第16話

 カナとレナは、麻衣がユウとカリンに拉致された場所へと向かっていた。


「この辺りよ……。」


 レナがそう言うと、カナは言う。


「麻衣さん……待ってて……!」


 カナはそう言うと、パーカーのポケットからカートリッジを取り出し、前に突き出すように構える。


 レナも同じようにカートリッジを取り出し、構えた。


 周囲の風景が代わり、仮想空間が周囲に広がる。


「クククッ……!来やがったぜ……!!」


 カリンがニヤリと笑うと、ユウが無言で2人を見つめた。


「チェンジ……!!」


《Change》


 カナがカートリッジをベルトに挿入すると、光に包まれバトルスーツを纏う。


「チェンジ……。」


《Change》


 レナもまた、カートリッジをベルトに挿入し、光に包まれバトルスーツを纏った。


《Demifiend》


《Dark Elf》


「麻衣さん……!!」


 カナはユウとカリンの隣で横たわる麻衣に向かってダッシュする。


「待ちな!!!!!」


 カナの前にカリンが立ちはだかる。


「下手な真似したら、人質の命はねぇぜ!?」


 カリンはそう言うと、カナの腹部に向かって拳を放つ。


「ごはっ……!!」


 腹部を殴られその場に蹲るカナ。


「ヒャハハハハ!!!!こりゃケッサクだな!!!!!」


 ゲラゲラと笑うカリンに対して、ユウはレナに向かって言った。


「先パイ、はやくそいつボコボコにしちゃってくださいよ。そのために連れてきたんでしょ?」


 ユウがそう言うと、レナはたじろぐ。


「そ、それは……」


「あれ?もしかして先パイ、できないんすか?」


 ユウは冷たい声でそう言うと、倒れている麻衣に向かって鉤爪を突き立てる。


「できないんなら、この人殺すだけですけど。」


「ま……麻衣……さん……!!」


 苦しむカナにレナは目をやると、やるせない表情を浮かべた後……


 ゴスッ!!!!


「ごはぁっ……!!」


 腹部を再び殴られ、カナは口から胃液を吐いた。


 しかし、殴ったのはカリンではない。


 レナだった。


「ぁ…………!!ぁぁ…………!!」


 お腹を抑えて悶えるカナを尻目に、レナは無表情で拳銃を構える。


「ごめんね……?天宮さん……。私と貴女は……殺し合わなければならない……。」


 レナはそう言うと、引金に指をかける。


 カナは何とか呼吸を整えると、レナに向かって蹴りを放った。


 レナはそれを避ける。


「はぁ……はぁ……」


 カナは口についた胃液を手で拭うと、レナに向かって言う。


「なら……、私も貴女を殺す……。」


 カナはそう言うと、天に向かって手を伸ばした。


 すると、一筋の光がカナの手の中に収まると、そこに金色の模様が入ったカートリッジが出現する。


「私の……新しい力で……。『変身』……!」


 カナは左手でカートリッジを抜くと、右手で新たなカートリッジをベルトに挿入した。


《Change Dmifiend Unite》


 カナのバトルスーツが黒く染まって行くと、金色のラインが刻まれていく。


「はぁっ……!!」


 カナはそのままレナに襲いかかった。


 レナもまた、拳銃をカナに向かって発砲する。


 カナは一気に距離を詰めると


「てやぁぁっ!!!!」


 手のひらから波動を出し、レナを掌打で吹き飛ばした。


「くっ……!!私も……負ける訳にはいかないの……!!」


 レナはそう言うと、再び拳銃をカナに向かって放つ。


 カナの頬に弾丸が掠って傷がついた。


「私には……叶えなければならない願いがあるから……!例え悪魔に魂を売ってでも……私は……!!」


 レナはそう言うと、ベルトの右端のボタンを押した。


《Over Charge》


 ベルトから、レナの拳銃の銃口にエネルギーが集中する。


「死ぬ訳には……いかないわ……!!」


 レナが引金を引く。


 エネルギーを纏った弾丸が、カナに向かって放たれる。


 ズキュゥゥゥン……!!


 銃声が周囲に響くと共に、カナの身体を弾丸が貫いた。


「ぐぁぁぁっ!!!!」


 吹っ飛び、地面に倒れるカナ。


「願いなんかない貴女と違って……私には、叶えなくてはならない願いがあるの……!!」


 レナがそう言うと、傷口から出てくる血を手で抑えながら、カナな立ち上がる。


「叶えなくちゃ……ならない……願い……!」


 カナはよろめきながら、ゆっくりと立ち上がる。


「私にだって…………ある………!」


 カナはそう言うと、レナに向かって言った。


「私の願い……それは……!!」


 カナは腕のボタンを押し、叫ぶようにして言った。


「『UNKNOWN』を倒して……この戦いを終わらせて……亡くなった人たちを全て、生き返らせること……!!」


《Sparna Sword》


 カナの手に、剣が握られると、そのまま右端のボタンを押した。


《Unite Charge》


 カナが背中で翼を広げると、ひとつの幻影がカナの隣で浮かび上がる。


「ふ……フタバ……!」


 レナが思わず目を丸くすると、カナはフタバと共に剣を構えてレナに突っ込んだ。


「「はぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」」


 2人の斬撃を喰らい、レナは吹っ飛ぶ。


「ぐはっ……!!」


 そのまま吹き飛ばされ、レナは地面に転がった。


「はぁっ……!!はぁっ……!!」


 ボロボロになったレナに対して、カナは言った。


「私の……勝ち……。」


 カナがそう言うと、戦いを眺めていたユウが呟く。


「これが、新しい力……」


 ユウがそう呟いた時、カリンはクククッ……と笑った。


「負けちまったなぁ!レナ!!まぁ、どっちみちこの女はぶっ殺す予定だったけど!?」


 カリンがそう言って意識のない麻衣の頭を乱暴に掴み持ち上げる。


「え、まだやんの?」


 ユウがそうカリンに問いかける。


 その声は微かだが、震えていた。


「ったりめーだろうがよぉ!!!!あたしは前からレナの野郎は気に食わなかったんだよ!!

 少しくれぇ絶望を味わわせても、文句ねぇだろ!?あぁん!?」


 そう怒鳴るカリン。


「麻衣さん……!!」


 カナが麻衣を助けようと、カリンの元へ向かおうとした瞬間……


 ガウンッ!!!!


 銃声が響く。


 その放たれた弾丸はカリンに命中した。


「あぁぁっ!?テメェ……!!」


 カリンが怒りの表情をこちらに向ける。


 カナの目の前に、ボロボロになったレナが立ち塞がった。


「天宮さん…………、私が援護するから……貴女は先生を……。」


「会長……」


 カナがそう言うと、レナは言う。


「貴女は私に勝った……。もう……私に貴女を止める権利はないわ……?」


 レナは拳銃を構える。


「それに……、私の願いは私だけのものだったけど……、貴女の願いは違う。

 だから……貴女には叶えてほしい。その願いを……私の屍を踏み越えてね……。」


 レナはそう言うと、カナに向かって怒鳴った。


「早く先生の元へ行きなさい!!あとは私が引き受けるから!!」


 レナの言葉にカナは頷くと、レナの銃弾を受け、カリンの手から離れた麻衣の元へと駆けていく。


「麻衣さん……!!」


 カナは麻衣を抱える。


 その様子を、ユウはじっと見た後に、カリンに向かって言った。


「…………もういいんじゃね?やり過ぎだと思う。」


「っせぇ!!レナ……!!テメェはあたしがぶっ殺す!!!!!」


 拳銃で撃たれたことに激昂したカリンがレナに突っ込んでくる。


「天宮さん!!早く現実世界に先生を連れて帰りなさい!!!!」


 レナがカナに向かってそう叫ぶ。


「会長!!!!」


 カナがレナを呼ぶと、レナはこちらを振り向き


「……向こうで、フタバに謝るから。ごめんねって…… 」


 そうカナに向かって告げると、カリンの事を迎え撃つ。


「会長……!!」


 カナがそう呟くと、ユウがこちらへやってきた。


「こっち、はやく。」


 ユウはそう言うと、カナを出口まで先導する。


「貴女……どうして……?」


 カナはユウに向かって問いかける。


「先パイの思い……無駄にしたくないし、それに……」


 ユウはそう言うと、唇を噛み締めた。


「やりすぎだと思う……あんなの……!!」


 ユウがそう言うと、現実世界への出口が見えてくる。


 カナとユウは、麻衣を連れて現実世界へと飛び込んでいった。



「ヒャハハハハ!!!!!!死ねェ!!!!」


《Over Charge》


 カリンの拳にエネルギーが集中すると、レナの腹部を貫く。


「がはっ……!!」


 レナはそのまま崩れ落ちた。


「クククッ……!ざまぁねぇな?レナァ……。これでまた一人脱落っと。」


 カリンはそう高笑いを上げると、傷ついたレナを放置して現実世界へと帰って行った。


「はぁ…………はぁ………………」


 傷口から血が流れ続ける。


 レナは横たわったまま、呟いた。


「ごめんね…………マナ…………。お姉ちゃん…………自分のためだけに……マナを生き返らせようとしたけど…………それじゃぁ……喜ばないもんね…………。」


 薄れゆく意識の中、レナは息を吐くように言った。


「あぁ…………これで…………自分を偽らなくて…………済むのね………………」


《Dropout》


 レナの身体からバトルスーツが外れると、彼女は全裸になり、そして粒子となって消滅したのだった。

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