第8話

 翌朝。


「おはよ……麻衣さん……。」


 カナが眠い目を擦りながらリビングにやってくる。


「おはようさん、今日は土曜日だってのに、やけに早いじゃないか。」


 麻衣がそう言うと、カナはひとつ欠伸をした後に言った。


「待ち合わせしててね……。」


「待ち合わせ?どっか出かけるのかい?」


 麻衣の問いかけにカナは答えた。


「うん……、ちょっとね……。」


 カナはその後朝食を食べ終えると、いつものパーカーとホットパンツを履き、外に出かける準備をする。


「それと、これも……」


 カナは勉強机の上に置いていたカートリッジをポケットの中に入れる。


「あとは……」


 カナはスマホを手に取る。


「……そうだ。せっかくだし……」


 そう言うと、昨日撮ったプリクラのシールを1枚剥がすと、スマホケースの裏側にペタリと貼り付けた。


「…………よし。」


 カナは頷くと、スマホもパーカーのポケットに入れて部屋を出る。


「じゃあ、行ってきます。」


「おー、気をつけてな?」


 麻衣はカナに手を振り、彼女を見送った。


「若いねぇ……。」


 カナが走っていく様子を窓から見つめて、麻衣はくす、と笑った。





 カナはフタバと合流し、とある空き地に来ていた。


「ここが、ゴーレムがよく出現する場所よ。」


 フタバがそう言うと、カナは問いかける。


「ゴーレム……いるかな……。」


 カナの問いを聞いたフタバは目を瞑り、気配を感じ取る。


「…………いる!」


 フタバがそう言うと、2人はポケットからカートリッジを取り出し、前に突き出すように構える。


 すると、2人の腰にベルトが装着されると、周囲が基盤で出来た世界へと変わっていき、2人は仮想空間の中に入った。


「チェンジ!!」


 フタバがそう叫び、ベルトのバックル部分にカートリッジを挿入する。


「チェンジ……!」


 カナもまた、フタバと同じようにベルトのバックル部分にカートリッジを挿入した。


《Change》


 2人は光に包まれ、衣服が消滅し全裸となる。


 そして、アーマーを身にまとい、彼女たちの身体をスーツが覆う。


 頭にバイザーが装着され、2人はファイターに変身した。


《Sparna》


《Demifiend》


「来るわよ……!!」


 フタバがそう言うと、そこら辺に落ちていた石が宙に浮くと、1箇所に集まり、やがて一つの型を形成していく。


「グォォォォンッ!!!!」


 2人の目の前に、石巨人が姿を現した。


「エネミー・アナライズ……!」


 カナがバイザーを起動させて石巨人を見つめる。


《解析完了 エネミー:ストーンゴーレム》


「これが……ゴーレム……」


 カナは石巨人……ストーンゴーレムを見上げながら言った。


「ウォォォォン!!!!」


 ストーンゴーレムは巨大な腕を2人に向かって振り下ろした。


「くっ……!!」


 フタバとカナはそれを回避する。


「あれに当たったら一溜りもないわよ!!」


 フタバがそう叫ぶと、カナは全身に力を込める。


「はぁぁ!!!!」


 カナは掛け声を上げながら、ストーンゴーレムに向かってタックルをした。


 ストーンゴーレムは少しよろめくも、すぐに体勢を立て直し、腕でカナを薙ぎ払った。


「くはっ……!!」


「カナ!!」


 フタバが叫ぶと、カナは吹っ飛ばされて地面に倒れる。


「グォォォォォンッ!!!!」


 ストーンゴーレムはフタバに向かって拳を振り下ろす。


 フタバは剣を召喚すると、ストーンゴーレムの腕を剣で受け止めた。


「くぅっ……!!」


 ストーンゴーレムの力に押されそうになるも、フタバは何とか堪える。


「やぁっ!!!!」


 カナは掛け声を上げながら、ストーンゴーレムに向かって飛び蹴りを食らわせる。


 ゴーレムはカナの方を振り向くと、彼女に殴りかかった。


「がはっ……!!」


 ゴーレムの拳がカナの腹部を強く殴る。


 そのままよろめく彼女を乱暴に鷲掴みにすると、手に力を込めカナを握り潰そうとする。


 ギリギリギリギリ……


「あぁぁぁ…………!!」


 骨が軋む音と共に、カナから苦痛に満ちた悲鳴が聞こえる。


「カナ!!!!」


 フタバがそう叫び、剣を構えてカナを助けに行こうとした。


 その時……



「今がチャンスなんじゃない……?」



 ふいに、そう声を掛けられる。


 フタバが振り向くと、そこいたのは……


「レナ…………!!」


 私服姿の早乙女 レナがそこに立っていた。


「ゴーレム狩りに来たと思ったら、貴女がいるんだもの……。新入りさんと一緒にね……?」


 レナはくす、と笑うとフタバの耳元で囁く。


「今なら……あの新入りさんを殺せるんじゃない……?」


「…………っ!!」


 フタバは息を飲む。


「貴女はいつもそうやって、他のファイターを倒してきた……。力がない貴女が、『UNKNOWN』を倒すためには、それしか方法を知らないから……。」


 レナは不敵に笑いながら、フタバに向かって囁き続ける。


「お祖母様の病気を……治したいのでしょう……?それが、貴女の叶えたい願い……。」


「…………。」


 フタバは俯く。


「いい子よねぇ……ホント。でも……人を殺めて願いを叶えてもらえて、お祖母様は喜ぶのかしらねぇ……?」


「…………言わないで…!」


 フタバはレナにそう言うと、レナは言葉を続ける。


「まぁ……私にはどうでもいいことなんだけど……。

 それで……?早く新入りさんを殺さないと、せっかくのチャンスが無駄になってしまうわよ……?」


 レナがそう言うと、フタバは静かに言った。


「あんたには関係ない……!!」


「そう……。じゃあ……」


 レナはニヤリと笑い、言った。


「私が殺しちゃおうかしら……。」


 そう言うと、胸ポケットからカートリッジを取り出し、前に突き出す。


「チェンジ…………。」


《Change》


 レナは光に包まれ、衣服が消滅し全裸となる。


 そして、緑色のアーマーを身にまとい、スーツに身を包み込むと、光の中からバトルスーツに身を包んだレナが姿を現す。


《Dark Elf》


「ふふっ……。」


 レナは拳銃を召喚すると、ゴーレムに握り潰されようとしているカナに狙いを定める。


「さようなら……?新入りさん……」


 レナが銃の引き金を引こうとした、その時


 フタバがレナの銃を握る手の手首を掴んだ。


「あら……。」


 レナが目を丸くする。


「させないわよ……!!カナは殺させない……!!」


 フタバはそう言うとレナを睨む。


「へぇ……?」


 レナはニヤリと笑う。


(フタバが……誰かと話してる……)


 ゴーレムの腕の中でもがきながら、カナはフタバとレナの方を見る。


(あれは……ファイター……!?)


 カナはレナがファイターである事に気づくと、全身にエネルギーを込める。


「はやく…………いかない……と……!!」


 カナは全身に力を込め、ゴーレムの拘束を解こうとした。


「フタバが……大変なことに……!!!!」


 カナは歯を食いしばり、両腕で無理やりゴーレムの手の平を広げようとする。


「はぁぁぁぁ……!!!!」


 カナはそのまま力づくでゴーレムの腕から解放されると、地面に着地する。


「フタバ!!!!」


 カナがフタバの元へ駆け寄ろうとする。


「カナ!!」


 フタバがそう叫ぶと、レナは興味深げにカナを見つめる。


「へぇ……、やるじゃない……。」


「カナ!!ゴーレムがまたあんたを攻撃しようとしてるわ!!」


 フタバがそう叫ぶと、ゴーレムはカナに向かって拳を振り下ろそうとする。


 カナは立ち止まり、ゴーレムの方を振り向いた。


「いい加減……しつこい……!!」


 カナはそう吐き捨てると、ベルトの右上にあるボタンを押す。


《Over Charge》


 すると、カナの右腕にエネルギーが込められていき、そして……


「でやぁぁぁぁっ!!!!!!!!!」


 カナがエネルギーを纏った拳を力強くゴーレムに向かって放った。


 ゴーレムとカナの拳がぶつかり合うと、ゴーレムの身体は腕からピシピシ……、とヒビが入り始める。


 そしてすぐに砕け散ると、中からコアのようなものが現れた。


《Over Charge》


 レナはボタンを押し、銃口にエネルギーを貯める。


「ふふっ……。」


 ズキュゥゥゥン……!!という銃声と共に、ゴーレムのコアを弾丸が貫き、ゴーレムは消滅した。


「手助けしちゃったわ……?」


 レナはそう言いながら、くすくすと笑った。


「貴女が、もう1人のファイター……」


 カナがそう問いかけると、レナは言う。


「ええ……、早乙女 レナ……よろしくね?新入りさん……?」


 レナはそう言うと、ゴーレムの残骸を見て言う。


「それにしても……、この短期間でゴーレムを倒しちゃうくらい強くなっちゃうなんてね……?」


 レナはそう言うと、フタバの方を見る。


「貴女が目をつけるだけはあるわ……?でもね……」


 レナはそう言うと、銃口をカナの方へと向けた。


「こういう子は、早く消えてもらわなきゃ……ね……?」


「なっ……!!」


 銃口を向けられたカナは目を丸くする。


「やめなさい!!レナ!!!!」


 フタバがそう叫ぶと、レナは言った。


「貴女みたいなクズに、友だちなんて似合わないわよ……?フタバ……?」


 レナはそう言うと、カナに向かって言う。


「新入りさんにいいこと教えてあげる……。フタバはね……?前から新入りのファイターに近づいては、味方につくフリをして、今まで何人も葬ってきたクズよ……?」


「え…………?」


 カナはフタバの方を見る。


 フタバは俯いたまま、肯定も否定もしない。


「お祖母様の病気を治したいとか言ってたけど……、あんなクズに治してもらうくらいなら……死んだ方がマシ……。そうは思わない……?」


 レナはくすくすと笑う。


「フタバ……?私たち……友だちじゃなかったの……?」


 カナがそう問いかけるも、フタバは答えない。


「安心しなさい……?新入りさん。例え貴女が死んでも、貴女がいなかった事になるだけなんだから……。」


《Over Charge》


 レナは銃口にエネルギーを溜める。


「さようなら……、新入りさん……?」


 レナはそう言うと、引き金を引いた。


 ズキュゥゥゥン……!!


 引き金を引くと、レナはニヤリと笑う。


「あぁっ…………!!!!」


 カナは迫りくるエネルギーを纏った弾丸を前に動揺する。


 血飛沫が舞った。


 真っ赤な鮮血。


 カナは目を丸くする。


「え………………?」


 その血飛沫は、自分のものではなかった。


 カナの目の前で、身を呈して彼女を庇った、フタバのものだった。


「かはっ…………!!」


 その場に崩れ落ちるフタバ。


「フタバ……!!」


 カナは急いでフタバを抱き抱える。


「フタバ……!!なんで……!!」


 カナがそう言うと、フタバは口から血を吐き出しながら答える。


「あ…………あんたが…………殺されるとこ…………観たく無かった……から……!」


「フタバ……」


 カナがそう呟くと、フタバは背中から血を流しながら言う。


「た…………確かにあたしは……あんたを…………殺すために近づいた…………。それは…………間違いないわ…………でもね…………」


 フタバはカナの手を取り、言葉を紡ぐ。


「あんたは…………私を、友だちって……言ってくれた……!こんな……どうしようもない……あたしを……友だちって……!」


 フタバはそう言うと、がはっ!!と血を吐いた。


「フタバ!!!!」


「あ…………あたし……おばあちゃんの病気……治したくて……ファイターに……なったの……。

ファイターになって……『UNKNOWN』を倒せば…………おばあちゃんの病気は治るって……そう……思ったから……」


 ヒュー……ヒュー……と苦しそうに息を吐きながら、フタバは続ける。


「でも…………あたし、弱いから……新人の味方の……フリして……不意打ちするしか…………できなかった…………。

 レナの……言う通り……こんな事でおばあちゃんの病気が治っても…………きっと喜んでくれないだろうって……わかってた……けど…………」


 フタバは目に涙を浮かべ、言った。


「おばあちゃんに…………死んで欲しくなかったから………………あたしは…………!!」


「わかった……、大丈夫……大丈夫だから……。」


 カナはフタバを抱きしめる。


「カナ…………。」


 フタバはカナを見つめると、弱々しく笑みを浮かべながら言った。



「友だちに…………なってくれて…………ありがと…………。

 そして……ごめん…………ね………………」



 彼女の身体から力が抜け、ゆっくりと目を閉じた。


《Dropout》


 その音声と共に、フタバのバトルスーツが彼女の身体から外れ、全裸になった後、彼女はそのまま消滅した。


「フタバ…………!!!!」


 カナは思わず叫ぶ。


 そして、レナを睨みつける。


「あら……、まさか庇っちゃうなんてねぇ……?でも……これで一人減ったから、良しとしましょうか……。」


 くす、とレナが笑うと、カナは怒りに震えながら立ち上がる。


「お前……!!よくも……フタバを……!!!!」


 カナが怒りを露にした時、彼女の背後に『UNKNOWN』が姿を現す。


「『UNKNOWN』……?」


 レナがそう呟くと、『UNKNOWN』はそのままどこかへ去っていく。


 すると、カナの元へ流星のような光が飛んできた。


 カナはそれを手に取る。


 手の中に握られたものを観て、レナは言った。


「あれは……カートリッジ……?」


 レナがそう呟くと、カナはベルトからカートリッジを引き抜くと、新たに飛んできたカートリッジを構えて言った。


「殺してあげるよ……、ひと思いにね……。」


 カナの瞳からは光が消え、憎悪に満ちた表情を浮かばせる。


 そして、そのカートリッジをベルトのバックル部分に挿入した。


《Change Enemy:Type-Another『Yomi』》


 そして、少女の身体は闇に包まれたのだった。

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