第17話

 鷹目医院に戻ってきたカナは、麻衣をベッドに寝かせた。


「会長……どうなったかな……」


 カナがそう言うと、背後に立っていたユウが言った。


「多分、死んだだろうね。あんなにボロボロだったんだから。」


 ユウはそう言うと、言葉を続けた。


「人質の案を最初に言い出したの、私なんだよね。

その人を人質にしようってカリンに言ったのも、私。」


 ユウの言葉にカナは振り向くも、その表情はどこか暗かった。


「こんなことになるなんて、思ってもいなかった。」


 その言葉には、後悔の念が込められていた。


「私のせい、なんだよね。先パイ死んだのも、その人が巻き込まれたのも。」


 ユウは窓の外を見つめると、ポツリと呟いた。


「正直、命のやり取りしてるっていう実感がなかったんだよね。どうせやられても、きっと何事もなかったかのように生き返るんだろうって、他人事のように思ってた。

 ……でも、現実は違うんだよね。あんたの言ってた通り、本当の命のやり取り……ゲームなんだって、今更わかった。」


 ユウはそう言うと、カナに向かって頭を下げた。


「…………ごめん。」


 謝り慣れていないのだろう、少しぶっきらぼうではあったけど、そこには確かに謝罪の心が篭っていた。


「私、責任取るよ。あいつを……カリンを倒してくる。

 カリン倒したら……あんたに私の命、あげるよ。抵抗も何もしない。ファイターとして、あんたに殺される。

 そして……願いを叶えてよ。」


「ユウ……」


 カナがそう言うと、ユウは言った。


「私には、これしか思いつかないから……。責任取る方法。」


 ユウがそう言うと、カナは言った。


「カリンを倒すのなら……私、協力する。」


 カナの言葉に、ユウは目を丸くした。


「何言ってんの?」


「会長がカリンに殺されたのなら……私は、カリンを倒す義務がある……。

 それに……麻衣さんをこんな目に合わせたんだ……。一発くらい、ぶん殴ってやりたい……。」


 カナはそう言うと、ユウに向かって言った。


「責任取るなら、私も一緒に連れていって……?」


 ユウは視線を逸らすと、ポツリと言った。


「…………もっと違う形で、あんたと出会いたかった。」


 ユウがそう呟くと、ベッドの上の麻衣が目を覚ました。


「ん…………?あれ……あたし……」


「麻衣さん……!」


 目を覚ました麻衣に、カナは抱きついた。


「よかった…………!!麻衣さん……よかった……!!」


「おお……、どうしたどうした……」


 麻衣は困惑しながらも、カナの頭を撫でる。


 その様子を、ユウはじっと見つめていた。


「ん……?そこにいるのは、カナの友だちかい?」


 麻衣にそう声をかけられたユウは、目を丸くする。


「あ、いや……私は……」


 たじろぐユウを見たカナは、麻衣に向かって言った。


「うん、同級生。」


 それを聞いた麻衣が、ユウに向かって言った。


「そっかそっか、ならうちのをよろしくなー?」


「は、はぁ……」


 ユウはそう返事をすると、時計を見て言った。


「じゃあ、私はこの辺で……。また連絡する。」


 ユウはそう言うと、足早に診療所から出ていった。





 夜道を一人歩くユウ。


 コンビニに寄ってカップ麺を買うと、その場でお湯を入れてコンビニの駐車場で食べ始めた。


 麺をすすり、スープを飲む。


 胡椒の効いた醤油スープの味が口いっぱいに広がった。


 行き交う人々を眺めながら、カップ麺を食べ終えると、ゴミ箱に容器を捨てて一人いつものゲーセンへと向かった。


 いつもの席で、いつものようにアーケードゲームで遊ぶユウ。


 いつものように簡単に敵を倒した。


「…………。」


 彼女の中で、もやもやとした気持ちが消えない。


「やっぱ……責任取らないと、あれだよね……。」


 そう呟いたとき、彼女のスマホにメールが届いた。


 送り主はカナだった。


『明日、カリンを倒すための作戦を一緒に考えよう。

 明日は休みだから、9時頃集合でいい?』


 ユウはそのメールに返事を返した。


『OK』


 ユウはひとつ息を吐いた後、何かを決意したのか足早にゲーセンを去っていった。





 ユウは自宅に帰らず、とある空き地に来ていた。


 空き地にある横たわった土管の上に腰掛け、携帯ゲーム機をいじりながら、人を待っていた。


「テメェ、どういう了見で人の事呼び出してんだァ?」


 機嫌悪そうに空き地にやってきたのは、カリンだった。


 ユウはゲーム機の電源を切ると、被っていた帽子を土管の上に置いて土管から降りる。


「前から思ってたんだけどさ、私、あんたのこと好きじゃないんだよね。」


 ユウがそう言うと、カリンは言う。


「あぁん?人呼び出しておいてそれ言いたかっただけか?」


「お子様は黙ってなよ、うるさいから。」


 ユウはそう言うと、カートリッジを取り出す。


「持ってきてるよね、なら始めようよ。正直、先パイやったの気に食わないんだよね。」


 ユウの言葉に、カリンはニヤリと笑った。


「クククッ……!!いいぜ……!あたしも前から陰キャのテメェが気に入らなかったんだよォ!!

 一思いにぶっ殺してやるよ……!!レナの野郎みてぇになぁ!?」


 2人がカートリッジを構えると、周囲が仮想空間に変わる。


「「チェンジ!!」」


《Change Vampire》


《Change Maelific》


 2人は光に包まれ、各々バトルスーツに身を包んだ。


「私のせいで……色んな人を巻き込んだ。だから……責任取らなきゃ……。」


「ヒャハハハハ!!!!かかってこいよ!!陰キャ野郎!!!!」


 互いに踏み込み、距離を詰める。


「シッ!!」


「ヒャハハハハ!!!!!!」


 2人の鉤爪と拳が、激しくぶつかりあった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る