第12話
暗い穴の底に落ちていくような感覚。
暗くて、深い穴。
私は一体、どうなったんだろうか。
私は……
「カナ……。まだ囚われたままなのね。深い怒りと……悲しみに……。」
何を……言って……
「まだ、貴女では扱えない……。私が与えた、本当の力を……。『U』の想いに、応えてあげて。」
私は……私……は……
*
「…………ん……」
カナが目を覚ますと、そこは何処かの路地裏だった。
「ここは……」
カナが周囲を見回すと、ゴミ箱に座ってカチカチとゲーム機をいじるユウの姿があった。
「起きたんだ。」
ユウはゲームをする手を止めることも、カナに視線を合わせることなくそう言う。
「私は……一体……」
カナがそう呟くと、ユウは言う。
「やっぱ記憶ないんだ、おもしろ。」
きょとんとするカナに向かってユウは言った。
「あんたはエネミーになったんだよ、変なカートリッジ使って、私をボコボコにした。お陰様で身体中が痛いよ。」
ユウはそう言いながら、ゲームをやり続ける。
「なんで……私を助けたの……?」
カナがそう問いかけると、ユウはポケットからひとつガムを取り出す。
「食べる?」
ユウがカナにガムを差し出すも、カナは首を横に振った。
「あっそ。」
ユウはそのままガムを口の中に入れる。
「ねぇ……そんなことより、質問に……」
カナがそう問いかけた時、ユウは言った。
「引き分けだったから。」
「引き分け……?」
カナがそう言うと、ユウは言葉を続けた。
「あんたは意識失って倒れるし、私もボロボロでトドメ刺せなかった。引き分け。
勝ち負け以外興味無いから、助けた。それだけ。」
ユウはそう言うと、ガムを膨らませる。
「それに、殺すならちゃんと殺したいし。」
ユウがそう言うと、ゲーム画面に『You Win』という文字が出てくる。
「負けるなんて、有り得ないから。」
ユウはゲーム機の電源を切ると、ポケットにしまいゴミ箱から飛び降りる。
「起きたんなら帰るわ、じゃあね。」
ユウはそう言うと、手を振りその場を去ろうとする。
「待って……!!」
カナはユウを呼び止めた。
「あの仮想空間での戦いは……ゲームなんかじゃない……!人の命が、本気でかかってるんだ……!」
カナがそう言うと、ユウは表情ひとつ変えずに言った。
「よくわからないんだよね、そういうの。」
そう一瞥すると、「そうだ」と何かを思い出したかのように話を続けた。
「カリンには気をつけた方がいいよ。あいつイカれてるから。」
「カリン……?」
カナがそう問いかけと、ユウは答える。
「蛭川 カリン。私も頭おかしい方だけど、あいつはもっとヤバいから。注意しといた方がいいってだけ伝えておいたげる。」
ユウはそう言うと、その場を去っていった。
「蛭川……カリン……」
その名前を呟きながら、カナもまた帰路に着いた。
*
「ただいま……。」
カナが診療所に帰ってくると、麻衣が出迎えた。
「おかえり。どうした?」
麻衣がそう問いかけると、カナは言う。
「いや……疲れたなって……」
「ふーん……」
麻衣はそう言うと、カナに近づく。
「何があったかは知らないけど、余程疲れてるみたいだなー?」
麻衣はそう言うと、カナに向かって言った。
「ベッドに横になりな?」
「え……?」
「いーから、な?」
麻衣に言われるがまま、ベッドに横になるカナ。
「うつ伏せ。」
「え……」
「うつ伏せになれって言ってんの」
麻衣にそう言われ、うつ伏せになる。
何をされるんだろう、と思った矢先、麻衣の手がカナの両肩に乗った。
「…………ぁ……」
カナが小さくそう声を上げると、麻衣は肩を揉み始めた。
「疲れてる時は、マッサージが一番だからなー?」
そう言いながら、麻衣はカナの強ばった筋肉を解していく。
「…………きもちいい……」
筋肉が解れていく感覚に、カナの目は思わずトロンとなる。
「あのさ……」
カナの身体をマッサージしながら、麻衣は言う。
「まだ付き合いが浅いから、こんな事言えた義理じゃないのはわかってんだけどさ……。
たまには甘えたり、話してくれてもいいんだよ?
…………あたしは、お前さんの母親代わりなんだから。」
その言葉を聞いたカナが目を丸くする。
「お前さんが悩んでたり、落ち込んでたりするのを見てると……あたしじゃ何もできないのかなって、いつも思うんだ。
あたしじゃ役不足かもしれないけどさ……、話せる範囲でいい。話して欲しいなって……」
麻衣の言葉を聞いたカナが、少し黙った後に重い口を開いた。
「…………私は、命のやり取りをする戦いに巻き込まれてしまった……。
目の前で、フタバが死んで……、それからフタバはいなかったことにされてしまった……。
初めて出来た友だちなのに……、麻衣さんも、みんな……フタバの事を覚えてないって……」
そう呟くカナの隣に転がる、彼女のスマホ。
そのスマホケースには、確かにカナともう1人写っていた。
自分には身に覚えのない少女が。
「…………そっか。あたし、会ったことあるんだね。お前さんの友だちに。」
麻衣はそう呟くと、言葉を続けた。
「でも、不思議なことに、あたしは覚えてないんだ。その子がどういう子なのかも、覚えてない。
…………でも、お前さんは覚えているんだろう?その友だちの事をさ。」
麻衣はそう言うと、優しく彼女に語りかけた。
「…………なら、これからも忘れちゃダメだよ。ある人が言ってたんだ。『人が本当に死ぬ時は、人に忘れ去られた時』だって。
お前さんがその子を覚えている限り、お前さんの心の中で、その子は生き続ける。
だから、忘れちゃダメだよ。」
麻衣はそう言うと、カナの頭を撫でる。
「そっか……、こんな短い間に、色んな辛いことを体験したんだねぇ……。殺し合い……やめろって言っても、そうはいかないんだろう?
話を聞くくらいならできるからさ……、辛いことがあったら、何でも言いな?」
麻衣の言葉を聞いたカナは、枕に顔を埋めていた。
そして、小刻みに震える。
麻衣はくす、と笑うと、彼女の頭を撫で続けた。
何度も、何度も。
その枕は、湿っていた。
*
あれから数日後。
カナは夕焼け空が広がるいつもの通学路を歩いていた。
「みーつっけたっ……!!」
ブロンド髪を後ろで束ねた少女が、木の上から双眼鏡を使ってカナを見ていた。
彼女は身軽に木の上から降りると、カナの前に立ちはだかる。
「よォ……、見つけたぜぇ……?最近ウワサのファイターちゃんよぉ……?」
小学生くらいの大きさの少女は、目をギョロっとさせながらカナに近づいてくる。
「あ……貴女は……!?」
カナがそう問いかけると、少女は言った。
「あたしは蛭川 カリン、テメェと戦いたくてウズウズしてたんだ……!」
クックックッ、と笑う少女、カリン。
その笑みからは小学生としての可愛さはどこからも感じられない。
「カートリッジ出しな!!久々に骨のある奴と戦えるんだ!!派手に行こうや!!!!」
カリンがカートリッジを構えると、周囲は仮想空間へと姿を変える。
「チェンジ!!!!!」
カリンは乱暴にベルトにカートリッジを挿入した。
《Change》
カリンの身体が光に包まれると、全裸になった後に水色のバトルスーツに身を包む。
《Maelific》
「あぁ…………!!」
カリンはそう言って息を吐くと、言った。
「感じる……!!感じるぜぇ……!!あたしの身体に!!悪魔の力をよぉ!!
最近雑魚ばっかで飢えてんだ……!!あたしを楽しませろよォ……?クククッ……!!」
邪悪な笑みを浮かべながらカリンがそう言うと、カナはカートリッジを構える。
「チェンジ……!!」
《Change》
ベルトにカートリッジを挿入し、光に包まれると、カナは全裸になった後にバトルスーツに身を包んだ。
《Demifiend》
「貴女が……あの人が言ってた、蛭川 カリン……!!」
カナがそう言うと、カリンは言う。
「クククッ……!!さぁ、楽しませろよぉ!?」
カリンはそう言うとカナに襲いかかってきた……!!
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