day23:静かな毒


 言葉には、『力』があると――友人は言う。

 言葉に形はないけれども、言葉にすることで対象に形を与え――さらに言えば、文字にすることで固定してしまうのだと言う。

 それは、なにも特別なことではなく――。


「例えば、後ろ向きなことを口にしてばかりいると、自分自身でその気になっちゃうことがあるでしょ?」

 ふとした不安から悪いことばかり想像して、できるはずのことを失敗して……さらに自分が嫌になって――悪循環に陥ってしまった経験は、誰しも全くないこともないだろう。

「逆に、おだてられてる…ってわかる時でも褒められると嬉しくて、上手く行ったりするじゃないですか」

 かく言う彼こそが、おだて上手であると――堯之たかゆきは、思うわけだが。

「上手くできて嫌な人はいないでしょ?」

 あっけらかんとのたまう――もっとも、彼が思ってもいないおべんちゃらを口にする性質たちではないとも知っているからこそ、その言葉に載せられるのだけれども。

「それに、しんどいしんどい…って自分を追い込んで楽しいひともいないもんじゃないですか? 本人が苦しいだけですし……そういう人を見ていると悲しくなっちゃいませんか?」

 だから、自分は祝う言葉を口にするのだと――。

 そこにある、『命』や『魂』や――を奮い立たせるために……。


「その『力』をは、『言霊』と呼びます」



 そして――。

 からん…氷を鳴らして、はるきは結露したグラスの麦茶を飲み干した。



「まぁ、どんなに言い換えても――暑いのは、暑いんですけどね」


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