第4話

 あれから一週間後。


 カナは高校の体育館で入学式に参加していた。


「えー、であるからして……」


 校長の退屈な話を、眠そうな顔で早く終わらないかと思いながら聞き流す。


 こういう行事は嫌いだ。


 理由は、退屈だから。


「はぁ…………」


 カナがため息をつくと、司会の教師がマイクスタンドの前に立ち、言った。


「新入生代表挨拶。」


 教師はその後、名前を読み上げた。


「桜庭 フタバ。」


「はい。」


『桜庭 フタバ』と呼ばれた少女が椅子から立ち上がり、ステージに登壇する。


「あの人……!」


 カナはその少女……桜庭 フタバに見覚えがあった。



 カナが迷い込んだ異世界で助けてくれた、あの少女だった。


「春の息吹が感じられる今日、私たちは……」


 フタバは原稿用紙に書かれた文を、マイクに向かって淡々と読み上げる。


「間違いない……、あの人だ……。」


 カナはじぃ……、とフタバを見つめる。


「…………以上を持ちまして、新入生代表の挨拶とさせていただきます。」


 フタバは文を読み終えると、原稿用紙を折りたたみ全校生徒に向かって深々と頭を下げる。


「…………あ」


 カナと目があったフタバは、驚いたような表情を浮かべながら思わず声を漏らしてしまった。


「あの子……!!」


 そう呟き、フタバはゆっくりとステージから降りる。


 チラリと、カナの方を見る。


 カナもまた、フタバが自身に気づいたことを理解し、見つめ返した。






 入学式を終え、担任からの話も終わったカナは、カバンの中に配られた教科書等を入れていた。


「まさか、あんたも同じ高校に入学するなんてね。」


 フタバがそう言いながら近づいてきた。


「あっ…………」


 カナは思わず顔を上げる。


「あんたちっちゃいから、てっきり中学生かと思っちゃった。」


 フタバがそう言うと、カナは言った。


「この間は……ありがとう。」


「別に?あたしはエネミー追ってただけだし。」


 フタバの言葉に、カナは一呼吸置いたあとに問いかけた。


「ねぇ……、あれ……なんなの?」


 カナがそう問いかけると、フタバは言った。


「ここじゃ人が多いわ。屋上開いてたから、そこで話しましょう?」


 フタバの言葉にカナは頷くと、屋上へと向かった。





「さてと……」


 屋上にたどり着くと、フタバは言う。


「あんたの質問に、約束通り答えてあげるわ?」


 フタバはそう言うと言葉を続けた。


「あれは『エネミー』。あの仮想空間の中にいる化け物よ。」


「エネミー……」


 カナがそう言うと、フタバは話を続ける。


「エネミーは、時々現実世界の人たちを仮想空間に引きずり込んで襲うことがあるの。

 自分たちの餌にするためにね。」


 フタバがそう言うと、カナは呟く。


「麻衣さんが言ってたのって……エネミーの仕業だったんだ……」


「そして、そのエネミーを狩るのが、私たち『ファイター』。カートリッジをベルトに挿入して、バトルスーツを身につけて戦うの。」


 フタバはそう言うと、言葉を続けた。


「そして、ファイターの役目はエネミーを倒すことだけじゃない。

 ……他のファイターを倒す必要もある。」


 フタバがそう言うと、カナは目を丸くする。


「ファイター同士で、戦うってこと……?」


「そうよ、私たちファイターは仲間でもあり敵でもあるの。

 エネミーを倒して経験値を溜めて強くなる。そして、他のファイターを倒す。

 そうする事で、手に入れることができるのよ。『UNKNOWN』への挑戦権がね……!」


「『UNKNOWN』……?それって……この間の……」


 カナの言葉にフタバは頷く。


「そう、あの人型の真っ黒なシルエットみたいなやつ。

 エネミー『Code.『U』』……、あたしたちは『UNKNOWN』って呼んでるけどね。

 あいつは時々ああやってあたしたちの戦いに介入してくるの。

 でも、あいつを倒すには、『UNKNOWN』と戦う挑戦権が必要になる。」


「なんで……『UNKNOWN』を倒す必要が……?エネミーだから……?」


 カナの問いにフタバは答えた。


「それもあるけど、『UNKNOWN』を倒す本当の目的は別にあるわ?

 それは……あいつを倒したファイターは、どんな願いも叶えることが出来るの。

 だから、あたし達は『UNKNOWN』を倒すために戦ってる。願いを叶えてもらうためにね。」


 フタバはそう言うと、カナの方を見て言った。


「あんた、初心者のファイターみたいだから、今は仲良くしておいてあげるけど、もしかしたら、今後敵同士になるかもしれないわよ?

 だから、気をつけなさい?」


 フタバの言葉を聞いたカナは俯く。


「いつか……戦わなくちゃいけない……」


 そうポツリと呟くと、フタバはカナに向かって問いかけた。


「そういえばあんた、何も知らないのにどうやってカートリッジを手に入れたの?」


 フタバがそう問いかけると、カナは答えた。


「路地裏に落ちていたのを拾ったら……あの空間に迷い込んで……」


 それを聞いたフタバは頷く。


「あー……、それは多分エネミーが人間を襲うために仕掛けた罠ね。

 前に倒したファイターから強奪したやつを、路地裏に置いていたんだと思う。」


「私も……一歩間違えたら死んでたんだ……。ありがとう、桜庭さん。」


 カナが頭を下げると、フタバは言う。


「フタバでいいわよ。あんたの名前は?」


「天宮……カナ……。」


「じゃあ、カナって呼ぶことにするわ?

 もう一ついいこと教えておいてあげる。この高校には、私が知る限り、あと2人ファイターがいる。それはね……」


 フタバがそう言いかけた、その直後……


「…………!!」


 フタバが急に言葉を止める。


「どうしたの……?」


 カナがそう声をかけると、フタバは言った。


「……気配がする。」


「気配……?」


「エネミーの気配よ。ファイターやってると、何となくわかるようになるの。」


 フタバは周囲を見回す。


「こっちよ!!」


 フタバはそう言うと屋上から飛び出していく。


「ま……待って……!!」


 カナはフタバの後を追う。


 人混みをかき分け、校舎の階段を駆け下りていく。


「ごめんなさい!!」


 フタバがそう言いながら廊下を駆け抜けていく。


 カナも後を追う。


「あの子達……。」


 2人が廊下を走り去っていく様を、積んだ書物を運んでいた黒髪ロングヘアの女生徒が見つめては呟く。


「…………へぇ。」


 彼女はくす、と笑うと本を運ぶために図書室へと向かった。





「ここよ!!」


 フタバが足を止める。


 そこは、校舎裏の草むらだった。


「この近くに、エネミーがいるわ……!!」


 フタバはカートリッジを取り出すと、前に突き出す。


 すると、2人の周囲の景色が電子基板に包まれた仮想空間へと姿を変えた。


「いた……!!」


 フタバの視線の先には、ゴリラのような怪物が捕獲した女子生徒を殺めようと拳を振り上げていた。


「あの人が危ない……!!」


 カナがそう叫ぶと、フタバはカートリッジを構えて叫ぶ。


「チェンジ!!!!」


 フタバは自身の腰に装着されたベルトのバックル部分にカートリッジを挿入する。


《Change》


 カートリッジを挿入すると、フタバの身体が光に包まれる。


 そして、身につけていた衣服が破れ一度全裸になると、紺色のアーマーをその身に纏う。


 両腕、両足、胸元、下半身とアーマーが身につけられていくと、最後に体全体をスーツが覆う。


 頭にバイザーを装着し、背中から大きな翼が生えた。


《Sparna》


 光の中から、バトルスーツを装着したフタバが姿を現す。


「行くわよ!!」


 フタバは剣を召喚し、それを握ると、翼を広げてエネミーの元へと飛んでいく。


「はぁぁぁぁっ!!!!」


 フタバはエネミーに向かって剣を振り下ろす。


 エネミーはフタバの存在に気づき、鎧を纏った腕で彼女の剣を受け止めた。


「私も……戦わなきゃなんだよね……。」


 カナはそう言うと、カートリッジを取り出し前に掲げる。


 すると、フタバと同じように彼女の腰にベルトが巻かれた。


「………チェンジ。」


 ベルトのバックル部分にカートリッジを挿入する。


《Change》


 カナの身体は光に包まれた。


 身につけていた衣服が破れ、一糸まとわぬ姿となった後、胸元、腕、下半身、そして足と黒緑色のアーマーを纏う。


 そして、彼女の身体をスーツが包み込み、バイザーが装着されると、光の中からバトルスーツを纏ったカナが姿を現した。


《Demifiend》


 カナはエネミーに拉致され困惑気味の女子生徒の元へと駆け寄る。


「大丈夫ですか……?」


 カナがそう言うと、女子生徒は言う。


「あ……貴女は?」


 女子生徒の言葉に、カナは答えた。


「ファイター……っていうやつらしいです。」


 カナはそう言うと、フタバと交戦中のエネミーの方を向く。


「やるしかない……。」


 カナはそう呟くと、エネミーの元へ向かっていった。

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