第10話
「ただいま……。」
カナは落ち込んだ気分のまま、診療所へと帰ってきた。
「おー、おかえり……って、何かあったのか?」
麻衣がそう問いかけると、カナは口を開いた。
「麻衣さん……、実はフタバが……」
カナがフタバの名前を告げた時、麻衣は首を傾げてカナに問いかけた。
「フタバ?誰だい?それは。」
「え……?」
麻衣の言葉に、カナは目を丸くした。
「何言ってるの……?麻衣さん……。麻衣さんもフタバに会ったでしょ……!?」
カナが少し語気を強めて麻衣に言うも、麻衣は口を開く。
「記憶にないねぇ……。お前さんが友だち連れてきたことなんかあったか?」
そう告げた麻衣から視線を逸らし、カナは言った。
「…………もういい。一人にさせて……。」
カナは吐き捨てるようにそう言うと、自分の部屋の中に入っていった。
「どうしたんだろうねぇ……?」
麻衣はカナの様子を見て、そう呟いた。
*
「麻衣さんが……フタバのことを覚えてないなんて……」
ベッドに顔を埋めながら、カナはそう呟く。
そして、ふとレナが言っていた言葉を思い出した。
『例え貴女が死んでも、貴女がいなかった事になるだけなんだから……。』
カナに向かって言った、レナのあの一言。
「こんな……ことって……」
部屋の中でカナは一人、そう呟いた。
*
月曜日。カナは学校に投稿した。
校門前でふと、立ち止まる。
いつもなら、ここでフタバが声をかけて来ていた。
しかし、当たり前だが彼女が姿を現すことなない。
カナは校舎の中に入り、靴を履き替え教室へと向かう。
教室の中に足を踏み入れると、奇妙な雰囲気を感じ取っていた。
カナが座席表を見てフタバの席を確認する。
確かに机と椅子はある。……が、そこは別の生徒の席になっていた。
「…………!!」
カナは思わず息を飲む。
それだけではない。名簿や掲示物から何から何に至るまで、フタバの痕跡は何一つ残されていなかった。
生徒たちも、誰もフタバの話題を出す者は1人もいない。
まるで、最初からフタバは存在していなかったように。
「フタバ…………」
カナは一人、孤独感に苛まれていた。
*
昼休み。
カナは屋上で景色を眺めていた。
「ここで……私はフタバと……」
入学式の日に、フタバに連れてこられた、この屋上。
「フタバは……フタバは確かにここにいたんだ……。」
カナがそう呟いていると、誰かに声をかけられた。
「フタバを失って喪失感に苛まれてるみたいね……?新入りさん……?いや……天宮 カナさん……?」
その声には聞き覚えがあった。
カナは振り向く。
そこに立っていたのは……
「生徒……会長……!」
フタバを殺した張本人、早乙女 レナだった。
カナはポケットの中に手を入れ、カートリッジを構えようとする。
「残念ね……、今日はカートリッジ持ってきてないのよ……。誰かさんに散々やられたから、まだ傷が癒えてなくてね……?」
レナがそう言うと、カナは言う。
「フタバを殺した癖に……!」
カナがそう言うと、レナは言った。
「…………そうね。私がフタバを殺した。」
その顔からは、笑みが消えていた。
「悔やんでいるの……?」
カナの言葉に、レナは言った。
「例えファイターでもね……、人を殺すのって、気分がいいものじゃないのよ……。」
その言葉はどこか、寂しそうだった。
「それでも、叶えたい願いがある……。だから……私たちファイターは戦い続ける。『UNKNOWN』を倒すために……。自分を偽ってでも……。」
レナはそう言うと、カナの方を見て問いかけた。
「貴女は……何のために戦うのかしら……?」
「え……。」
「貴女はなんで………ファイターになったの……?願いはあるの……?
……ないでしょう?そんなものは。私たちや、フタバと違って……貴女には無いはずよ。」
レナはそう言うと、吐き捨てるように言った。
「だから……気に入らないのかもしれないわね……?貴女のこと。」
「…………。」
カナは俯く。レナはその後にこう言った。
「気になる……?フタバのことが。
フタバみたいに……あの仮想空間内で死んだファイターはね……、ファイター以外の人々から記憶が消えてしまうの。
記憶だけじゃないわ……?この世界に存在していたという痕跡が、何もかも……。」
「痕跡が……消える……」
カナがそう呟くと、レナは言った。
「ただ、ファイターだけは……死んだ人のことを覚えている。
フタバを大事に思ってるのなら……大事にしなさい……?その記憶を……。それが……彼女への供養になり、彼女がこの世界にいた証にもなるんだから……。」
レナはそう言うと、手を振りカナの元を去っていった。
「フタバがいた……証……」
カナはふと、スマホケースに貼り付けたプリクラに目を落とす。
そこには、確かにいた。フタバが。
「フタバはいたんだ……、この世界に、間違いなく……。私が……覚えておいてあげないと……。」
カナはプリクラを見つめ、そう呟いた。
*
放課後。
カナは一人駅前に来ていた。
フタバと一緒に食べた、クレープの屋台は今も変わらずそこにあった。
いつもと変わらぬ、駅前の風景。
ただ、一つだけ違う点があるとすれば、隣にフタバがいないということだった。
「あれ、この間のフタバと一緒にいた新人じゃん。」
ふと、そう声をかけられてカナは振り向く。
そこに立っていたのは……
「貴女は確か……ゲーセンで会った……」
「へぇ、私のこと覚えててくれたんだ。」
そこに立っていたのは、4人目のファイター、神山 ユウ。
「聞いたよ、フタバ死んだんだってね。だっさ。」
「ださい……?」
ユウが放った言葉に、カナはそう反応するもユウは表情ひとつ変えずに言う。
「だってそうでしょ、弱いから先パイに殺された訳だし。ださいっしょ。」
ユウはそう言うと、噛んでいたガムを膨らませる。
「人が死んだのに……ダサいって言うの……?」
カナの言葉に、ユウは答える。
「ゲームなんだから、死ぬのは当然っしょ」
「ゲーム……」
「命を扱ったゲーム、強い奴が生き残って、弱い奴が死ぬ。だだそれだけのことで何で感情的になれんの?バカなんじゃね?」
ユウはそう言うと、ガムを道端にペッ、と吐き出す。
「それよりさぁ、強いんでしょ?先パイボッコボコにしたくらいなんだからさ。」
ユウはそう言うと、スタジャンのポケットからカートリッジを取り出す。
「興味あんだよね。エネミーになるっていうのにさ。見せてよ、私にもその姿。」
ユウがそう言うと、周囲の風景が仮想空間へと変わっていった。
「チェンジ。」
ユウはそう言うと、カートリッジをベルトのバックル部分に挿入した。
《Change》
すると、ユウの身体が光に包まれ、衣服が消滅し一度全裸になると、真紅のアーマーを纏い、スーツに身を包んだ。
そして、バイザーが頭部に装着され、彼女はファイターの姿となった。
《Vampire》
真紅のバトルスーツを纏ったユウは、カナに向かって言う。
「変身しなよ、ゲームは楽しまなきゃ」
「こんな戦いを……ゲーム扱いしてる貴女に……負けない……!!」
カナもカートリッジを構えて、叫んだ。
「チェンジ……!!」
《Change》
ベルトにカートリッジを挿入すると、光に包まれカナの身体に黒緑色のアーマーとスーツが纏われる。
《Demifiend》
バトルスーツに身を包んだカナが、ユウと相対した。
「楽しいゲームの始まり、気楽にいこうよ。」
ユウはそう言うと、カナに襲いかかってきた……!
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