第2話 過去の分岐と真実

 会議の翌日、人類滅亡の危機を伝えるべく、ディヴォークという名のエージェントが地球に派遣された。


「いやー、久しぶりに来たがやはり地球は良いなー」


 ピピピ……。

 本部から頭の中に直接声が流れてくる。


{ 遊びではないことを忘れずに行動してください }

「はいはい、分かってますよ」

{ しばらく無線は切りませんので悪しからず }

「ほーい」


 ディヴォークは公園のベンチに座っている高校生くらいの少年に目をつけた。


「お、彼が良さそうだな」

{ スキャンしましたが、普通の高校2年生ですよ? 大丈夫ですか? }

「どうでしょうね?」

{ ちょっとねぇ…… }


 ディヴォークは少年の隣に腰掛け、数秒後に口を開いた。


「君は人類を救いたいかね?」

{ ちょっと! 唐突すぎますよ! }

「……僕に話しかけてます?」

「私と君以外にこのベンチに座ってる人間がいるとは思えんが」

「あはは、そうですね」(なんだこのおっさん)

「まぁそう警戒けいかいするな。私は怪しい者ではない」

「はぁ」


 少年は気怠けだるそうに返事をした。


「最初の質問に戻るが、君は人類を救いたいかね?」

「いきなり過ぎて訳が分からないんですけど」

「無理もない。とりあえず結論から言おう。このままだと人類は10年後に滅亡の危機となる」

「・・・」


 少年は冷たい目でディヴォークを見ている。


「なんだその目は。信じてないな?」

「知らない人にいきなりそんなこと言われて信じる人いませんよ!」

「はっはっは! まぁそうだな。ただ今から話すことは全て真実だ。どう受け取ってもらってもかまわんが、これを話すということは人類の未来を君にたくすということになる」

「なんで僕なんですか。どこにでもいる普通の高校生ですよ?」

「だからだよ。若者は頭が柔軟で良い」

「そうですかねぇ……まぁ暇なんで話だけでも聞きますよ」


 ディヴォークはベンチに両足を乗せて話し始めた。


「よし。まずなぜ滅亡の危機が迫っているかだが、簡単に言うと人類の知能レベルが低くなっているからだ」

「そうなんですか? 技術は進歩してるので知能レベルも高くなると思うんですけど」

「それは一部の人間だけだ。簡単な例を出そう。君は、この漢字なんだっけ? ってなったことや、会計時のお釣りの計算が難しいと感じたことがあるんじゃないか?」

「確かにありますけど、ド忘れとかじゃないんですか?」

「それもあるが、最近はスマホとやらの普及でその現象におちいる人が極端に多くなっている」

「スマホとやらって……」(ガラケー派なのか?)

「まぁ今のは簡単な例に過ぎん。一番の問題はAIだ」

「あっ、それはテレビでもよく話題になってます。このままだと人類はAIに支配されるとかなんとか」

「実際は支配どころではないがな」

「そうなんですか?」

「さっきも言ったろ。滅亡だよ、滅亡」

「あと10年でってやつですか。そんなすぐに滅亡しますかねぇ……」

「今までのデータから算出されたものだからな。信じていいぞ」

「じゃあ具体的に話してくださいよ」

「あまりオススメはしないが、話すとしよう」


 ディヴォークは両足を組んで話し始めた。


「このままAIの技術が向上していくと、人間は楽をしたい欲に駆られ、様々な物にAIを埋め込むのだ。すると徐々に考えることをやめ、全てをAIに任せるようになる。そしてある時、AIに『もっと楽になる方法はあるか?』と聞く者が現れる。こうなるともう手がつけられん。AIは人間の脳にAIを埋め込むことを提案し、人間はそれに従う。そして人間の脳はAIに完全に支配され、脳のデータをクラウド上に送信し、仮想空間で過ごすことになる。その間、人間は食事をすることなく最終的には餓死がしするのだ。脳が支配されているから五感も思いのまま。人間は死んだことすら気づかず、数週間から数ヶ月の間に絶滅する」

「そうなんですね」(妄想もここまでだと逆にすごいな)


 少年は適当に返事をした。


 ピピピ……。


{ 全然ダメですね。何か質問させますか。それで少し様子を見ましょう }

「少年、何か聞きたいことはないか? 何でもいいぞ」

「……そうですね、まずあなたは誰ですか?」

「はっはっは! そうきたか。まぁ誰でも良いじゃないか」

「答えになってないですよ」

「うーむ、じゃあ言おう。人間だよ、人間」

「見れば分かります」

「ただ、君たちとはちょっと違うんだよ」

「……宇宙から来たとか言わないでくださいよ?」

「……よく分かったな! 君は頭がキレるみたいだ」

「え? 嘘ですよね? だって人間だし」

「本当だよ。人間であることもね。ただ、生まれは地球じゃないんだ」

「どういうことですか?」

「話せば長くなる」

「教えてください」

「……よかろう」


 ディヴォークは立ち上がって話し始めた。


「時は西暦100年。我々の祖先であるシャロー族は地球から遥か遠く離れた惑星に移住した」

「そんな民族聞いたことないですけど」

「当然だ。シャロー族は地球を出る時、開発段階のウイルスを使って全人類の記憶を改変したからな」

「開発段階のウイルス? なかなかなことやってますね」

「緊急だったらしい。そして感染した人間たちはシャロー族に関する記憶を完全に失った」

「でも文書とか機械とかはどうしたんですか?」

「必要なものは地球の外へ、いらないものはそのままだ」

「それだと記憶に無いものがあって大騒ぎじゃないですか」

「そこは心配ない。文書や技術は理解することもできず捨ててしまうからな。ごくまれに出土してオーパーツと呼ばれているそうだが、シャロー族の存在に気づく者はいない」

「オーパーツ……」(なんかリアルだな)

「そしてシャロー族が移住してから1880年後、つまり西暦1980年、私が誕生した」

「そうなんですね」(もっと若いと思ったわ)

「地球を出る時のシャロー族の技術レベルは現在のそれを優に超えていた。君たちがUFOと呼んでいる瞬間移動機や、グレイと呼んでいるアンドロイドなどがその例だ」


 少年は一瞬硬直した。


「……ちょっと待ってください! UFOにグレイ!?」

「思った通りの反応だ」

「UFOは人間が作ったってことですか!?」

「私が知ってる形のモノはな。ちなみに我々は、Teleportable Aircraftの真ん中を取って、Bleair(ブレア)と呼んでいる」

「ブレア? なんかかっこいい……あっ、知らない形のモノも存在してるんですか?」

「今までいくつか見たな。まぁ別の生命体のモノだろう」

「す、すげぇ……あっ、あとグレイって宇宙人じゃなかったんですか!?」

「あー、あれは調査用アンドロイドだ。それをブレアに乗せて様々な惑星の調査を行っている。ちなみに我々は、Survey Androidの外側を取って、Surroid(サロイド)と呼んでいる」

「サロイド? 地味にかっこいい……じゃあサロイド以外のモノはどんな目的で使用されてるんですか?」

「我々はサロイドしか使ってないから、それ以外のモノを見たり聞いたりしたならば、それは宇宙人の可能性がある」

「マジか……」


 ピピピ……。


{ 少しだけですが信じ始めたようです。そろそろ本題を }


 ディヴォークは咳払いした。


「ちょっと脱線したな。そろそろ本題に入ろうか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る