年

では、最後のブログになりますので、これまでのありがとうとこれからのファイトを込めて部員にメッセージを送りたいと思います。

覚悟してください。長いです。


  紹介しきれませんが、こちらの大学は4年生全員が「Me ,We.」を感じさせてくれるブログを書かれています。

  さすが「愛の大学日本拳法部」を伝統にされる学校です。



⑤ 楽しい画像


  こちらの学校はまた、沢山のきれいな写真・面白いアングル・ちょっとひねった写真でも、楽しませてくれます。

  道場の畳に西日が差す写真なんて、5年間、地下の薄暗い道場で暗い練習をしていた私(たち)には「羨望」しかありません。

  また、練習後、先輩や後輩が一緒になってキャッキャ言いながら皆で一緒に駅へ歩いて行く後ろ姿なんていうのも、40年前の私たちには無かったことで、ほのぼのしていて、「いいなぁー」と思います。


 私が京都の大徳僧堂に入ると、同じ大学の卒業生(私より数年歳下)がいました。

 彼が言うには「体育会(主に武道系・ボクシング・レスリング)が朝霞校舎に移転してから、大学から地下鉄の駅までの裏道(大通りではなく住宅街の道)で、近くの高校生(の不良)による、大学生に対するカツアゲが頻繁に起こった。」のだそうです(彼も被害者の一人)。

  「それ以前は、くわえ煙草で歩くガラの悪い体育会を嫌っていたが、あの時ほどそのありがたみを感じたことはない。」とも。


  まあ、こういうのは個人的な好みなんですが。


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