第14話

 早乙女 レナという女。


 カナの通う高校の生徒会長であり、表向きは人当たりがよく、文武両道。


 彼女を慕う生徒が大勢おり、教師からも1目置かれた存在である。


 しかし、それは表向きの話。


 裏では……


《Over Charge》


「死になさい………?」


 ズキュゥゥゥン……!!


「ギャァァァァァッ!?!?!?」



 仮想空間で、『UNKNOWN』への挑戦権を賭けて戦うファイターの一人。


 他のファイターからは『腹黒』と称される、それが早乙女 レナというファイターだ。


「…………ふぅ。」


 エネミーを討伐し、現実世界へと戻ってきたレナは、スマホを取り出す。


「いけない……、もうこんな時間……。」


 レナは学生鞄を手に持ち、足早にかけて行く。


 向かった先は、学習塾。


 放課後、レナはこの学習塾で大学進学に備えて勉学に励んでいた。


 机に向かい、教師の話を聞いてノートを取る。


 別に好きでやっている訳じゃない。


 ただ、大学に行けないと……優秀じゃないと……


 居場所が、無くなってしまうから。





「はぁ……。」


 ため息をつきながら、レナは夜道を歩いていた。


 そして、自宅に着くとレナはゆっくりと扉を開けた。


「ただいま帰りました……。」


 レナがそう言うも、明かりがついているにも関わらず反応は帰ってこない。


「…………。」


 いつも通りの静寂。レナはため息に近い息を吐きながら、リビングに顔を出す。


「お父様、只今帰りました……。」


 レナがそう言うと、リビングで本を読む厳つい男性……レナの父親は、彼女に視線を向けることなく本を読み続ける。


「レナさん、食事は出来てるから、早く食べて頂戴。」


 台所からレナの母親が姿を現す。


その声に温かさはなかった。


「…………はい。」


 レナは台所へ向かうと、テーブルの椅子に腰掛け、器にかかっていたラップを取って夕食を食べ始めた。



 父親はとある学校の校長で、母親も教師をしている。


 非常に厳格な家庭であった。


 愛情なんて、向けられたことは無い。


 食事を終えると、洗い物を済ませてレナは一人部屋に向かった。


 レナの部屋には、2つの勉強机と2段ベッドが置かれていた。


 そっと、机に触れてレナは呟く。


「…………マナ。」


 マナ、とはレナの2つ下妹だった存在。


 早乙女 マナ。


 自分の唯一の居場所になってくれた、かけがえの無い存在。


 両親に叱られた時、ご飯を抜きにされた時


 こっそり自分のぶんをわけてくれた、優しい妹。


 そんな最愛の妹・マナは、小学生の頃に交通事故に遭って他界した。


 唯一の居場所だった、妹という存在。


 妹を失ってから、レナの居場所はなくなったように感じた。


「待っててね……マナ……」


 机を手のひらで撫でながら、レナは言う。


「『UNKNOWN』を倒して……絶対お姉ちゃんが生き返らせてあげるから……。」


 そう、静かに呟いたのだった。





 数日後、レナは路地裏に呼び出されて来ていた。


「こんな所に私を呼び出して……なんの用かしら……?」


 レナがそう問いかけると、目の前で携帯ゲーム機をいじるユウが口を開く。


「来たんすね、先パイ。実は……」


 ユウがそう言いかけた瞬間、ガシャン!と何かを倒すような音が聞こえた。


「あぁぁ!!!!クソイライラする!!!!」


 粗大ゴミを蹴りながら、カリンがそう叫ぶ。


「おい!!!!いつになったらあのクソ野郎をぶっ殺すんだ!?あぁ!?」


 カリンはそう言うと、ユウの胸ぐらを掴む。


「きったな、ゴミ触った手で私の服触んないでくれる?」


 無表情でユウがそう返すと、カリンは怒りを露わにする。


「あぁん!?じゃあますテメェからぶっ殺してやろうか!?おぉ!?」


「うっさいから喚かないでよ」


「あぁ!?」


 カリンがユウに殴りかかろうとした時


「やめなさい……?」


 レナが2人の争いの仲裁に入った。


「んだテメェ!!指図してんじゃねぇぞ!!」


 カリンがそうレナに向かって怒鳴るも、レナは冷静な口調で言う。


「私たちの目的は……新入り……天宮 カナを殺すこと……。そのために協力関係を築いている……。違うかしら……?」


 レナがそう言うと、カリンは不機嫌そうに舌打ちをする。


「で……?私を呼び出したってことは……新入りを殺すいい手段でも思いついたってこと……?」


レナの問いに、ユウは「そうっすね。」と反応した。


「簡単な話っすよ。テキトーな人とっ捕まえてきて、人質に取ればいいんですよ。

 人質チラつかせれば、あいつも攻撃してこないっしょ。」


 ユウが淡々とそう言うと、カリンは怒鳴る。


「んなメンドクセーことやってられっかよ!!!!

あいつにケンカふっかけてぶっ殺しゃぁそれで終わりじゃねぇか!!!!!」


「これだからお子様は困るわぁ……」


 ユウがそう言うと、カリンは「んだとゴルァ!!」と怒鳴り散らす。


「正面からやったんじゃ、勝ち目なんかない。あいつがピンチになった途端に空からカートリッジが降ってきてパワーアップしちゃうから。

 ……カリンの話だと、更に強くなっちゃったっぽいし。」


 ユウはそう言うとレナを見つめて言った。


「どうっすか?やる価値はあると思うんすけど。」


 ユウの言葉にレナは悩む。


 人質……、関係ない人を巻き込むなんて……。


 でも……マナを生き返らせるためなら……


「…………わかったわ?人質の手配は、貴女たちに任せるから……準備が出来たら連絡して頂戴。」


「りょーかい。実は人質の目星ってのはついてんすけどね。」


 ユウはそう言うと、ふぁ……、とひとつ欠伸をした。





 カナは一人街中を歩いていた。


「さて……どこ行こうかな……。」


 街中をキョロキョロと見回しながら歩いていると……


「あれって……」


 カナは見覚えのある人影を見つけた。


「生徒会長……?」


 カナの視線の先には、一人歩くレナの姿があった。


「何してるんだろ……」


 カナがレナの様子を眺めていると、ふと横断歩道に小さな子どもが歩いているのが見えた。


 子どもが横断歩道を渡ろうとしている最中、向こうから車が一台、猛スピードで横断歩道に突っ込んでくる。


「危ない……!!」


 カナが子どもを助けようと横断歩道に向かって駆け出した瞬間


 レナが鞄を投げ捨て走り出し、子どもを抱えてカナのいる歩道へと素早く飛び込んだ。


「大丈夫だった……?」


 レナが起き上がり、子どもを見つめる。


「あ、ありがとう……お姉ちゃん……」


 子どもはそう言うと、ペコリと頭を下げて去っていった。


 その様子を、優しい表情でレナは見つめる。


 レナが立ち上がろうとした時……


「痛っ……!!」


 ふと、足首を抑えてその場に座り込んでしまった。


 どうやら、足を挫いたらしい。


 足首を撫でるレナを観て、カナは声をかける。


「会長。」


 レナはカナの方を振り向くと、目を丸くする。


「貴女……」


「怪我……したんですか……?」


 カナの言葉にレナは視線を逸らす。


「よいしょ……っと……」


 カナはそのままレナの腕を掴むと、肩にかけ彼女を立たせた。


「な……何する気……?」


 レナがそう問いかけると、カナは言った。


「私がお世話になってる所……、診療所なので……。治療してもらえると思います……。」


 カナはそう言うと、レナを鷹目医院まで連れていったのだった。

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