第18話:ヒヨコが如く!

 JUピー!が魔力不足になったことは、訓練中には一度もなかった。

 今日も家を出る前には、ソラちゃんに魔力の充填をしてもらっていた。

 それでも魔力不足になるなんて、どういうことだ?


 JUピー!に浮かぶ文字『消費魔力の少ないページ』というのが気になる。

 これは俺の予想だが、「現実離れした現象」ほど、魔力の消費が大きいのかもしれない。

 『キンキンキンキン』は体を動かすだけだからまだ良い。

 でも、『ズドン!』や『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』は一般的な物理法則を超えている(この異世界の物理法則が俺の世界と同じだと仮定してだが)。

 『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』なんて、何度も繰り返し使ってきた。

 『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』の乱用がいけなかったのか……。

 真面目に考えているのに『キンキンキンキン』とか『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』とか、なんとも格好がつかないなぁ。


 これからどうする?

 イチかバチか魔術を使わないで、奴を殴ってみるか。

 シャツを脱ぎ終わり、ベルトに手をかけているナーガスを見る。

 ……すごい胸筋と腹筋。

 深夜の通販番組で観る、トレーニング器具の成果を見せる外国人のようだ。

 ナーガスのバキバキなシックスパックは『貴婦人の手袋』の効果がなくても、俺の素手でどうにかなるとは思えない。


「キャー! だめー!!」


 女性陣の絶叫に思考が中断される。

 改めてナーガスを見ると、ベルトを外してズボンを下ろし始めている。

 ……ここまでの効果は狙っていなかったんだけど。

 でも、そのおかげで時間稼ぎができている。

 早く次の一手を考えないと……。


 そうだ!

 ほかに使えそうな擬音を手帳に書いておいたんだ。

 俺は胸ポケットに入れておいた手帳を取り出した。

 焦りと緊張で手汗がひどい。しかも、ナーガスのパンチを受け続けていたので、腕が震えてページがうまくめくれない。

 どうにか開いたページに書かれた擬音に目を走らせる。そのほとんどが『ズドン!』と大差ないようなアクション漫画の攻撃シーンだった。

 これらも『ズドン!』と同じく「魔力不足」とJUピー!に警告されるだろう。

 あーもっとシンプルな擬音を書いておけばよかった。

 『ぬぎっ』も使い方によっては強い魔術になるとわかった今、強そうな擬音ばかりにこだわっていたことに後悔してしまう。

 でも、漫画のシーンを再現できるなら、すごいことしたいじゃん!

 エロいシーンが意外とバトル向きって思わないじゃん!

 エロい擬音で敵を倒したら、ギャグ漫画みたいになっちゃうじゃん!


 ……ギャグ漫画?

 確かギャグ漫画の擬音もひとつだけメモした覚えがある。

 急いでページをめくっていくと、確かにひとつだけ書かれていた。

 これなら動作はシンプルだから、たぶん魔力不足にはならないだろう。


 先ほどと同じように、ナーガスと距離をとる。

 奴はちょうどズボンを足首まで下ろしたところだった。

 脱ぐまでの動作が遅いのは、ナーガスが必死に抵抗しているからだろう。

 恐るべき意思の強さと身体能力。

 俺も普通に戦えたら、バトル漫画みたいな胸熱な展開になっただろうに……。

 本当にすみません。


 十分に距離をとると、俺はメモに書いておいた擬音の準備を始めた。


「開帳、450ページ! 拡大解釈率、小」


 赤い文字を表示していたJUピー!がパラパラとページをめくり始める。

 そして、先ほどと同じようにナーガスも動き出す。

 怒りに我を忘れているようで、ズボンを足首に引っ掛けたまま、短い歩幅で忙しく足を動かして進んでくる。

 ……ヒヨコみたいで可愛い走り方だな。

 そう思ったのは俺だけじゃないようで、女性陣からも「可愛い!」という声が聞こえた。

 この女性たちは、ナーガスが何をしても絶賛するんだな。

 推しへの愛は無限ってことなのだろうか? ……よくわからないけど。


 ナーガスの移動速度が先ほどよりもかなり遅いので、JUピー!が指定したページにたどりついてもまだ時間に余裕があった。

 JUピー!の上に浮かんでいた警告文は消えている。つまり、この擬音は使用できるということだ。

 これで奴を倒せなかったら、JUピー!は魔力不足で俺には勝機はない。

 試してみるだけだ!

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