第9話

「ァ…………ァァ…………!!」


 ベルトに挿入されたカートリッジから、暗黒のオーラが放たれ、カナを包み込んでいく。


 コワセ……


 スベテ……


 コワセ……!!


「フンッ!!!!!」


 暗黒のオーラを斬り裂いて、姿を現したのは……バトルスーツ……ではなく、灰色の化け猫のような姿と化したカナだった。


 後ろの髪は長く伸び、灰色になった素肌に真っ白な模様が浮かぶ。


 両腕と両足は獣のように変異し、目元は目隠しで覆われて表情が読み取れない。


 辛うじてベルトはしているものの、その姿はまるで……


「エネミー……」


 レナはそう形容した。


 そう、そこにいたのは『ファイター』ではなかった。


 人型の、化け猫の『エネミー』。


「シャァッ!!!!」


 カナはレナの元へと飛びかかっていった。


「貴女もフタバの元へ送ってあげるわ……?」


 レナは拳銃を構え、カナに向かって発砲する。


 ガウン!ガウン!ガウン!


 銃声が響く。


 自身に向けて放たれる弾丸を、カナは一発も当たることなく軽々と避けてみせた。


「シャッ!!!!」


 カナの鋭い爪がレナの手から拳銃を弾き飛ばす。


「なっ……!?」


 レナが動揺し尻もちをついた時、カナは右手の拳に力を込め、レナの腹部を思い切り殴りつけた。


「がはっ……!!」


 口から血を吐くレナ。


 カナはそのまま馬乗りになると、レナの顔面を何度も殴りつけた。


「アハハハハ!!!!!死ね!!!!死ねしねシネェ!!!!」


 狂気に満ちた笑い声を上げるカナ。


 ガスッ!!


「ごふっ!!」


 ドスッ!!


「がはぁっ!!」


 バキィッ!!!!


「あぁぁっ!!!!」


 カナに殴られる度に悲鳴を上げるレナ。


(こ……この子……一体……!?)


 予想以上の力に、レナはどうすることもできない。


「アッハッハッハッハッ!!!!!ねぇ!!早く死んでよ!?ねぇ!?」


 そう楽しそうに笑いながら、カナは手を緩めない。


 何度も何度も、レナの顔面を殴り続けた。


 そして、髪の毛を引っ張り彼女を無理やり起こすと……


 ドスゥッ!!!!!!


 鳩尾にめり込むくらい拳で殴りつけた。


「………………!!!!」


 苦しすぎて声も出ない。


 一時的に呼吸ができなくなり、もがくレナ。


「かひゅっ……!かひゅっ……!!」


 なんとか呼吸が出来るようになったのもつかの間


 ゴスッ!!!!


 腹部に向かってカナは強烈な蹴りを食らわせた。


「ごはぁっ……!!!!」


 血を吐き出し吹っ飛ぶレナ。


 地面に転がると、カナはゆっくりとレナの元へと近づいてきた。


「はぁっ……!!はぁっ…………!!」


 レナは拳銃を構えると、引き金を引いた。


「エスケープ……!!」


 すると、銃からは煙幕のようなものが吐き出され、彼女の周囲を煙が包み込んだ。


 カナはその煙をかき分け、レナにトドメを刺そうと近づく。


 ……が。


 そこにはもう、レナの姿はなかった。


「…………ァァ…………」


 レナがいなくなったのを知った途端、カナはゆっくりと崩れ落ちるように倒れ、そして元の人の姿に戻って行った。





…………きなさい。


起きなさい……。


天宮 カナ……。


「…………ん…」


 カナはゆっくりと目を開けた。


「ここは…………」


 目を覚ました彼女の視界に広がっていたのは、真っ白な空間。


「やっと起きたのね……?」


 カナの目の前に、一人の少女が姿を現す。


 その姿を見て、カナは呟いた。


「わ……私……?」


 目の前の少女は、カナと瓜二つの少女だった。


 ただ、違うところがあるとすれば、服も髪も身体も、全てが灰色であることだろうか。


「貴女は……一体……」


 カナの問いに、少女は答える。


「私の名前は『ヨミ』、正式名称は『エネミー・タイプ:アナザー『ヨミ』』……。」


 ヨミ、と名乗った少女はそう答えた。


「エネミー……なの……?」


 カナがそう言うと、ヨミは頷いた。


「そうよ……?私は貴女たちの敵の立場にある、エネミーのうちの一体……。」


 ヨミはそう言うと、言葉を続けた。


「でも、安心して……?私は貴女に危害を加えるつもりはないから……。」


 ヨミはそう言うと、カナに近づく。


「全ては……Code.『U』……貴女たちが『UNKNOWN』と呼ぶ、あの人からの頼みだから……。」


「『UNKNOWN』が……?」


カナの問いにヨミは頷いた。


「そうよ……?『U』は私に、貴女の力になって欲しいと頼んできたの……。」


「なんで……『UNKNOWN』が私を……」


 カナがそう言うと、ヨミは言う。


「それは……貴女が『U』に会う権利を得た時に、わかると思うわ……?」


 ヨミはそう言うと、カナを見つめる。


「私は特別なエネミーでね……?普段はカートリッジに擬態しているの……。

 ファイターが私をベルトに挿入した時だけ、私はその人に力を貸したり、こうやって姿を借りて会話することができるんだけど……」


 ヨミはそう言うと、言葉を止めた。


「貴女の心が闇に支配されていたせいで……少し暴走してしまってみたいなの。」


「暴走……」


 カナがそう呟くと、ヨミは言う。


「ダークエルフのカートリッジを持つファイターを、半殺しにしちゃったみたいだからね……?」


「半殺し……?私が……」


「貴女は友人をその人に殺されて、怒りと憎悪に捕らわれている。今の状態だと……私の本当の力を使うことは出来ないかもしれないわね……?」


 ヨミはそう告げると、カナは問いかけた。


「私は……どうしたらいい……?」


 カナの問いに、ヨミは答える。


「怒り、憎悪、そして迷い……。これを全て乗り越えることが出来た時に……貴女は新しい力を手に入れることが出来ると思うわ……?


 そのカートリッジ……『デミフィーンド』は、無限の可能性を秘めているから……。」


 ヨミはそう言うと、カナに向かって言った。


「そろそろ時間みたい。また会いましょう……?カナ。」


 ヨミはそう言うと、パチンと指を鳴らした。





「…………ん……」


 カナは再び目を覚ます。


 そこは、現実世界だった。


「いつの間に……」


 カナは周囲を見回す。


「フタバ…………」


 当たり前だが、そこにフタバの姿はない。


「フタバ…………!!!!」


 この街で初めて出来た友だちを失った悲しみを堪えきれず、カナは一人涙を流した。





 その頃、仮想空間内では。


「はぁっ……はぁっ……あぁぁ……!!」


 バトルスーツに身を包んだまま、レナは激痛に悶えていた。


「あ……あれは……一体……!!」


 レナはエネミーの姿に変異したカナを思い出しながら、震えていた。


「ボロボロじゃないっすか、だっさ。」


 バトルスーツに身を包んだ少女が、こちらへ近づいてきた。


「貴女は……ユウ……」


 レナの前に立っていたのは、赤いバトルスーツに身を包んだ神山 ユウ。


「誰にやられたんすか?」


 ユウがそう問いかけると、レナは言う。


「あの新入りよ……、フタバを殺った途端に……変なカートリッジ使って……エネミーになってね……」


「へぇ、フタバ殺ったんすか。仲良さそうだったのに。おーこわ。」


 表情ひとつ動かさず、ユウはそう言う。


「でも、レナ先パイがここまでやられてるの観るの、初めてっすわ。」


 ユウはニヤリと笑う。


「フタバが連れてた新人、なかなか楽しめそうじゃん。」


「ねぇ……私と、手を組まない……?」


 傷口を抑えながら、レナはユウにそう持ちかける。


「手を組む?先パイとっすか?」


「そうよ……。あの新入りは私たちにとって一番邪魔な存在……。私と組んで……あの子を倒しましょう……?」


「あー、そういうの興味ないっすわ。」


 ユウはそう即答するも、言葉を続ける。


「興味ないっすけど、先パイボコボコにした新人には興味あるんで、ある程度なら協力してもいいっすよ。」


 ユウがそう言うと、どこからか声が聞こえてきた。


「テメェら、アタシを差し置いて面白ぇ話してんじゃねぇよ。」


 そう言ってこちらへ近づいてきたのは、紫色のバトルスーツを纏った、小学校くらいの少女だった。


「あ、サイコパス」


 ユウがそう言うと、少女は言う。


「言ってくれるじゃねぇかよ陰キャ」


 少女はそう言うと、レナに向かって言った。


「アタシも混ぜろよ、その新人ぶっ殺すのによぉ?」


「蛭川 カリン……」


 少女……カリンはニヤニヤと笑う。


「キキキ……これから楽しくなりそうだ。なぁ?」


 カリンがそう言うと、ユウは言った。


「久々に戦ってみたいと思ったわ、興味あるし。」


「天宮……カナ……」


 傷口を抑えながら、レナはそう呟いた。

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