day26:すやすや


「こんにちは」

 真夏の昼間のこと、十畳間と六畳間を隔てる襖も居室と縁側を隔てる雪見障子も縁側の掃き出しまで開け放たれた母屋に声をかけるも、深い庇の奥はしんと静まり返っていた。

「おーい、タカユキくーん……?」

 さすがに、これだけあけっぴろげたままで留守なはずはないだろう――軒下の沓脱台に足をかけ、明るい炎天下から日陰に入ったために混乱する視力の復調を待つことしばし、天井の高い十畳間の中央に見付けた住人の姿に、ふふっ……はるきは口元に笑みを刷く。


 すや……。


 台所へ向かう硝子障子も解放され、おそらく台所にある裏口も網戸にされているのだろう――日向より幾分涼し気な風の撫でる畳の上、大小三人、のびのびと手足を伸ばして転がっていた。

 失礼して、縁側の縁に膝立ちして覗きやるに、大の字になる堯之たかゆきを挟んで右左。青年の腕を枕に、やはり大の字になって健やかに胸を上下させているのはこがね。幾分大人しげに、若者の脇の間に丸まっているのはしろがね。


 まったく――仲良しだもんなぁ。


 少し羨ましいような気もしてしまうが、さすがに混ぜてもらおうとするには理性が勝ちすぎれば――苦笑するしかない。


「アイスでも買ってきましょうかね……」


 誰にともなくごちて、庭に停めたばかりの愛車へと踵を返した。


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