第11話

 仮想空間内でバトルスーツに身を包み、相対するカナとユウ。


「シッ!!」


 ユウは両手についた鋭い鉤爪でカナを切り裂こうとする。


「くっ……!!」


 カナはそれを回避するも、ユウはカナの動きに合わせるように再び鉤爪を放つ。


「シッ!!シッ!!」


 まるでボクサーのように小さく小刻みに息を吐きながら、何度も何度も鉤爪をカナに振りかざすユウ。


 カナはそれを避け続けるも……


ピッ……!!


 彼女の頬に鉤爪が傷をつける。


「あぅっ……!!」


 カナは距離を取り、傷口に触れる。


 ツー……、と頬に一筋の血が流れる。


 ユウは鉤爪についたカナの血をペロリと舐めると、彼女に向かって吐き捨てた。


「よっわ。」


 そう言うと、ペッ、と唾と共にカナの血を吐き出した。


「先パイボコボコにした割には、弱いね。フタバ以下なんじゃね?」


 ユウはそう言うと、再び鉤爪を構える。


「さっさとエネミーになりなよ、私それ期待してんだけど。

 ……ならないなら、ここでゲームオーバーってことで、死んで。」


 ユウはそのまま跳躍すると、鉤爪をカナに向かって振り下ろす。


「シュッ!!!!」


 カナはすぅ……と息を吸うと、迫ってくるユウに向かって咆哮を上げた。


「ガァァッ!!!!」


 カナの咆哮の音波に吹き飛ばされるように、ユウは彼女と距離を取る。


「へぇ、面白いの使うじゃん」


 ユウがそう言うと、カナは全身に力を込めてユウに向かってタックルを仕掛ける。


「はぁっ…………!!」


 カナのタックルをユウは軽々と回避すると、カナの背中を鉤爪で斬りつけた。


「ぐぁぁっ!!!!」


 その場に倒れて悶えるカナ。


 ユウはそのままカナの頭を踏みつけると、彼女を見下すように見つめ、口を開く。


「ねぇ、いつになったらエネミーになるの?」


 グリグリと足でカナの頭を踏みつけるユウ。


「くっ……ぁ…………!わ…………わから…………ない…………!」


「わからないじゃなくてさー、早くしてよ。私待ってんだけど。」


 そう言うと、何度も何度もカナの頭を踏む。


「ねー、はやくー。」


 無表情のまま特に感情も篭ってない声でユウはそう言いながら、ゲシゲシとカナの頭を踏みつける。


「ぁぁ…………!!ぁ…………ぁ…………!!」


 割れんばかりの激痛がカナを襲う。


(し…………死んじゃ……う……!!)


 死の恐怖がすぐそこまで迫ってきていた。


「エネミーにならないなら、もう用ないわ。ゲームオーバーっつーことで……」


 ユウはそう言うと、足を高く上げ、そして……


「死ね。」


 ユウがカナの頭を思い切り踏みつけようとした、その時……


 一筋の光が、こちらに向かって飛んでくる。


「うおっ……!?」


 光はユウの身体に当たり、彼女は思わずカナから離れる。


 そして、光は倒れているカナの手に収まった。


 光が消え、その光の中からカートリッジが姿を現す。


「カートリッジ……」


 ユウがそう呟くと、カナはゆっくりと立ち上がる。


 頭からポタリ、ポタリと血を流し、虚ろな目で飛んできたカートリッジを前に突き出すように構えると、左手で元々装着していたカートリッジを抜き取る。


「…………チェンジ……」


《Change》


 カナがベルトに新たなカートリッジを挿入すると、ベルトから暗黒のオーラが放たれる。


 暗黒のオーラはカナを包み込むと、彼女の身体を灰色に染め上げ、そして……


《Enemy:Type-Another『Yomi』》


「フンッ!!!!」


 暗黒のオーラを払い、カナは灰色の化け猫のエネミーの姿と貸した。


「へぇ……、これが噂の……」


 今まで無表情だったユウが嬉しそうに笑う。


「楽しくなりそうじゃん。」


 ユウは鉤爪を構えると、エネミー化したカナに突っ込んでいった。


「シッ!! 」


 ユウはカナを鉤爪で切り裂こうと片腕を素早く突き出した。


 しかし……


 ガシッ!!


「っ!?」


 鉤爪を放ったユウの手首を、カナは乱暴に掴む。


 そして、彼女を地面に叩きつけた。


「ごふっ……!!」


 ユウがそう声を上げると、カナは再び乱暴に腕を持ち上げ、ユウの身体を持ち上げると……


 ズドンッ!!


 乱暴に地面に身体を叩きつけた。


「がはっ……!!」


 そして、カナは何度も何度もユウを地面に叩きつける。


「アハハハハハハ!!!!!!」


 楽しそうに、笑いながら。


やがて、カナは飽きた玩具を捨てるように、乱暴にユウの身体を投げ捨てる。


「あぁぁ…………!!」


 ボロボロになりながら地面に転がるユウ。


「はぁ…………はぁ…………」


 何とか起き上がろうとするも、迫ってきたカナが彼女の腹部を蹴り上げる。


「ごはぁっ……!!」


 ユウは口から胃液を吐き出しながら吹っ飛び、倒れた。


「よ…………予想……外……」


 ヨロヨロと起き上がりながら、ユウは口元を拭う。


「先パイボコったのも納得だわ……、こいつ強い。」


 ユウはそう呟くと、自身の身体にある異変を感じた。


「…………震えてる。怖がってんだ、私。」


 カタカタと小刻みに震える自身の手を見て、ユウは感情を込めず、まるで他人事のようにそう言った。


「先パイの言った通り、こいつ生かしとくとめんどくさいかも。」


 ユウはそう言うと、ベルトの右端のボタンを押す。


《Over Charge》


 すると、エネルギーが鉤爪に集束し始めた。


「ここで仕留める……!」


 ボロボロの身体で、ユウはカナに向かって突っ込んでいった。


「…………ぶっ殺す!」


《Over Charge》


 カナもまた、ベルトのボタンを押すと右手を前に突き出す。


 そして、手のひらを広げて左手で右腕を支えると、手のひらにエネルギーを集中させた。


「死ね……!!!!」


 ボウンッ!!と、カナの手からエネルギー光弾が放たれた。


「っ!!」


 避けられない。


 ユウはカナが放った光弾に当たってしまった。


「ぐぁぁっ……!!」


 急所こそかわしたものの、その威力は凄まじく、ユウのバトルスーツの右腕と脇腹には大きな焦げ跡がついていた。


「これ、折れたね……アバラ何本か逝ったっぽい……」


 脇腹を抑えながら、ユウはそう言うと、トドメを刺そうとカナがこちらへ近づいてくる。


 ニタリ……、と笑みを浮かべるカナ。


「ゲームオーバーは……私の方……」


 ユウがポツリとそう呟いた、その時……


 カナの動きが止まった。


 ユウが不思議そうにそれを見つめていると、カナはそのままフッ……、と意識を失い崩れ落ちたのだ。


 カナの姿が変身前の姿へと戻っていく。


「あぁ……時間切れ……助かったわ……」


 ユウは安堵のため息をつく。


 ここでトドメを刺してやろうかとも考えたが、今のユウにはそんな力は残っていなかった。


「ここは、逃げるが勝ち、だね。」


 ユウはヨロヨロと立ち上がると、カートリッジをベルトから引き抜いて変身を解除する。


 そして、スマホを手に取ると誰かに電話をかけた。


「もしもし……?やられたわぁ……。あの新人、結構めんどくさい。

 あんたも戦ってみたらいいよ、先パイがボコボコにされたのも納得できるっつーか。

 …………トドメ?あぁ、私もボコボコにされてさ、必殺技も何も撃てなくなっちゃったんだよね。ちょっと休めないとしんどいわ。」


 ユウはそう話すと、倒れているカナを見つめる。


「これ、ほっとくのまずいよね。」


 ユウはそう言うと、カナを抱え、そのまま彼女は光の中へと消えていった。


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