day31:遠くまで
「一、二――って、あ~ぁ……」
ぽちゃん…石は、かろうじて一度跳ねてから、つんのめるように勢いを失って水面下に消えた。
「でも、一回は跳ねたから、もう少し勢いと……投げる高さを調節すれば、次はもっといけますよ」
ん~……唸って、新しい石を物色するはるきの脇で、
ぴちっ……ぴちっ……ぴっ……ぴっ……つっ……ちゃぽ。
石は、
水切り――平たい石に回転を利かせ水面近くを滑らせるように投げると、石が水面に触れた際、液体表面の慣性により揺り上がった水面を滑り上がり、引力を振り切るだけの推進力が残っていれば弾き出されるかのようにさらに先へと飛び上がる……最後に力を失くして水没するまでの回数や距離を競いあるいは自慢しあう、子供の水辺の遊びである。
スポーツを苦手とする堯之ではあるが、身体を動かすことがまるで嫌いなわけではない――夏の午後の陽射しを弾く川面に、ふと思い立って石を投げてみれば、器用に跳ねて川を渡り切ったそれに、意外にもはるきが興味を示してのってきた。
自分もやるとはしゃぐはるきに、手本を…とばかり促され――隣で二度三度と石を投げて。
「この石は、いけそう?」
「うん。こういう少しざらざらした石の方が、表面の滑らかな石より……」
拾った石を差し出すはるきの手元を覗き込んだ堯之の声が、不意に途切れた。
ん?…気付いて顔をあげたはるきと、覚えずしばし見つめあい――それから、ふっ…おもむろに我に返って、笑みを刷く。
「なに?」
「いえ……。俺が、はるきさんに教えることもあるんだなぁ…って」
はるきは首を傾ぐが、出会ってからずっと――教えられてばかりだったように、堯之は思う。
「そう? おれは、けっこうタカユキくんから教えてもらってるつもりですけど――?」
いいんじゃないですか……けれども、目を丸くして見せたあと、はるきはてらいなくいつもの台詞を口にする。
「教えて教わって――そうやって、これからもお互いやっていけたら、おれは嬉しいです」
「俺もです……」
頷いて、吟味した石を手に返すと――はるきは、注意深く先ほどの堯之のフォームを真似て、何度目かの石を放つ。
つん……つつっ……ぴちっ……たぷん。
石は、今度こそ――ずっと、遠くまで跳ねた。
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