day30:握手


「なにしにきたの?」

 それは、二度目か三度目か……まだ、木ノ瀬きのせの家を訪問するとまず奥の六畳間へと通されていた頃。

 持参した酒を掲げてみせやれば、肴を用意してくると台所に向かう堯之たかゆきを見送った背後から、まだ声変わりしきっていない少年の声が問いかけた。

「会いに来ただけだよ。仲良くなりたくて」

 すぐには振り向かなかったが、後方左右に金銀ふたつの気配を覚えた。

「そんなに、タカユキに、この町に居ついてもらいたい?」

 問う声色に、少しばかり感心する――好かれたようだとは思っていたが、彼らはすっかり堯之を護るものと見なしているらしい。

「それもあるよ。確かにこの土地は先細りしてて、この町を支えて盛り上げてくれる人にひとりでも多くいて欲しい――」

 でもね……逆接の接続詞を続けないでいられなかったあたり、おそらくはるきもこの神棚の少年達のことを言っていられない。

「その前に、おれは――タカユキくんがここを好きになってくれたら嬉しいと思うし」

 ゆっくりと振り向けば、内祭りの夜に見た、長い黄金おうごんの髪と白銀はくぎんの髪を持つ少年がふたり――ただし、人形のようなサイズだったあの時とは異なり、見た目相応の十代にさしかかるか否かの子供らがそこにいた。

「おれは、タカユキくんと――ただ、友達になれたら嬉しいと思うよ」

 君たちと、考えていることは同じさ……肩をすくめてみせるのは、幾分、疑われることへの抗議に変えて。

 堯之は、生真面目で素直でおおらかで、根本的に心優しい――およそのひとに好かれるだろうことはもちろん、人の隣あるいは陰に棲息する存在にこそ好まれやすく思われる。彼らは聖邪の別なく共に、人よりも善意悪意への感受性が高く感情も振れやすい。だので、神棚の彼らのように堯之に懐くモノはこの先も多いだろう。特に、人となり如何の前に過疎の進んだ地に棲む彼らは、心地よい気を持つ『人』に飢えている――中には、好意を欲と取り違え、過剰に過激に堯之を取り込もうとしかねない。実際、秋祭りの午後――鎮守の森の杉の木たちはざわめいた。

 ふぅん……ふたりながら睥睨する視線を受け止め、見詰め返すことしばし。

「わかった」

 黄金の髪の少年が応え、白銀の髪の少年は頷いた。

「俺はこがね――こっちは、しろがね」

 それから、ふたり揃って手を差し出す。


「それで、タカユキの前では、なんて呼べばいい?」


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