第6話:ハリウッド俳優系イケメン

「あの、そんなこと聞いてないんですけど?」


 俺はレミさんの横にさっと移動すると、群衆に聞こえないように小声で訴えかけた。

 召喚されたってことは、何か目的があるからだということはなんとなくわかっていた。

 用もないのに呼ぶことはないだろうから。よくある異世界モノの漫画だと選ばれし勇者になって世界を救ったりすることになる。


「うん。言ってなかった。君は村に入ってくる怨霊の元凶を取り除く手伝いをしてもらうために召喚したんだよ。よろしくね!」


 すごーく軽い感じで言われた。なんだろう、ムカつくよりも脱力感が大きい。


「レミ、こんな坊主にそんな危険なことができるのか? まだ俺の方が腕っぷしが立つと思うがな」

「村長さんの言いたいこともわかるけど、この異世界人はすごい方なんだよ!」


 この大男は村長だったのか。てっきり警備員かなにかかと思った。

 村長といったら、優しそうなご老人とか、気弱そうな中年とか、そんなイメージなんだけど。


「そうは見えないけどな……」


 品定めするように俺を上から下まで何度も見ている村長。腑に落ちないって表情だ。

 その不満が村民にも広がっていく。不安や不信の声がざわざわを大きくなってくる。

 その気持ちはよくわかる、俺だって俺に託すのは不安だ。


「心配しなくても大丈夫! この方は我々が名前を口にするのもはばかられる、高等な魔術師なのさ! 大船に乗ったつもりでいると良いよ!」


 レミさんは芝居がかったジェスチャーで俺をはやし立てて村民の注目を集めた。

 俺の名前を口にするもはばかられるのは、この世界では下ネタなだけで、尊敬や恐怖の存在ではない。

 どちらかというと、破廉恥な存在だろう。


「レミがそこまで言うのなら、まあ任せてみるか。ダメだったらまた違う異世人を召喚すればいいからな」


 村長が納得したような表情で頷く。

 待て。「また」ってなんだ?

 俺の前にも召喚された奴がいるのか?

 そして、そいつはどうなったんだ?

 急に命の危機を感じた俺は、レミさんに抗議しようと彼女の方を向く。

 そして、口を開きかけたところで――


「そんな坊主にやらせるくらいなら、私に任せてもらおうか!」


 キザな美声が広場に響き渡った。

 群衆の最前に屈強な優男が仁王立ちで立っていた。

 ムキムキの上半身に簡素な鎧を身にまとい、背中には大きな剣を背負っている。

 いかにも屈強な戦士という姿。

 顔は海外ドラマとかに出ているイケメンのハリウッド俳優のようだ。

 キザな戦士が俺たちの方に近づいてくるが、なんとなく違和感を覚えた。

 あ、この人、背が低いんだ。

 しかも、すごい短足。顔はイケメンで上半身は屈強。でも、短足。

 なんかすごいアンバランス。

 ……漫画のキャラみたいだな。


「ねえ、村長さん。この短足。誰?」


 レミさんが不満そうに村長に尋ねる。

 人の容姿をバカにする発言はこのご時世どうかと思うが、ここは異世界。

 俺の世界とは違い、まだまだ文化が幼いのだろう。


「この方は、村に滞在している行商人の護衛をしているナーガスだ。怨霊の話をしたら退治してくれると申し出てくれたんだ」

「それは私とソラに任されたお役目じゃん! なんでアンバランスイケメンに横取りされないといけないのさ!」

「なんでと言われても、お前さんたちがなかなか召喚を成功させないからだ。こちらもずっと待っているわけにはいかない。そろそろ冬支度のために森で猟をしないといけないからな」


 ぷーっと頬を膨らませて不服そうなレミさん。

 彼女には悪いが、俺は内心ほっとしていた。

 できれば危険なことはしたくないし、村の存亡とか責任重大なことを任されたくない。


「でも! お役目ができないと私たちがひどいことになるんだよ」

「そう言われてもな。こちらも村のことを第一に考えるとな……」


 村長とレミさんが言い合っている。

 あ、アンバランスイケメンが蚊帳の外にされて、ワナワナと肩を震わせている。


「では、村長! こういうのはどうだろうか。私とそこの異世界人、どちらが怨霊の討伐に相応しいか実戦で勝負するというのは」


 ちょっと待て! 俺がお前みたいなムキムキマンに勝てるわけないだろ!

 こっちは10数年デスクワークしかしてない中年だぞ。

 今は18歳の体になっているけど、そもそも俺は運動が苦手だ。

 それがいきなり実戦豊富な戦士と勝負なんて。いくらレミさんでも挑発には乗らないはずだ。


「よし乗った! その勝負受けて立つよ、ナースさん!」

「ナーガスだ! では早速勝負を……」

「それはちょっと待って。この方はまだ召喚されたばかりで、力の加減がうまくできないから、ちょっと調整の時間が必要かな。じゃないとナーガスさんが見るも無残な姿になっちゃうかもしれない。そうだあ、7日後に勝負でどうだろう?」

「そんなに待てるか!」

「だったら、大サービスで2日後! これ以上はまけられないよ」


 ビシッと右手の人差し指を立てて、自信満々に言い放ったレミさん。

 これって多分、最初から2日後にするつもりだったのだろう。俺も仕事でクライアントに納期の交渉をするときによく使うからわかる。

 いや、今は共感してる場合じゃない。

 2日後にこの短足イケメンを勝負させられることになってしまったんだ。

 

 俺、ここで死ぬのか?

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