day12:門番


 季節の移り変わりを天候て感じる頃合いになると、はるきはひとりでご機嫌伺いに回るのが常だった。


「お変わりないですか?」

 古い小道と新しくできた車道との交差点に住まう年老いたご夫婦の元を訪れると、夫婦そろって健勝だと微笑まれて安堵する。

「今年もいつもの夏になりそうよ。あぁ、でも……いつもの虫たちが少ないみたいだから、気を付けてあげて」

 季節の花を土産に渡した。


「お変わりありませんか?」

 隣県と接するほど近く、境を示す標識の立つ脇で暮らすご夫婦は、今日もいちゃいちゃラブラブだった。

「ここは古い道だけれど……一本道だから、迷子だって徘徊老人だって、すぐに見つけて家に帰してあげられるから安心して」

 頼もし気に胸を張る彼らは、冷えた生酒に――わぁ、嬉しい……ふたりながら頬をほころばせた。


「変わったことはありませんか?」

 去年、大雨で道路脇の斜面が崩れたために、十数メートルの移転を余儀なくされた幼さを残した夫婦は、一年程で充分その場に馴染んでいた。

「悪い感じはありませぬ」

「こまかなものには護り虫たちがおおわらわしておりますので、今年はわれらも手伝うておりまする」

 お手数おかけします……大きくはないがよく熟れたスイカは、たいそう喜ばれた。


「お変わりなさそうですね?」

 もうほとんど忘れ去られようかとする、峠の道。

 連れ合いを失くした男は、老いてなお頑なにそこにいた。

「わしの欠片でもおるうちは、この道は守ってみせましょうぞ」

 豪快に笑う男が、実ははるきの持ってくる饅頭を楽しみにしていることを――本当を言えば、知っている。



「これからもよろしくお願いしますね――」


 季節の移り変わりを天候て感じる頃合いになると、はるきはひとりで――道端の古い石像を訪ねて回る。


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