day13:流しそうめん


 かちり…スイッチを入れると――ブン…一世代前の家庭用遊具然としたモーター音を響かせて、透明なアクリルで作られた小判型の水路に張られた水が周回を始める。

「わぁ……」

 少年姿がふたり、目を輝かせて身を乗り出した。

 ダイニングキッチンのテーブルの中央で、ぐるぐると涼し気な水流を作っているのは――蔵の中で発見した、卓上流しそうめんの機械。

 家庭用の簡素な商品であるらしく本体の土台部分のプラスチックは少々変色してしまっていたが、亀裂やゆがみはないようで――綺麗に洗って乾かし、所定の乾電池をセットすると無事に期待通りに起動した。


 県東部から隣県にまたがる高原地帯であれば、湿度高い猛暑の名古屋の夏に慣らされた堯之には、比較的さらりと凌ぎやすくあるとは思うわけだが、それでも――やはり、暑いものは暑い。

 火の前に立つのが億劫になれば、休日の昼食など前夜の余りものを適当に摘まむ程度で済ませることが多くなるのだが、先日――非常勤講師を務める地元の公立高校の職員室で、素麺をしっかり一箱いただいてしまい、前後して蔵から件の機械が発見されるとあっては。


「それは、流しそうめんパーティーするしか!」

 水を冷やすために放り込んだ氷がぐるぐると流される様子をわくわくと眺めている少年達と同じくらい瞳を輝かせたのは、現在、背後のシンクでご機嫌に茹であがった素麺を洗っているはるきで。

 水切りした素麺をひとつまみ小皿にとりわけ、目線で促されるのは――台所、冷蔵庫の上の棚に祀られている五色の幣束に供えておけと言うことらしい。曰く――。

「楽しいことにはご一緒して頂けばいいかな…って思うからさ」

 初物を神棚にお供えする習慣のある地域や家庭もあるそうだが、決まり事めいて改まらずとも――ちょっと美味しいから、いつもより華やいだ食事だから…そのくらいの気持ちで、気軽にお供えをしたらいい……と彼は言う。その気持ちの中には、意識するしないに関わらず感謝の思いが含まれていて、お供え物をされた神様も喜ばれるだろうから、と。

 そのあたりは、確かに……と――こがねしろがねと食卓を囲むほどにしみじみ思う。彼らは、特には人間と同じ食事を必要とするわけではないのだけれど――共にする飲食をこのうえなく無邪気に喜ぶ。その様子は微笑ましく、またなにやら嬉しくも感じられて――自ずから、また次も…という気持ちになる。自覚すれば、そこには感謝の心が確かに根付いている。

「気持ちいい循環ですよね――」

 それに……素直に頷く堯之たかゆきに目を細めて、はるきは笑う。


「ひとと暮らす神様は、寂しがり屋さんが多いですから」


 たくさん遊んであげてください……小首を傾ぐような仕草で念押ししておいて、おもむろに艶やかな麺の盛られたざるを引き上げた。

「はじめますか――」


 投入された麺は流れにのり、白い円を描いた――。


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