day8:こもれび


 はるきとて、徒歩で出かけることはあるのだ。

 ほたほたと、社叢の一部を掠める杉と竹の林の間の舗装された道を歩く。

 晴天に熱せられたアスファルトは熱気を撒いて、じわりと肌に汗を浮かび上がらせていたが――林の影に入ってしまえば、とたん、するりと濡れた肌が冷えていく。同時に、道路脇の乾いた土の匂いから変わり鼻を撫でる、しっとりとした下草と木の肌の香り。

 日の傾きによっては、うっかり昼間でも薄暗い道ではあるが、夏の太陽がほぼ真上にある時間であれば、背高く育った樹々の枝葉の間を縫って、きらきらしい光がこぼれ挿す。

 少しずつ、家々は建て替わり――時に、住まう家族も変わっていくけれど、人々が日々を暮らす往来や社へ向かう道は、さほどそれることなく変わらない。

 残されているばかりを尊ぶつもりはないが――残っているということは、不便ではなく好まれている証拠だと思いたい。


 残るということは、生きているということだ……。


 生きているこの土地を愛しいと思う――。

 人々を健やかに育みつづける地でありたいと思う。


 まだなら光をあびながら、ゆるりゆるりと草履履きの歩を進める。

 樹々の影が切れれば、鳥居の前――参道からなだらかな丘になった御旅所への緩い経路と今通ってきた道がさらに抜けていく交差点。

 そこからさらに、御旅所の脇を上る一部をコンクリート舗装された坂道があって――それを辿れば、南側の鶴の宮の社を裏側から訪うことができる。その坂道の付け根にあたる部分に、はるきの住まう真砂の家屋はあった。


「おでかけでしたか? はるきさん」

 彼もまた帰宅したところなのだろう、玄関の引き戸に手をかけて振り返る夏物の長羽織姿の白髪痩身の男性は、この神社の宮司を勤める――はるきの祖父にあたる老人だ。

「はい。ただいま戻りました」

「おかえりなさい。暑かったでしょう」


 眩しさに眼鏡の奥の目を細めながら気遣ってくれる彼もまた、はるきの――護りたい朋友のひとりだった。






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