第10話

「ただいま……。」


 カナは落ち込んだ気分のまま、診療所へと帰ってきた。


「おー、おかえり……って、何かあったのか?」


 麻衣がそう問いかけると、カナは口を開いた。


「麻衣さん……、実はフタバが……」


 カナがフタバの名前を告げた時、麻衣は首を傾げてカナに問いかけた。


「フタバ?誰だい?それは。」


「え……?」


 麻衣の言葉に、カナは目を丸くした。


「何言ってるの……?麻衣さん……。麻衣さんもフタバに会ったでしょ……!?」


 カナが少し語気を強めて麻衣に言うも、麻衣は口を開く。


「記憶にないねぇ……。お前さんが友だち連れてきたことなんかあったか?」


 そう告げた麻衣から視線を逸らし、カナは言った。


「…………もういい。一人にさせて……。」


 カナは吐き捨てるようにそう言うと、自分の部屋の中に入っていった。


「どうしたんだろうねぇ……?」


 麻衣はカナの様子を見て、そう呟いた。




「麻衣さんが……フタバのことを覚えてないなんて……」


 ベッドに顔を埋めながら、カナはそう呟く。


 そして、ふとレナが言っていた言葉を思い出した。


『例え貴女が死んでも、貴女がいなかった事になるだけなんだから……。』


 カナに向かって言った、レナのあの一言。


「こんな……ことって……」


 部屋の中でカナは一人、そう呟いた。





 月曜日。カナは学校に投稿した。


 校門前でふと、立ち止まる。


 いつもなら、ここでフタバが声をかけて来ていた。


 しかし、当たり前だが彼女が姿を現すことなない。


 カナは校舎の中に入り、靴を履き替え教室へと向かう。


 教室の中に足を踏み入れると、奇妙な雰囲気を感じ取っていた。


 カナが座席表を見てフタバの席を確認する。


 確かに机と椅子はある。……が、そこは別の生徒の席になっていた。


「…………!!」


 カナは思わず息を飲む。


 それだけではない。名簿や掲示物から何から何に至るまで、フタバの痕跡は何一つ残されていなかった。


 生徒たちも、誰もフタバの話題を出す者は1人もいない。


 まるで、最初からフタバは存在していなかったように。


「フタバ…………」


 カナは一人、孤独感に苛まれていた。





 昼休み。


 カナは屋上で景色を眺めていた。


「ここで……私はフタバと……」


 入学式の日に、フタバに連れてこられた、この屋上。


「フタバは……フタバは確かにここにいたんだ……。」


 カナがそう呟いていると、誰かに声をかけられた。


「フタバを失って喪失感に苛まれてるみたいね……?新入りさん……?いや……天宮 カナさん……?」


 その声には聞き覚えがあった。


 カナは振り向く。


そこに立っていたのは……


「生徒……会長……!」


 フタバを殺した張本人、早乙女 レナだった。


 カナはポケットの中に手を入れ、カートリッジを構えようとする。


「残念ね……、今日はカートリッジ持ってきてないのよ……。誰かさんに散々やられたから、まだ傷が癒えてなくてね……?」


 レナがそう言うと、カナは言う。


「フタバを殺した癖に……!」


 カナがそう言うと、レナは言った。


「…………そうね。私がフタバを殺した。」


 その顔からは、笑みが消えていた。


「悔やんでいるの……?」


 カナの言葉に、レナは言った。


「例えファイターでもね……、人を殺すのって、気分がいいものじゃないのよ……。」


 その言葉はどこか、寂しそうだった。


「それでも、叶えたい願いがある……。だから……私たちファイターは戦い続ける。『UNKNOWN』を倒すために……。自分を偽ってでも……。」


 レナはそう言うと、カナの方を見て問いかけた。


「貴女は……何のために戦うのかしら……?」


「え……。」


「貴女はなんで………ファイターになったの……?願いはあるの……?

 ……ないでしょう?そんなものは。私たちや、フタバと違って……貴女には無いはずよ。」


 レナはそう言うと、吐き捨てるように言った。


「だから……気に入らないのかもしれないわね……?貴女のこと。」


「…………。」


 カナは俯く。レナはその後にこう言った。


「気になる……?フタバのことが。

フタバみたいに……あの仮想空間内で死んだファイターはね……、ファイター以外の人々から記憶が消えてしまうの。

 記憶だけじゃないわ……?この世界に存在していたという痕跡が、何もかも……。」


「痕跡が……消える……」


 カナがそう呟くと、レナは言った。


「ただ、ファイターだけは……死んだ人のことを覚えている。

 フタバを大事に思ってるのなら……大事にしなさい……?その記憶を……。それが……彼女への供養になり、彼女がこの世界にいた証にもなるんだから……。」


 レナはそう言うと、手を振りカナの元を去っていった。


「フタバがいた……証……」


 カナはふと、スマホケースに貼り付けたプリクラに目を落とす。


 そこには、確かにいた。フタバが。


「フタバはいたんだ……、この世界に、間違いなく……。私が……覚えておいてあげないと……。」


 カナはプリクラを見つめ、そう呟いた。





 放課後。


 カナは一人駅前に来ていた。


 フタバと一緒に食べた、クレープの屋台は今も変わらずそこにあった。


 いつもと変わらぬ、駅前の風景。


 ただ、一つだけ違う点があるとすれば、隣にフタバがいないということだった。


「あれ、この間のフタバと一緒にいた新人じゃん。」


 ふと、そう声をかけられてカナは振り向く。


 そこに立っていたのは……


「貴女は確か……ゲーセンで会った……」


「へぇ、私のこと覚えててくれたんだ。」


 そこに立っていたのは、4人目のファイター、神山 ユウ。


「聞いたよ、フタバ死んだんだってね。だっさ。」


「ださい……?」


 ユウが放った言葉に、カナはそう反応するもユウは表情ひとつ変えずに言う。


「だってそうでしょ、弱いから先パイに殺された訳だし。ださいっしょ。」


 ユウはそう言うと、噛んでいたガムを膨らませる。


「人が死んだのに……ダサいって言うの……?」


 カナの言葉に、ユウは答える。


「ゲームなんだから、死ぬのは当然っしょ」


「ゲーム……」


「命を扱ったゲーム、強い奴が生き残って、弱い奴が死ぬ。だだそれだけのことで何で感情的になれんの?バカなんじゃね?」


 ユウはそう言うと、ガムを道端にペッ、と吐き出す。


「それよりさぁ、強いんでしょ?先パイボッコボコにしたくらいなんだからさ。」


 ユウはそう言うと、スタジャンのポケットからカートリッジを取り出す。


「興味あんだよね。エネミーになるっていうのにさ。見せてよ、私にもその姿。」


 ユウがそう言うと、周囲の風景が仮想空間へと変わっていった。


「チェンジ。」


 ユウはそう言うと、カートリッジをベルトのバックル部分に挿入した。


《Change》


 すると、ユウの身体が光に包まれ、衣服が消滅し一度全裸になると、真紅のアーマーを纏い、スーツに身を包んだ。


 そして、バイザーが頭部に装着され、彼女はファイターの姿となった。


《Vampire》


 真紅のバトルスーツを纏ったユウは、カナに向かって言う。


「変身しなよ、ゲームは楽しまなきゃ」


「こんな戦いを……ゲーム扱いしてる貴女に……負けない……!!」


 カナもカートリッジを構えて、叫んだ。


「チェンジ……!!」


《Change》


 ベルトにカートリッジを挿入すると、光に包まれカナの身体に黒緑色のアーマーとスーツが纏われる。


《Demifiend》


 バトルスーツに身を包んだカナが、ユウと相対した。


「楽しいゲームの始まり、気楽にいこうよ。」


 ユウはそう言うと、カナに襲いかかってきた……!

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