第14話
早乙女 レナという女。
カナの通う高校の生徒会長であり、表向きは人当たりがよく、文武両道。
彼女を慕う生徒が大勢おり、教師からも1目置かれた存在である。
しかし、それは表向きの話。
裏では……
《Over Charge》
「死になさい………?」
ズキュゥゥゥン……!!
「ギャァァァァァッ!?!?!?」
仮想空間で、『UNKNOWN』への挑戦権を賭けて戦うファイターの一人。
他のファイターからは『腹黒』と称される、それが早乙女 レナというファイターだ。
「…………ふぅ。」
エネミーを討伐し、現実世界へと戻ってきたレナは、スマホを取り出す。
「いけない……、もうこんな時間……。」
レナは学生鞄を手に持ち、足早にかけて行く。
向かった先は、学習塾。
放課後、レナはこの学習塾で大学進学に備えて勉学に励んでいた。
机に向かい、教師の話を聞いてノートを取る。
別に好きでやっている訳じゃない。
ただ、大学に行けないと……優秀じゃないと……
居場所が、無くなってしまうから。
*
「はぁ……。」
ため息をつきながら、レナは夜道を歩いていた。
そして、自宅に着くとレナはゆっくりと扉を開けた。
「ただいま帰りました……。」
レナがそう言うも、明かりがついているにも関わらず反応は帰ってこない。
「…………。」
いつも通りの静寂。レナはため息に近い息を吐きながら、リビングに顔を出す。
「お父様、只今帰りました……。」
レナがそう言うと、リビングで本を読む厳つい男性……レナの父親は、彼女に視線を向けることなく本を読み続ける。
「レナさん、食事は出来てるから、早く食べて頂戴。」
台所からレナの母親が姿を現す。
その声に温かさはなかった。
「…………はい。」
レナは台所へ向かうと、テーブルの椅子に腰掛け、器にかかっていたラップを取って夕食を食べ始めた。
父親はとある学校の校長で、母親も教師をしている。
非常に厳格な家庭であった。
愛情なんて、向けられたことは無い。
食事を終えると、洗い物を済ませてレナは一人部屋に向かった。
レナの部屋には、2つの勉強机と2段ベッドが置かれていた。
そっと、机に触れてレナは呟く。
「…………マナ。」
マナ、とはレナの2つ下妹だった存在。
早乙女 マナ。
自分の唯一の居場所になってくれた、かけがえの無い存在。
両親に叱られた時、ご飯を抜きにされた時
こっそり自分のぶんをわけてくれた、優しい妹。
そんな最愛の妹・マナは、小学生の頃に交通事故に遭って他界した。
唯一の居場所だった、妹という存在。
妹を失ってから、レナの居場所はなくなったように感じた。
「待っててね……マナ……」
机を手のひらで撫でながら、レナは言う。
「『UNKNOWN』を倒して……絶対お姉ちゃんが生き返らせてあげるから……。」
そう、静かに呟いたのだった。
*
数日後、レナは路地裏に呼び出されて来ていた。
「こんな所に私を呼び出して……なんの用かしら……?」
レナがそう問いかけると、目の前で携帯ゲーム機をいじるユウが口を開く。
「来たんすね、先パイ。実は……」
ユウがそう言いかけた瞬間、ガシャン!と何かを倒すような音が聞こえた。
「あぁぁ!!!!クソイライラする!!!!」
粗大ゴミを蹴りながら、カリンがそう叫ぶ。
「おい!!!!いつになったらあのクソ野郎をぶっ殺すんだ!?あぁ!?」
カリンはそう言うと、ユウの胸ぐらを掴む。
「きったな、ゴミ触った手で私の服触んないでくれる?」
無表情でユウがそう返すと、カリンは怒りを露わにする。
「あぁん!?じゃあますテメェからぶっ殺してやろうか!?おぉ!?」
「うっさいから喚かないでよ」
「あぁ!?」
カリンがユウに殴りかかろうとした時
「やめなさい……?」
レナが2人の争いの仲裁に入った。
「んだテメェ!!指図してんじゃねぇぞ!!」
カリンがそうレナに向かって怒鳴るも、レナは冷静な口調で言う。
「私たちの目的は……新入り……天宮 カナを殺すこと……。そのために協力関係を築いている……。違うかしら……?」
レナがそう言うと、カリンは不機嫌そうに舌打ちをする。
「で……?私を呼び出したってことは……新入りを殺すいい手段でも思いついたってこと……?」
レナの問いに、ユウは「そうっすね。」と反応した。
「簡単な話っすよ。テキトーな人とっ捕まえてきて、人質に取ればいいんですよ。
人質チラつかせれば、あいつも攻撃してこないっしょ。」
ユウが淡々とそう言うと、カリンは怒鳴る。
「んなメンドクセーことやってられっかよ!!!!
あいつにケンカふっかけてぶっ殺しゃぁそれで終わりじゃねぇか!!!!!」
「これだからお子様は困るわぁ……」
ユウがそう言うと、カリンは「んだとゴルァ!!」と怒鳴り散らす。
「正面からやったんじゃ、勝ち目なんかない。あいつがピンチになった途端に空からカートリッジが降ってきてパワーアップしちゃうから。
……カリンの話だと、更に強くなっちゃったっぽいし。」
ユウはそう言うとレナを見つめて言った。
「どうっすか?やる価値はあると思うんすけど。」
ユウの言葉にレナは悩む。
人質……、関係ない人を巻き込むなんて……。
でも……マナを生き返らせるためなら……
「…………わかったわ?人質の手配は、貴女たちに任せるから……準備が出来たら連絡して頂戴。」
「りょーかい。実は人質の目星ってのはついてんすけどね。」
ユウはそう言うと、ふぁ……、とひとつ欠伸をした。
*
カナは一人街中を歩いていた。
「さて……どこ行こうかな……。」
街中をキョロキョロと見回しながら歩いていると……
「あれって……」
カナは見覚えのある人影を見つけた。
「生徒会長……?」
カナの視線の先には、一人歩くレナの姿があった。
「何してるんだろ……」
カナがレナの様子を眺めていると、ふと横断歩道に小さな子どもが歩いているのが見えた。
子どもが横断歩道を渡ろうとしている最中、向こうから車が一台、猛スピードで横断歩道に突っ込んでくる。
「危ない……!!」
カナが子どもを助けようと横断歩道に向かって駆け出した瞬間
レナが鞄を投げ捨て走り出し、子どもを抱えてカナのいる歩道へと素早く飛び込んだ。
「大丈夫だった……?」
レナが起き上がり、子どもを見つめる。
「あ、ありがとう……お姉ちゃん……」
子どもはそう言うと、ペコリと頭を下げて去っていった。
その様子を、優しい表情でレナは見つめる。
レナが立ち上がろうとした時……
「痛っ……!!」
ふと、足首を抑えてその場に座り込んでしまった。
どうやら、足を挫いたらしい。
足首を撫でるレナを観て、カナは声をかける。
「会長。」
レナはカナの方を振り向くと、目を丸くする。
「貴女……」
「怪我……したんですか……?」
カナの言葉にレナは視線を逸らす。
「よいしょ……っと……」
カナはそのままレナの腕を掴むと、肩にかけ彼女を立たせた。
「な……何する気……?」
レナがそう問いかけると、カナは言った。
「私がお世話になってる所……、診療所なので……。治療してもらえると思います……。」
カナはそう言うと、レナを鷹目医院まで連れていったのだった。
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