第17話:エロいシーンは意外とバトル向き

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 次の一手が決まった。

 だが、その前にナーガスとの距離をもっと広げないといけない。

 JUピー!は新たにページを開帳すると、使用中の魔術は効果を失ってしまう。これも訓練で判明したことだ。

 ナーガスの近くで『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』を解いたら、すぐにナーガスの拳が俺の頬にクリーンヒット。そこで試合終了となるはずだ。

 俺は『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』と低音で続けながら、レミさんのいる方へと走り出した。


「ちょっとポチ君。逃げても結界の外には出られないよ」


 レミさんが驚いた表情で俺を見ている。

 普段、好き勝手している彼女が俺の突拍子もなく見える行動に面食らっているのは、こんな状況であっても愉快に思えた。

 俺はレミさんに向かって強く頷く。

 『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』と言い続けないといけないので、言葉を返すことができないから。


「何か策があるってことだね、そのドヤ顔は」


 レミさんは眼鏡のレンズを光らせてニヤリと悪い顔をした。

 どやら俺があきらめたわけじゃないことは伝わったようだ。

 俺は結界を背にして、遠くにいるナーガスを視界にとらえる。ここで魔術を解除しても、奴が俺を攻撃するまで十数秒はかかるはずだ。

 よし! 覚悟は決まった!


「開帳、389ページ。拡大解釈率、大!」


 俺の声にJUピー!はパラパラとページをめくり始める。

 それと同時に俺が放っていた『ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ』のオーラが消えた。


「青年! 茶番はここまでだ!」


 身震いから解放されたナーガスが叫んだかと思うと、俺に向かって突進してくる。

 理不尽に動きを止められていたからか、かなりお怒りのようだ。

 それにしても、短足なのに俺よりも足が速い。

 女性へのパフォーマンスが過剰で忘れていたが、戦闘経験が豊富な剣士なんだよな。あの体形でも俺よりも機敏に動けて当然だ。

 そんなことはどうでもいい。早く呪文を唱えないとナーガスの攻撃を受けてしまう。

 いつもはあっという間だと思っていた、JUピー!のページをめくる動作が遅く感じる。

 120ページから389ページへの移行だから、めくるページ数も多い。

 速くしてくれ! ナーガスがここまで来てしまう!


「青年! これで終わりだ」


 俺の眼前にナーガスが立ち、右腕を大きく振りかぶっている。

 横目でJUピー!を見ると、ちょうど389ページに達したようでページをめくる動作が止まった。

 そのページに俺が記憶している通りのシーンと擬音が描かれているのか確認したかったが、そんな時間はない!


ぬぎっ


 俺が叫ぶのとナーガスが拳を振り下ろすのは、ほぼ同時。

 だが、奴の拳が俺の頬に当たるギリギリのところで止まった。

 そして、ナーガスはよろよろと数歩後退して立ち尽くす。

 震える手は鎧の留め具へと進んでいく。


 どうやら成功したようだ。

 俺が使ったのは、訓練で散々試した『ガッ』の次のページ。

 牛乳を胸にぶちまかれた友人・轟がふてくされながらタンクトップを脱ぐシーンだ。

 そこに「ぬぎっ」という擬音が添えられていた。

 ちなみに浩太の視点で描かれているので、轟は巨乳美女になっていてノーブラでタンクトップを脱いでいる。乳首の辺りは謎の光で消されているけど。


「一体これはどういうことだ!」


 ナーガスが困惑した表情で叫ぶ。

 必死に抵抗しようとしているようだが、『ぬぎっ』の効果で体は勝手に動いて革の鎧を脱ぎ始める。

 本来はタンクトップを脱ぐという単純なシーンだったので、拡大解釈率を上げて「ナーガスの着ているものを脱がす」という効果を狙った。

 拡大解釈率の増減をまだ把握できていないが、今回はうまくいったようだ。


「すごいです! ポチさん!」

「奴の防御力はゼロだよ! とどめをさせ!」


 レミさんたちの声を背に受けながら、俺はナーガスの様子を見ていた。

 奴は革の鎧を脱ぎ捨て、今はシャツのボタンに手をかけている。

 これで『貴婦人の手袋』の効果はなくなったはずだ。

 ナーガスがシャツを脱ぎだすと、観衆の女性陣がさらに騒ぎ出す。

「だめー!」とか「尊い!」とか「もっと」とか歓喜の声が響いた。

 その状況にちょっと引いてしまったが、ここで『ズドン!』と決めれば俺の勝ち。

 ちょっと卑怯な気もするが、これが俺の魔術だ。もっと魔術らしいコマだってあるにはあるが、擬音が描かれていないと使えないのだから仕方がない。


「開帳、227ページ! 拡大解釈率、小!」


 自分の意思に反して体が勝手に動いているナーガスは怒りで顔を真っ赤にしている。

 決闘っぽい戦い方じゃなくてすみません。でも、こっちも命がかかっているので。

 そろそろ指定のページになったころだろう。

 

 JUピー!を見ると、そこには今までにない現象が起こっていた。

 開いたページの上に赤い文字が浮いている。

 SF映画なんかでよく見る、空中に表示されるディスプレイみたいだ。


『魔力が足りません。使用中止するか、消費魔力の少ないページを指定してください』


 もう『ズドン!』は使えないってこと?

 俺の腕力だと、ナーガスをワンパンで倒せないんですけど……。

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