day11:飴色


 ふるり…少年が、払い除けるに似た仕草で頭を一振りすると――ふさり…短く整えられていたはずの襟足を毛先に癖のある金糸が降りてきて覆った。

 オーバーサイズのティーシャツに膝丈のジーンズだった服装は、裾の丈だけそのままに――鬱金うこん色の童水干姿に変わっていて。


 こがね。

 当家の神棚の前面に置かれた、金紙で切られた御幣。

 露払いのひとり。


 少年の姿をしたそれが、顔立ちの凛々しさの要たる綺麗なアーモンド形をした目をあげる。

 透き通るような琥珀の瞳――。


 きらきらと光るそれが、不快気に眇めやられた。

「だーかーら、嫌だっつってんだろ――!」

 軽く跳躍すると、鞭のように飛んでくる『手』を回し蹴る。


 弾かれた先――しろがねが、抱えていた小振りの甕に、飛んできた『手』を危なげなく受け止めると、急いで蓋を被せやった。

 ぽんぽん…二度三度、手のひらで叩いて完全に嵌め込んでしまってから、さらに麻布を被せ――ぐるぐる…縄で持って縛り上げる。

「捕縛完了!」


 ことこと…さげ上げられた甕は、なおも往生際悪く揺れていたけれど。

「うるさいよ」

 しろがねの呟きに、何をか思うところがあったのだろう――ややもなく、大人しくなった。





「結局――なんで、こがねが狙われてたわけ?」

 騒動の翌日、充分に落ち着いた『手』から事情を確認し、よくよく言い聞かせてから川に返してきたというふたりに問えば。

「子供のために飴が欲しかったんだって」

 だから、飴をあげたら大人しく帰ってくれた……憮然とした様子のこがねの代わりに、肩を竦めたしろがねが答えた。


 納得してしまった…とは、さすがに本人を前に言うは、悪いか。



 子供の頃に好きだった、ちょっと懐かしい味のする飴玉は――確かに、濃い琥珀色をしていたっけか。


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