第一話 日常から始まり

【15:30 図書室 西園寺小百合さいおんじさゆり

「小百合ちゃーん、この本のバーコードスキャンしといて。終わった端から戻してくるから!」

「はいよー。」

友人である沙紀さきがとたとたと本の束をもって本棚へ戻しに行った。

(もう少しまじめな人とかしっかりやってくれそうな人を選出できるように生徒会に色々意見書出してみようかな・・・)

本のバーコードを読み込ませながら私はぼーっと考えていた。沙紀みたいにまじめにやってる人だけ苦労するのは少しかわいそうだと思う。

人がほぼこないし、借りてく人は少ないから仕事の量自体は大したことはないが。

そんな感じで作業しているとガラガラと、図書室の中に誰かが入ってくる音が聞こえカウンターに珍しく人が来た。

「あ、西園寺先輩お疲れ様です。借りてた本返しに来ました。」

「あらはじめ君じゃない?最近沙紀が図書整理手伝ってくれないって寂しがってたわよ?」

彼は今年入ってきた新入生で図書委員だ。本好きにオカルト好きという中々陰k・・・いや、なんでもない。という変わった感じの子だ。

沙紀が今年新しい図書委員の後輩が入ってくると喜んで話していたのと定期的に手伝わされるのもあり、何度か顔は合わせていた。

「あー、一君!手伝いに来てくれたんだ!ありがとー、みんな中々手伝いにきてくれないから助かるよう。」

「げ、沙紀先輩。」

「なに、その顔は?」

「いえ・・・何でも?」

どうやら手伝わされるのが嫌で沙紀がカウンターにいないのを見て入ってきたらしい。私がカウンターにいるのだからどっかで見つかるだろうに。

大方さっとおいて帰ろうとでも思っていたようだが甘い。

「そしたら一君この本棚に戻しておいて!。あと、このメモの本は取り換えるやつだから探しておいて!」

「・・・了解です。」

本の束とメモを強引に渡されていた。沙紀につかまったかわいそうな後輩はしょんぼりしながら流れるように仕事に引き込まれていった。

「そうだ、これ返そうと思ってきたんだった。」

彼は本の束をいったん置き自分の鞄からここで借りていたらしい本をカウンターの返却かごに入れた。

「どうせならこっちに頂戴。それも読み取っちゃうから。」

「あ、はい。」

返却の処理しているのだからそのままこっちにくれればよかったのに。まあ無関係に近い私が手伝っているのをみて少し申し訳なさとかがあったのだろう。

(そう思うなら私のやってるとこ変わってくれればいいのな。)

まあ断らない私も私だが。せっかく仲のいい友人が困っているのを見捨てるのは流石に忍びない。

彼から本を受け取り、読み取ってそのまま彼に渡す。

「ついでに戻してきなさい。その本の束と一緒に。」

「僕、沙紀先輩や西園寺先輩みたいに隠れゴr・・・」

「男でしょ?あとなんか言った?」

この後輩は非力すぎるのだ。確かに私は昔からなぜか力が少しだけ強いかもしれないけどあくまで女子高生の範囲でだ、ゴリラとか言われる筋合いはないと思う。

でも沙紀は無限に体力があるのか知らないけど大量の本を運んでも息一つ切らさずそのあとにバイトに行ったりするのだからゴリラとかいうならあっちの方だろう。

「ほら!しゃべる暇あるならさっさと片付ける!」

「先輩、これ終わったら帰りますからね・・・?マジで。」

「そうしたいなら急ぐ、ほら!」

沙紀に急かされてポンコツ後輩は片付けに戻った。こっちは後は片付けが終わるのを待つだけだ。適当にぼーっとしていよう。

そこで私は違和感に気づいた。

(あれ?そういえば図書室ってこんな甘い匂いしたっけ?本特有の紙の感じの匂いじゃなくてこんな・・・?)

そう気づいた時にはもうとてつもない眠気に襲われ、眠ってしまっていた。


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【??:?? ? 西園寺小百合】

「んー、ふぁー。あれいつの間に寝ちゃって・・・」

寝不足になるような生活をしてた覚えはないが疲れていたのだろう。とはいえ沙紀も起こしてくれればよかったのに。

(てか、あれ・・・?ここは?)

そこで気づいた。明らかに現状が異常なことに。ここは空き教室のようだ、その部屋の真ん中に投げ込まれたような形で寝かされていたようだ。周りには沙紀と一君も眠らされて投げられている。部屋の隅には蝋燭が4本立てられていてゆらゆらと周りを照らしている。

(ここ教室みたいだけどかなり古い感じがする。少なくとも私たちの学校じゃない。どこなのここ?なんでこんな所に?もしかして誘拐?何が目的で?でも沙紀も一君もいるしとにかく起こさなきゃ!)

全くわからない。なぜこんなところにいるのか。わからないがとにかく現状がとても異常なのは理解できた。ともかく寝こけている二人を叩き起こさないとと思い思いっきり頭を叩くことにした。

「さっさと起きなさい!」


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【??:?? ? 九十九一つくもはじめ

「・・・なさい・・・はや・・・さい!」

誰かに叩かれているような感覚だ。寝不足なんだから無理やり起こすなっていつも言ってんのに。

(あれ?てかなんで寝てんだっけ?図書室で片付けしてたような・・・。)

「さっさと起きろ!!!」

「いっっっってええええ!!」

フルパワーの拳骨を食らった。理不尽すぎる。どこのゴリラだ人の頭を躊躇なしで殴れるバカは?こんなんどんなに熟睡してても目覚めるわ。

「起きた!?起きたわね!?」

「あー・・・はい。起きましたよどうしたんスか、一体人が寝てる中拳骨かまして・・・酷いっすよ・・・。」

「寝ぼけてんならもう一発かますわよ!」

「覚めました!いま超覚めました!」

この先輩は脳筋すぎる。人の頭をドラムかなんかだと思っているのだろうか?相変わらず馬鹿力だ。確かに僕はほかの人より腕力はないかもしれないけどこの人は普通の成人男性くらいの力はあるだろう。

「何かおかしいわ。もう全部おかしいんだけど!とりあえずここから出るわよ!沙紀起こすからあんたは周りの様子伺って!」

「何言ってるんスか?せんぱ・・・。」

おかしい。明らかにだ。直前までは図書室にいたはずだ。なのに今いるここは何だ?見たことがない場所だ。古い教室のようだし部屋の四隅の蝋燭は不気味にゆらゆらと揺れている。

(この蝋燭の配置・・・。百物語をするときの蝋燭の置き方に似てる?あれ確か結界がうんたらかんたらの為だった気がしたような・・・?)

こんな時に浮かぶのはどうでもいいオカルト雑学とは僕もパニックになりかけているようだ。とにかく異常なことだけはわかる。まず警察に電話だ、それから周りの探索でも遅くはないだろう。

と、スマホを取り出し警察にかけたが・・・繋がらない。圏外になっているようだ。

「西園寺先輩。スマホの電波立ってますか?」

「え?ああ、そうね警察にかけないと。」

西園寺先輩がスマホを取り出し、警察に電話をかけてみるものの・・・

「だめね。圏外になってて繋がらないみたい。」

「そうですか、僕少し部屋の外覗いてみるので沙紀先輩任せてもいいですか?」

「ええ、分かったわ。すぐ起こすからそっちも気を付けてねこんなこと普通じゃありえないもの、なにかあったらすぐ教えて頂戴。」

「分かりました。よろしくお願いします。」

「まったく、こんな状況なのにこんなぐっすり寝ちゃってもう・・・。」

こんな状況だがこの異常な環境下でも肝の据わっている先輩は頼もしい。ここまで落ち着かれるとこっちの気も落ち着いてくるというものだ。

警戒しながら部屋の引き戸を見ると戸のところについている窓には板で目張りがされており外の様子がうかがえないようになっている。

外のから何か聞こえないか聞き耳を立ててみたが何も聞こえない。

(少し開けて外の様子を見よう。大丈夫そうなら少し心配だけど周りを調べるくらいなら問題ないだろう。)

前にバイト先の店長に「なんかあったらまず落ち着いて周りの状況探ってみろ。焦ってパニックになるのが一番まずい」と教わった。あの人は頭のネジが飛んでる人だけどこんな状況に陥ったら確かにそれは正しい考え方なのだろう。てかあんなどうでもいい話を思い出して落ち着ける僕も中々おかしい部類なのかもしれない。

ドアに手をかけて開けようとしてみたが・・・開かない。

(開かない?鍵でもかかっているのか?)

反対のドアも開けようとしてみたが同じように鍵がかかっているようだ。

(本当に拉致目的で閉じ込められているのか?それにしては違和感が・・・)

「痛っ!なにするの!?小百合?」

「はあ・・・。やっと起きたわね寝坊助め。」

沙紀先輩が目を覚ましたようだ。

「え?ここどこなの!?さっきまで図書室にいたはずじゃ?」

「全くわからないわ、目を覚ましたらここにいたの。とりあえずここからすぐ逃げるわよ。一君、出れそうな感じ?」

「すみません先輩。このドア鍵かかってるみたいで全然開く気配がないです。」

「そう・・・。仕方ないわ。最悪蹴破るぐらいは考えないとだめね。」

この人は全部物理で解決する気でいるんじゃなかろうかと本気で思ってしまう。

その時、

ピーンポーンパーンポーン

校内放送の音らしきものが鳴った。

「こんばんわ。諸君。私は君たちを歓迎しよう!」

合成音声と言えばいいのであろうか、まるでドラマで犯人が声をカモフラージュしている感じの声に聞こえる。そして声はおかしいものの声色はとても楽しそうだ。

「突然だがこれから君たちにはありきたり脱出ゲームをしてもらう!なあにルールは簡単だ鍵を見つけてここから脱出するだけだ!簡単だろう!」

突然始まった謎の説明に僕たちはとても混乱する。

「どういうこと?何を言っているか本気で分からないんだけど。頭おかしいんじゃないの?」

「西園寺先輩、それ同感です。」

「こんなとこに閉じ込めて、しかも眠らせてまで連れてくるなんておかしいよう・・・」

沙紀先輩はとても不安そうだし。西園寺先輩は烈火の如く怒っている。

「ちなみにそれだけだと少し退屈だと思うのでねも用意してある。楽しみにしていてくれたまえ!」

?何かがひっかかる到底ろくじゃないのだけはわかる。

「さあゲームスタートだ!脱出を目指して頑張ってくれたまえ!」

プツン

放送は終わったらしい。それと同時にガチャンとドアから音がした

「ドアが開いた・・・?」

「とりあえずここから出ることを目標にしましょ。ほんとに鍵があるなんてわからないけどなんとかここから出る方法見つけないと。」

「そ、そうだね。こんなとこさっさと出て警察に走ろう。」


そして僕らは脱出口を目指し始めた。

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