day18:占い


 姿勢を正して――二礼二拍手一拝、はるきと知り合ってから神社にお参りすることが増えた。

 語弊をおそれずに言うなら、気安く親しむようになった。

 それまでは、年始の初詣もしたりしなかったり、旅先で観光がてらお参りする程度でしかなく――むしろ、お参りするのにそんないい加減なものでいいのだろうかと、学業祈願の御守りを買った時など、後ろめたい気持ちを覚えたこともあるほどだったのだけれども。


「いいんですよ。そんなに気負わなくても」

 神職にある友人は、恐縮する堯之たかゆきの背をぱたぱたとはたきながら、あっけらかんと笑ってみせた。

「まぁ、いろんな神様がいらっしゃいますから、中には一部地域の神様や一族のための神様もいらっしゃるでしょうけど……一般に開放されている神社で、そんなに気負うことはないですよ」

 自分の心を静めさせて欲しい、見守ってくれる存在を感じたい、胸に湧いた漠然とした感謝を伝えたい――それらが意識的であろうが無意識であろうが、お参りをしたいと思った時がお参りのタイミングなのだと……正直、ちょっと緩すぎはしないかと思うような説を説く。

「特殊な近寄りがたい場所であるよりは、生活の隣に寄り添うものであればいいと、おれは思ってます」

 人付き合いと同じように、ごく自然な敬意を持ってお参りいただければいいのでは……と。


 そうして、はるきの元を訪ねるたびに――ついでと言えば、語弊があろうかもしれないが……お参りするごと、お社も参道もとても優しくきさくな場所だと感じるようになった。

 本当を言うと、以前は参道の両側に立ち並ぶ奥の知れない深い樹々を少し怖いと思うこともあったのだけれども……今では、なにやら温かいもののように思えるようにもなっていた。

 だので――。



 添えられた箱に、二百円を投入して――小さくたたまれた、おみくじを一枚。

「ん~。ほどほど……?」

 開けば、中吉――連なる、各種運勢もほどほどに悪からず。


 おみくじ括り場に結わえて、神様とのご縁を今少し願ってもよかったのかもしれなかったけれど。


「ご縁をいただいて帰ります――」


 今日ばかりは、元のように小さくたたんで、財布の中に仕舞い込む。

 小さな紙面に、とても大事にしたい言葉を見付けたから。



『友。こころづよきもの』


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