day17:砂浜


 山間の地域を流れる川であれば、流れの比較的緩やかな箇所であってもさすがに海辺や湖畔に見られるような砂浜は存在しない。

 それでも、川のカーブの内側には砂利と呼ぶには粒の小さな礫と砂が柔らかな床を拡げていて、釣り人や川遊びの子供たちを受け入れていた。


 すんだ川岸には、昼間は姿を見せない山の生き物も夜間、水を求めて訪れることがあるようで――ごく水際の、雨に流されてきた泥が砂に混じる辺りには時おり、彼らの足跡が残されていることも珍しい話ではなかった。

 とはいえ――。


 久しく見なかったんだけどなぁ……。


 はるきはひとり、あからさまな足跡を見下ろしていた。

 いや、足跡によって――もういなくなってしまったかと思われていたそれの棲息が確認されたことは、おそらく喜ばしいことであるのだろうが。

 持参した弁当を入れた方のクーラーボックスとたもを手に、河原への緩い斜面にできた道を下ってくる長身を振り返る。

 釣りに誘い出した手前――あれやこれやに好まれやすいらしい、生真面目な彼を危ない目に遭わせるわけにはいかないだろう。

 足跡の主に悪意があるないを問わず、水辺に棲むものである以上――突発的な事故はあり得る。

 砂礫の集まる側は浅くはあるが、少し入った川底には角の鋭い石が潜んでいたり、大きな岩が埋まっていたりする箇所も少なくないのだ。


「タカユキくん――もうちょっと場所、移動しましょうか? 此処より、もう少し上流の方がよさそうなんで」


 踵を返して、今一度――車へと友人を促す。



 あとにした水辺の砂には、二足歩行と思しき足の裏を持つ――水かきのある足跡が刻まれていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る