day4:触れる


 しろがねは、あまり大勢の立ち動く場所は苦手だ。

 お役目の上のことならともかく、前後左右の至近距離を他人が往来する状況は、急かされるようで落ち着けない。

 そうでなくとも――もとより、こがねより華奢な体躯のしろがねは、現代の子供らしい姿を模してもやはり少々小柄であることを否めない。くわえて、柔らかく真っ直ぐな黒髪が背の真ん中あたりまで流れている様が、常の姿よろしく襟足で几帳面に結わえていても――初対面で少女と間違われることも多いくらいで、つまるところ……老若男女集まる場所では勢い、物理的に人垣に埋もれがちになる。

 ならば大人しく留守番をしていればいいのに……とは、自分自身が一番思いはするが――堯之たかゆきのおかげで、ずいぶんと久しぶりに家の外へ出歩けるようになったのだ、伝聞だけでない現代の日常に、興味がわかないわけではもなくて。


 こがねと揃いの浴衣をみことに着せてもらい、堯之に連れられて、宵祭りの通りをそぞろ歩く。

 田舎町のことであれば、歩くのに困るほどの人出があるわけではないのだが――新しいバイパスとの分かれ道から小さな社まで、地区の公的団体の出し物や屋台の並ぶ区画は、旧国道沿いの三百メートルほどしかない。時間によっては、町内のよさこいチームが車の通行を制限された車道で演舞を披露するので、かろうじて二車線を保った道路の両脇にひとの滞留することも少なくなければ、それなりに混雑していると言えないものでもない。

 もとより、人工の浅い池に浮かべられた社も――ぐるり取り囲む程度の境内を持ち合わせるばかりで、さらには隣の建物の一階分にあたるほど道路から見て高い場所に置かれている。急な階段を上り下りする必要があれば、参拝前後の行列ができてしまうのも仕方がない。

 まして宵祭り――辺りは、街灯の他に提灯や可動式の照明器具で照らされてはいるものの、物影人影の落ちるとなれば混雑の中の子供に気付けない者があっても責められまい。


「わ……」

 反対方向の流れにぶつかられてよろめく――ぶつかった相手も、ごめんね……謝罪を告げながら流されていくようであれば、大丈夫である旨伝えきれないことがむしろ申し訳なく思うほどで……。

 ぽふっ…よろめく肩を抱き寄せて支えてくれた、長身の成人男子の腕が頼もしい。

「さすがに人が多いね」

 無事を確認する仕草に頷けば、すぐに腕は解かれてしまったのだけれど――。

 再び庇うように半歩ほど前を歩くその腕に、ちょん…手を伸ばして触れてみる。

「繋いどこうか」

 大きな手のひらが、子供の手を包んでくれた。



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