第7話:契約保障
「どういうことですか、勝負って? そもそも俺はなんで召喚されたんですか?」
勝負を受けた俺たちはレミさんの家に戻った。
召喚された部屋ではなくリビングのテーブルについた俺は、彼女に不満と疑問をぶつけた。
「そうカリカリしないで。召喚の理由は広場でも言った通り、怨霊の元凶を倒してもらうためだよ」
「俺、ただのおっさんですよ。戦いなんてできません! さっきの結界とか、魔術が使えるレミさんとソラちゃんで戦えばいいじゃないですか?」
「それは無理だね。私とソラは魔術師だけど、戦闘向きの魔術はほとんど使えないから。できるのは召喚や回復、魔除けくらいだよ」
「俺はそれもできないですけど。それに村長の話だと、他にも召喚した人がいるみたいじゃないですか?」
「あーそれかぁ」
スーッと視線を逸らすレミさん。
後ろめたいのか、視線を落としてソラちゃんの淹れたお茶を飲み始めた。
「ポチさん。急なことでごめんなさい。確かにポチさんには納得いかない状況かと思いますが、力を貸してもらえませんか? 実はほかの召喚は全部失敗だったです」
「失敗?」
「お姉ちゃんはとにかく強い異世界人を召喚しようとするので、契約がうまくいかなかったんです」
「どういうことですか?」
ずずっとお茶をすすっているレミさんを凝視する。
その視線に耐えられなかったのか、レミさんがやっと口を開いた。
「最初は存在自体が強い異世界人を召喚しようとしたんだけど、こっちの言うことを聞いてくれなくてさ。うまく契約書にサインしてもらえなかったんだよね」
「存在自体が強いとは?」
「炎の体の半牛人とか、電気生命体とか。怨霊なんて素手で倒せるくらい強そうなんだけど、そもそも文字を書く文化や知能がなくてね。それでソラの提案で、私たちと近い存在が住む異世界から召喚することにしたんだ。それがキミだよ、ポチ君」
「でも、俺みたいな戦いに慣れていない人じゃ意味ないでしょ?」
「ソラの提案は強い人物ではなく、その人物の持ち込む聖異物に頼るってことさ」
レミさんはテーブルに置かれた週刊少年JUピー!に視線を落とした。
こちらの部屋で話をすることになったときに、ソラちゃんが取りに行っていたのだ。
「これにすごい力があるとしても、どうして俺が命をかけないといけないんですか?」
「理由かー。それは契約してるからだよ。君は私たちの要求を飲む代わりにこの世界に拒絶されない体を手に入れたわけだからね」
「もし断ったら?」
「契約違反になって体が塵になる。でも、契約を果たそうとして死んだ場合は、契約保障で君は召喚前の状態で元の世界に強制送還される。つまり、君はノーリスクで怨霊退治に挑戦できるってわけ」
「そんな都合のいい契約ってあるんですか?」
「その契約内容にするために、相当な魔力を捧げてるんだよ。ソラの桁外れの魔力量があってできることなんだけど。ポチ君、どうする? トライしてみる?」
「……怖いし、理不尽だし、言いたいことも聞きたいこともたくさんありますけど、契約に従わないと死ぬのなら……やりますよ」
しぶしぶながらレミさんの要求に応えることにした。
このまま死を選ぶのは絶対に嫌だ。
あと、何もしないで村民が怨霊に殺されるというのも、ちょっとだけど村民の姿を見てしまったので後味が悪い。
ここで死んでも元の世界で死なないのなら、やるだけやってみよう。
「そうか! やってくれるか!」
「あ、でも、あの剣士がやる気なら、彼に任せればいいのでは?」
「それだと、君は契約違反になって死ぬよ」
「ああ、そうか。で、この週刊少年JUピー!をどうすればいいんですか?」
「やっと本題に入れるね。この魔道書に描かれた内容をこの世界で実現できるって言うのはさっき言ったよね」
「はい」
「その手順なんだけど――」
レミさんの説明によると、手順は3つ。
1、まず再現したいコマの描かれたページの指定。
2、再現したい描写の解釈率の指定。要はコマに描かれた内容をどれくらいの威力で再現するかを決める。
3、最後にそのコマに書かれた文字を呪文として唱える。
手順はかなり簡単だ。レミさんによると、魔術は術式を思念で構築する必要があるらしいけど、この週刊少年JUピー!は自動で術式を構築してくれるらしい。290円なのに、すごい有能だな、JUピー!。
「はい。説明はここまで。とりあえず、試してみよっか」
レミさんがJUピー!をパラパラとページをめくって中身を確認する。
この世界には漫画というものはないらしい。絵のついた読み物は絵本くらいだそうだ。
俺はふたりに漫画の読み方を教えるが、そもそも文字は聖遺物に変換されても日本語のままなので、ふたりは文字を読めないようだ。
とはいえ、絵だけでもなんとなく状況がわかるのが漫画の良いところ。
レミさんがどのコマを再現するか吟味している。
「よし。このコマを試してみよっか」
開いたJUピー!を俺とソラちゃんに見せて、あるコマを指さす、レミさん。
それは俺の予想とは違う意外なコマだった。
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